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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第1章 「女性化プロジェクト」
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第7話 ラン「性別:女性」にされる

ハテロマに来たばかりの頃は短かったけど、今では髪が肩に届くところまで伸びてきた。

 

あれから5ヶ月、ヴェーラ博士とそのサポートチームの厳格なカリキュラム管理によって、ボクの見た目はすっかり女の子になってしまった。

 

徐々に変化してきたので自分ではなかなか気づかないんだけど、日々の食事から入浴時間や睡眠時間までバッチリ管理された美白とスキンケアで、抜けるように白い素肌になっているみたいなのだ。永久脱毛処理をしてくれるスタッフの女性はしきりと、羨ましい、男に負けてくやしいと冗談めかして軽くツネったりする。

 

髪は女性ホルモンの効果なのか、以前より細く柔らかいストレートヘアーになってきて、触り心地がいいのかよく頭をなでられる。まあ、ここのプロジェクトの女性スタッフたちからすると、ボクって小さくて可愛いサイズみたいだから。

 

手と足は念入りに手入れされ、すっかりほっそりしてしまった。ネイルケアされた指先を見るとまるで女の子。自分の手じゃないみたいだ。

 

さすがにウェストとヒップのラインは、女性ホルモンだけでは難しく、昔の人気野球マンガのナンチャラ養成ギプスみたいに、体型補正用コルセットを寝ているときにも付けさせられている。締め付けられるとお腹を圧迫されてあまり食べられないので、食事の量も減ってきた。もともと細い方だったけど、いまでは華奢って言った方がいいくらいになってしまった。

 

 

 

「ランちゃん。ランさん。キリュウさん。キリュウルルランッ!!アナタ何しちゃってくれてるの?」

「え?」

「小顔で色白で可愛いけりゃなんでも通ると思ったら大間違いなんだからね!」

「言いがかりです。ボク、何も悪いことしてません!」

「まあ、優等生ぶって小憎らしいこと!何もしてないじゃないの、何もできていないことが問題なんでしょ、アナタ?」

「・・・じゃあ、どうすればいいんですか?どう答えればいいんですか?・・・正解はなんなんですか?」

「そう、そのモノ言いが男なのよ。まだまだねぇ」

「・・・い、いじめないでくださいよ。ボクだって、いっぱいいっぱいなんですから」

「キリュウ君、キミねえ、こんなことで負けていたら女は務まらないわよ」

「うう・・・先生の言うとおりだ。オッパイとオシリが女の子になっただけじゃ、女として認めてもらえないんですよね・・・自分の身体になってみてはじめて分かりました」

 

ボクは悔しいのと最近とみに感情の起伏が激しくなったのとで思わずウルウルしてきた。ヴェーラ博士は、カリキュラムも半ばに来てこういう女子会話を仕掛けてボクをいたぶる、失礼、教育することが増えてきた。

「うふふ、そんなに落ち込まなくってもいいわよ。ランちゃんはよくやってると思うわよ」

ボクはことあるごとに博士から女性特有の会話法、話題へのアプローチ術をたたき込まれている。これをマスターしたあかつきには、きっとお姑さんとチョウチョウハッシ渡り合える立派な嫁になれるに違いないと思う。

 

 

 


「違う!そこ間違うかなあ。裏声になっちゃダメだって言ってるでしょ?」

「そんなこと言っても・・・声帯のコントロールが難しくって」

「いまのは女の喋り方で話す男よ!声の仕組み理解してるよね?」

「頭では分かっているけど身体がついていかなくって・・・」

「もともと声帯の長さが違うんだから、使う部分と使わない部分をしっかりイメージして声を出さないと」

「・・・それができれば苦労しませんよ。女声に近い高めのところで声を出しているから、それより上にいくと苦しいんですよ」

「じゃあ仕方ないわね。いっそ短くしちゃおっか?」


睾丸切除の一件以来、ヴェーラ博士は恐ろしいことを平気で口にするようになった。ボクがこれ以上不可逆的なことを身体に受け入れたくないと知っているので、脅しの言葉で使ってくるのだ。

 

「そんなぁ・・・声まで変えられたらもう男には戻れないですよ」

「だったら自分の力でどうにかしなさいよ!」

「うう・・・分かりましたよ。やればいいんでしょ!」

 

こうしてボクは鬼コーチにビシビシ鍛えられ、ついには甘く可愛らしく澄んだ声を出せるように改造されてしまった。自分で言うのも何だけど、こんな声で話しかけられたらメロメロになっちゃいそうだ。

 

 


 

「ホラ、まっ直ぐ歩いてごらん」

「こんな高いハイヒール、怖くて歩けません!」

「ランちゃん、アナタふつうのコより背が低いんだからヒールの高い靴履けないと差がつくのよ?」

「でも、絶対コケますって、捻挫しますって」

「いいからやんなさい!医者がついてるんだから。そう、そういう感じで・・・こら!膝を伸ばす!手でバランスとらない!アヒルじゃないんだからヨチヨチ歩かない!」

「自転車だって補助輪付きから練習するじゃないですか・・・いきなり無茶ですよ」

「ゴチャゴチャ言わない!かかとじゃなく爪先で歩いてごらん。せっかく綺麗な足しているんだから颯爽と歩かないともったいないわよ」

 

こうしてボクはまた、鬼コーチにビシビシしごかれ、ついにはピンヒールでモデルウォークできるようにバージョンアップされてしまった。自分で言うのも何だけど、ボクの素足ってヒールのあるサンダルがとてもよく似合うんだ。

 


 

 

「はい、スマイル!そうじゃないって。そんな引きつった顔されてもねえ。分かんないかなあ、笑顔よ!え・が・お!」

「歯を見せて笑う習慣なかったもんで・・・」

「女の子の最大の武器はスマイルだからね!」

「面白くもないのに笑えませんよ・・・」

「女の子がゴチャゴチャ言わない!笑顔を作っている内に楽しい気分になるもんなの!さあもう1度!」

「ニッ。こんな感じですか?」

「・・・ランちゃん、それ本気でやってる?」

 

こうしてボクはさらに、鬼コーチにビシビシ特訓されて、ついには顔の表情を作る筋肉を総動員して、コケティッシュでもピュアでも、ベストスマイルできるキャラにイメージチェンジさせられた。自分で言うのも何だけど、ボクが笑顔になるとパールホワイトの小さく綺麗な歯並びがキラッとして周りまで明るくなるみたいなんだ。こういうのを明眸皓歯っていうのかも。

 

 


 

「パシーッ!」

研究所にある練習場でボクがゲオルのショット練習をしていると、パチパチパチッと後ろで拍手があった。振り返ると、宰相閣下がヴェーラ博士と立っていた。

 

「いや、素晴らしい。ますますショットに磨きがかかったね、アラシ君・・・いや、ラン君」

閣下はそういいながらボクを、頭のテッペンからつま先までたっぷり二往復半見てから、改めてボクの顔をマジマジと見た。今日のボクは、ノースリーブのフード付チュニックに7分丈レギンスをはいて、髪は束ねてポニーテールにしたのをクロッシェ帽の後留めの間から垂らしている。

 

「どうですか?キリュウ君、女の子に見えますか?」

ヴェーラ博士が、自信たっぷりに質問した。

 

「実に素敵なお嬢さんになったものだ。これなら、よもや男だとは思うまい。いや、それ以上だ。このコの心をとらえたいと、男なら誰もが夢中になるに違いない」 

「閣下のお褒めにあずