第93話 修学旅行 いざ沖縄へ!
コバルトブルーの大空を、キラキラ翼を輝かせた旅客機が高度を上げながら南へと向かっていた。
≪ピ~ン♪≫
「“ただいまシートベルト着用のサインが消えましたが、飛行中は突然機体が揺れることがございますので、安全のため皆様お席ではベルト着用をお願いいたします。The seat belt sign has just been turned off. Please keep your seat・・・”」
キャビンアテンダントが明るい声で機内アナウンスをした。
「さあ、ご飯だご飯だ!」
「クルミ。ちょっと早くね?」
「だって朝ご飯食べてこなかったんだもん」
クルミが頬を膨らましながら心外そうに弁解する。
「どうして?」
「アンタみたいな食いしん坊が朝ご飯を逃がすなんて!」
ユカリとサヤカがびっくりして大きな声を出す。
「そんな大きな声出さないでよぉ。昔から遠足の前の日は興奮して眠れなくなるタイプなの。寝坊しちゃって慌てて飛び出して来たんだもん・・・」
クルミは周囲を気にしながら小さい声で言い訳けした。相も変わらず姦しい三人娘だ。
ボクたち麗慶高校2年C組は、修学旅行で沖縄便に乗っていた。1学年8組のうちABCDの4組160名が参加、残りのEFGH4組は1週間後に同じコースを巡ることになっている。
「ほら! そんなことよりキャビンアテンダントよ」
「うわあ! カッコいい! CAさんってスカーフの結び方が格好いいのよね! 憧れちゃうわ」
「あの制服、ランちゃんだったら絶対似合うわよ!」
「い、いいよぉ。どうしてわたしにばかりコスプレさせたがるわけ?」
「そりゃあ、ランちゃんはうちの高校のミスコン女王なんだもん!」
ボクたちは機内中央、両側を通路に挟まれた4人掛けのシートに座っていた。左側からユカリ、クルミ、ボク、サヤカの並び順で、ボクはいつも通り3人組に囲まれているのだ。
「クルミ? あんた本当にお弁当開けちゃったのね!」
「だってぇ・・・」
と、座席の様子を確認して歩いていたCAが、ボクたちの横で足を止めた。
「お食事ですか? お茶をお持ちしましょうか?」
「ありがとうございます。じゃあ仕方ない。私たちも早弁するか?」
「だね」
「それでは皆さんの分もご用意しますね」
という訳で、機上の人となって早々に弁当になってしまった。飛行時間は2時間半、まあ「旅のしおり」によれば、到着前に持参した弁当で昼食をとることとあるだけで、機内では自由に過ごして構わないことにはなっているのだが。
「あ・・・」
「きゃあ~♪ 可愛~い!!」
ボクがランチボックスのふたを開けたら、パンダがにっこり微笑んでいた・・・。
「今日は中華弁当なんだぁ! かたどりゴハンが海苔と胡麻で作ったパンダの顔。サヤエンドウを笹に見立てているのはアイデアよ! オカズは肉団子と春巻きに野菜炒め。ほんと美味しそうねぇ」
中華だからパンダか・・・いかにも母さんらしい発想だ。今日は修学旅行なので使い捨ての紙のランチボックスなのだが、ハンズかロフトで見つけて来たのだろうか、カラフルな箱に平ゴムのついたとっても可愛いデザインだった。
≪やっぱりランちゃんってママに愛されてるんだねェ!≫
声を揃えて言われてしまった。
「まあ! 素敵なお弁当ですね。お茶をどうぞ」
見上げると、にっこり微笑んだCAが、ボクにお茶を差し出しながら興味深そうに弁当箱を覗き込んでいた。そして弁当を手にするボクの方を見ると「あっ」と言う表情をした。
「ランちゃんのこと、気がついたみたいよ」
「そうそう! トイレから戻るときにキッチンでCAさんが小声で話し合っていたもん」
「なんて?」
「麗慶高校の修学旅行っていうからひょっとしてと思ったけど48Eのお客様は例のあの子よって」
頭上の座席表示を見上げると確かに「48E」と書かれていた。視線を戻すときに前方の仕切りから顔を覗かせたCAと目が合ってしまった。うう・・・確かにこっちを見ていた。
「ランちゃん有名人だから」
「この調子だと、きっと沖縄でも注目のマトよ」
「間違いないよね」
「人目につくのいやだよぉ・・・」
「大丈夫。私たちがついてるって」
時刻は昼過ぎ。那覇空港に到着すると、さっそく4台のバスに分乗して観光めぐりすることになった。ボクたち2年C組は3号車だ。中天の日差しがジリジリと照りつけ気温も25℃近い。さすがに南の島だ。11月だと言うのに行き交う人たちは皆、半袖を着て歩いている。
「“はいた~い。うちな~へようこそ!”」
バスガイドは二十歳そこそこの明るいお姉さん。今日から帰りの飛行機に乗るまでの4日間、ボクたちといっしょだ。マイクを握った白手袋が窓から差し込む陽光を浴びて眩しい。
「“ネエネエのこと、よろしくねぇ! ところでさぁ、みんなの学校、沖縄では有名なんだよ~”」
「え? ガイドさん、うちの高校知ってるの?」
「“ネエネエでいいよ。吉祥寺の麗慶高校だよね? 行ったことないけど知ってるさ~”」
「ええ? どうして?」
「“神隠し少年のいる学校だよねぇ? 沖縄だってモグラさんの番組は放送されてるんだよ~!”」
「この子がそうで~す!」
あ・・・サヤカがボクの手をつかむと上に持ち上げた。
「“君がそうなの!? でえじチュラカーギーな子がおるとは思ったんさぁ。やっぱり君がそうだったのかぁ!”」
「ガイドのネエネエ。ランちゃんは有名人だし可愛いからチョッカイ出されやすいんです。気をつけてやってくださいね」
真剣な目をしてサヤカが言った。修学旅行でボクが嫌な思いをしないか心配してくれているんだ・・・。
「“よ~し! ネエネエに任せてよぉ”」
バスはボクたちを乗せて島の南側へとひた走る。沖縄は島だから直ぐに一周しちゃえるくらいの大きさなのかと思っていたけど結構な距離だ。
「“いまバスが走っているところはねぇ、沖縄本島の南部なのさぁ。第二次世界大戦のいちばん最後の年、アメリカの陸軍と海兵隊が本島中西部に上陸して、ずうっと地上戦が行われた激戦地だったのさぁ。沖縄のひとたちはどんどん島の南に追われて地下壕に隠れるしかなかったのよぉ。沖縄戦は日本で唯一住民を巻き込んだ白兵戦になって3カ月にもおよんだんだ。そして全体で20万人もの尊い命が失われたんだよぉ”」
ボクたちは、車窓を流れて行く美しい空と海そして白い穂を実らせたサトウキビ畑を見つめながら、事前学習で歴史の教師から教えられた太平洋戦争末期の悲劇、沖縄戦に思いを馳せた。
「泣いてるの?」
サヤカがボクの顔を覗きこみながら言った。
「え? あれ? ほんとだ・・・涙が出てる」
資料館で当時の記録展示を見た後だった。ひめゆりの塔の前に立ったとき、ボクは自然に手を合わせた。そうして姫百合のレリーフと犠牲者の名前を見ている内に、文字が霞んできてしまったのだ。
「わたしたちと年齢の変わらない女の子たちにとって、どれほど恐ろしいことだったろうって思ったら涙があふれて来ちゃった・・・」
「ランちゃんは、男の子なのに感受性が強いんだね」
そう言いながらサヤカはハンカチを取り出すと、ボクの頬を伝う涙をそっと拭ってくれた。
その後、ボクたちは摩文仁の丘に登った。
丘の斜面に林立する立方体は、全て慰霊碑だ。
20万人・・・言葉にするのは容易いけど、百を超える慰霊碑を巡り刻まれた戦没者名を目で追っていくうちに、60年前これほど多くの人がこの地で命を落としたという事実の重さを噛みしめた。
真っ青な空と美しい海、緑豊かな田園に降り注ぐ南の島の太陽・・・ボクは、それまで観光リゾートとしか見えなかった風景の中に、哀愁を帯びた波長が潜んでいるのを感じた。
「これは凄いかもぉ!」
ボクの手を引いていたユカリが、前方を指さした。
巨大な板状の岩盤が岩山に寄り掛かっていた。岩と岩との間にはまるで幾何学で図形を描いたみたいにシャープな三角形の空間がある。
「行こう行こう!」
すぐ後ろを歩いていたクルミが、ボクの空いていた方の手を握るなり巨大な直角三角形の中へと引っ張りはじめた。サヤカ、クルミ、ユカリの三人娘は片時もボクをひとりにしないよう常にフォーメーションを組んでいるみたいなのだ。だから、バスを降りて歩くときには必ず誰かが手を繋いでくる。幼稚園じゃあるまいしと思うのだが・・・。
「“ここはねぇ、斎場御嶽という沖縄でいちばん神聖な場所なんだよぉ。この三角形の洞門はサングーイっていうんだぁ。ユネスコの世界遺産にも登録されているんだからねぇ”」
バスから降りて見学する際にはガイドのネエネエも旗をもって引率しながらいつも傍にいて、ボクの事を気遣ってくれている。おかげで目の前でばっちり観光ガイドの説明を聞くことになる。
「“沖縄の島々をつくった神様が降りてきた場所なので、ここで琉球王国の人たちはお祀りしたのさぁ。祭祀を司るのは神女さんに限られていたから、おチンチンをつけた人は絶対入れなかったんだよぉ”」
≪や~だ~≫
≪あははは≫
みんなは笑ったけど、ボクはドキッとして一瞬手に力が入ってしまった。
「なあにランちゃん? いま身体がこわばったみたいだけど・・・」
「あ、気にしないで。いまの話で当時のことを思い浮かべたらなんだか力が入っちゃった」
それが聞こえたのか、ガイドのネェネェがさらに説明をはじめた。
「“それとねぇ。いま何か感じた子もいたみたいだけど、ここは凄いパワースポットなんだよぉ”」
≪ヤッタ~!≫
≪ヨッシャ~!≫
巨大な直角三角形の中心部に集まると、クラスの連中が思い思い手を合せたり、両手を上に差し出したり、眉間にしわを寄せてうなったりしはじめた。ボクは、ようやく手つなぎから自由になったので巨大空間を抜けて日が差し込む奥まった一画に出てみた。海から吹きこむ風が心地よい。風の通り道を探して見回すと珊瑚石を積み上げた段と生い茂った熱帯樹の中に隙間があった。そしてそこからは真っ青な海が見えた。
「あ、島だ」
「あれはね、久高島という神の島だよぉ。ニライカナイから来た神様があそこに最初に降り立ったのさぁ」
ガイドのネェネェが隣にいて、ボクと並んで島を見ていた。
「あの島には、いまでもノロと呼ばれるオバアたちがいるんだよぉ。ヤマトでいったら巫女さんだねぇ」
巫女・・・神様に仕える神聖な仕事・・・いまでも女でなくちゃダメなことがあるんだ。男の子だった女の子はダメなんだろうか・・・。ボクはそんなことを思いながら、もう一度東の海に浮かぶ小さな島に目を凝らした。
夕方、宿舎のホテルにチェックインして修学旅行初日の夕飯を済ませると、その刻は来た。
≪プチッ≫
≪プチッ≫
ボクはトイレの個室で、自分の男性自身を“ソーセージクレープ”へと手探りで加工する。
「さあ、これでできあがりっと。あとは覚悟を決めて・・・スパに向かうだけだ」
風呂場で母さんにタックを見られてしまった翌日、ボクは保険医の水沢に相談していていた。
学校側の方針で、修学旅行中ボクは女子部屋に宿泊することになっていたが、さすがに大浴場で一緒に風呂に入ることは想定していなかったみたいだ。そりゃあ、いくらボクの身体が女性化していても、男性器を露出して裸の女の子たちに交じって入浴するのはまずいだろう。
折角の思い出づくりの修学旅行でもあり、できることなら女子たちの願いを叶えてあげたいと水沢は言った。生徒思いの言葉に、ボクはちょっと感動してしまった。別に美人保険医が困っているのを見かねたという訳ではないが、ボクは自分の身体に残されている“仕掛け”のことを話すことにした。
見たいと言うのでボクはタックをして見せた。その結果「まったく女の子と区別がつかないわ」と太鼓判を押してくれて、校長先生たちには水沢から説明をしてくれることになったのだ。学校側の許可が出てから今日まで、ボクは鏡なしでもできるように家で何度も練習して来たのだ。
「あっ・・・お待たせ・・・しちゃった?」
ドアを開けるとユカリたち三人娘がボクの出て来るのを待っていたのだ。
「覚悟はいい?」
「ランちゃんが逃げ出したりするんじゃないかと思ってさ」
「逃げないよぉ。いったん覚悟を決めたことだしね」
「へえ、ランちゃんって男気があるんだね」
「一応男だし・・・」
「じゃあ行こうか?」
「うん」
≪うわ~あ≫
≪きれ~え!≫
ホテル内にあるスパの脱衣場で、ボクがブラジャーを外した途端、周囲から声があがった。
体育のときとか女子更衣室でもさんざん見ていると思うのだが、みんなボクが裸になるのに注目しているようだ。ここで躊躇したら脱げなくなる。ボクは気にせず、ショーツの縁に手をかけると一気に引き下ろした。
≪きゃ~あ! ・・・あれ?≫
「なあに? なんか変?」
「い、いや。ランちゃんのアソコがどうなっているのか、ずっと想像していたんだけど・・・」
「・・・ふつうに女の子なんだもん」
「・・・っていうよりずっと綺麗。ちゃんとムダ毛の手入れしているんだねぇ」
ユカリたちが、ため息まじりに言う。なんだか気が抜けたというか、ホッとしたような感じだ。とはいえその間も遠慮なくボクの股間を見つめていたのだが。
「なんだか・・・がっかりさせちゃったみたいだけど。これはね。タックって言って、皮膚の間に包みこんで隠しちゃってるの。見せた方がよかったかな?」
と言いながらも、裸の女の子の群れを前に、ボクは目のやり場に困り俯いてしまう。
「いや、そのままそのまま。その方がわたしたちも意識しないでいられるし」
「うんうん」
「んだんだ」
「しっかしこれが男の子だなんてねぇ!」
「そんなこと、とっても信じられないわぁ!」
「なんて綺麗な肌なのかしらぁ!」
「お姫様やっていただけのことはあるわぁ!」
女の子たちのため息交じりの声が、浴室の高い天井に反響する。
「オッパイは自前なんでしょ?」
「そのヒップの膨らみも自前なの?」
「う、うん。女性ホルモンを投与されたからこんな身体つきになったんだけど」
矢継ぎ早の質問と遠慮のない視線を浴びながら、ボクは伏し目がちに答える。
なにしろ普段セーラー服に包まれているクラスメイトの女の子たち15人の全裸に取り囲まれているのだ。ふつうの男子高校生であれば夢のようなシチュエーションなのだろうが、女体化させられて逆に自分の全裸を鑑賞される立場になっていては喜んでいる余裕はない。
ボクとしてはタオルで下腹部だけでも隠したかったが、誰ひとりそんなことをしている子はいなかった。仕方なくボクも全裸をさらけ出しているのだが、女の子たちの入浴時にみせる大胆な行動様式は意外な感じがした。
「ウェストの細さったらないわ!」
「モデルさんみた~い!」
「女性ホルモンだけでそうなったの?」
「男と女じゃ骨格の構造が違うでしょ?」
と言いながら手を伸ばしてボクのウエストのくびれを撫でた。地球の女の子は、惑星ハテロマに比べて接近距離が近く接触頻度も少し高い気がする。
「あ、あっと・・・これは最初の頃しばらくの間、ウェストを締め付けるコルセットを着けさせられたの。そのままでは女の子みたいな腰つきにはならないからって。あれ着けるとお腹を締め付けられるから食も細くなるみたいなんだ」
「それだとダイエットもできるんだぁ」
「わたしもそのコルセットが欲しい!」
「クルミが着けたってランちゃんのようにはならないわよ!」
ちょっと小太りでふっくらとした頬をしているクルミが、悲しい目をして不服そうにユカリを睨んだ。
「ランちゃん、やったことってそれだけじゃないんでしょ?」
「え? あ、そうだった。地球に帰るためには昔の質量に戻らなければならないって言われて、野菜と果実中心の食事療法と柔軟体操をさせられたっけ」
と言いながら、ボクは照れ隠しに上半身を屈めると床にペタッと手をつけた。
≪おお~っ≫
≪やわらか~い!≫
歓声があがる。
「やっぱりね!」
「だからクルミ、努力しなくちゃ絶対に綺麗にはなれないのよ!」
ユカリの言葉に、全員が頷いていた。
最初はボクも目のやり場に困ったけど、自分自身女の子の身体つきなものだから徐々に“異性”という違和感が薄れてくる。なにしろ女の子たちはそれこそ丸出しで平気な顔をしているのだ。強い刺激でも絶えず受け続けば人間誰しも慣れて来てしまうものなのだ。
そうすると見えてくるものがある。ひと言で女体と言うけれど、よく見ればそれぞれ個性があるのだ。
乳房の形や大きさの違いはもちろんだけど、乳輪や乳首の大きさや形、色もずい分違う。身体付きも、なで肩いかり型に柳腰に安産型と様々だし、首の細さ長さも色々だ。下腹部だって、細い縮れ毛太い縮れ毛、その茂みの間に割れ目の1本筋が見える人見えない人、あそこの位置だってひとりひとりパターンが違う。ショーツをはいた状態で比べても、タックしていない普通の状態のボクよりも前が膨らんでいる子もいた。
彼女たちに言わせると、ボクの身体は抜群のバランスで、これまで見て来た数ある裸の中でもいちばんスタイルがいいそうだ。
ボクたち2年C組女子はお互いの身体を確認し合いながら、ジャグジーに乾式サウナ、ミストサウナといったスパの全ての施設を試し文字通り“女の長風呂”を満喫した。
「で、エリカはバスケ部のカレシとはうまく行ってるの?」
「えへへぇ」
「笑ってごまかさない」
「どこまで行ってるの? 白状しちゃいなさいよ」
「いやあだぁ!」
ボクは、布団の中で女の子たちの寝物語を聞かされている。
部屋は10畳の和室で、6つの布団を3つずつ枕を向かい合わせにして敷いていた。ボクは真ん中のひとつをあてがわれていた。ボクと同室になったのは、厳正なる部屋割り抽選会で“当たりくじ”を引いた女の子たちだ。いつもの3人娘ではサヤカだけが引き当てていた。
「じゃあさ、今度はランちゃんの番ね」
「え・・・」
「いま好きな男の子っているの?」
「・・・い、いない、かも」
ボクはついにガールズトークに巻き込まれてしまった。
精神科の女医に勧められて、女の子に成りきることによって女の子でいたいと思っている自分がいるかどうかを試しているけれど、ボクはいまだに男を恋愛対象として見ることができない。クラスの仲間やゴルフ部の連中とそうなった状況を想像しただけでも背中がゾワッとして冷たい汗が伝うのだ・・・。カッちゃんですらそうなのだ。
「え? じゃあ好きなのは・・・もしかして女の子?」
「そ、それも、ない、かも」
ボクがそう答えたら、なんだか安堵したような空気が部屋の中に流れた。
「ランちゃんはノンケなのね」
「ノンケ?」
「じゃあ、あっちでお姫様やっていたときにはどうだったの?」
そうだった・・・あの頃はボクにも確かに好きな異性がいたっけ。
ベルに、女の子を好きになれば男の精神を保てるからと勧められて、王立女学院随一の美少女、レア先輩に恋したのだ。
それが女性化が進んで、可愛く着飾らされている自分を見てうっとりするようになってしまったのだ。あの時が、危うく女の気持ちに成りかけた最初の兆候だったのかもしれない。
そしてユージンとの出会い。確かに彼の胸に抱きしめられたいと、思いが募った時期もあったのだ。でも結局は地球帰還を賭けて、女神杯に勝つことに集中することで男としての気持ちが保てたのだ。
だから惑星ハテロマで最後に好きになったのは女の子。ローラだった。
そう考えると、ボクにとっての恋愛対象はやっぱり女性なのだ。
「んん・・・好きな女の子ならいたけど」
≪ええ~っ!≫
「なあに? わたしが女の子が好きだと変?」
「ランちゃん、もしかしてレズビアン?」
え? レズビアンというのは女同士の場合でしょ。
「いや・・・忘れてるかもしれないけど、わたし男だから。男の子が女の子を好きになってもレズじゃないから」
そう言った瞬間、みんな沈黙してしまった。
「あ、そうか!」
「そうだよね!」
合点がいったのか、しばらくして反応が出始める。
「お風呂でランちゃんの裸を見た後だし、おチンチン付いていなかったからどうしても男の子には思えなかったのよ!」
なんだそういうことだったのか。
「付いていなかったわけじゃなくって包み隠していたの」
「それじゃあ聞くけど・・・ランちゃん、そのおチンチンを女の子に使ってみたことあるの?」
え? それって普通にセックスのことじゃないか。さっきからの恋バナを聞いていると、身体の関係をもっちゃっている子もいるみたいだけど・・・。
「そ、それは・・・」
「ないんだぁ」
「やっぱりねぇ」
なんか小バカにされたような気がする。
「ランちゃん、男の人に抱かれたことはある?」
え、そっち? お姫様抱っこされたことは2度だけど、この場合は違う意味だと思う。
「そ、それも・・・」
「それもないみたいねぇ」
「ランちゃんはオクテなんだよ」
やっぱりなんか小バカにされている。
「晩熟でいいの! ランちゃんは身体は女の子だけど男の子の部分もあるわけで、まだまだ女の子としては初心者なんだから! ランちゃんも、言われたからって気にしなくていいからね!」
枕を並べているからお互いの気配は感じるけれど、電気を消しているので表情は分からない。でも明らかにサヤカが憤慨した口調で言ったのは分かった。
「サヤカちゃん・・・」
「さすがKRMM会の会長さんだわ。しっかりヒロインをガードされちゃった」
その晩はそれでお開きとなり、初日の疲れもあってそのまま寝入ってしまった。
「・・・ううっ」
うなされて目が覚めると、ボクは布団の中で身動きができなくなっていた。
「金縛り?」
と思ったが、どうも違うみたいだ。どうにか首を動かしてみると、ボクの腕をしっかり抱きかかえ女の子たちが、両サイドでくっついて眠っていた。ボクの両隣の布団で寝ていたふたりだ。
≪ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ≫
その時、目覚まし時計がけたたましく鳴り始めた。
「ふわ~あ。もう起きる時間かぁ。ぐっすり眠っちゃったわぁ。ランちゃん、おはよう。ん? あら? こら! アンタたち、何してくれちゃっているの! 隣の布団になったからってランちゃんに抱きついたりして! 今夜は絶対ローテーションするからね! さあ、起きた起きた!」
こうして2日目の朝は、いきなりサヤカのエキサイトモードから始まった。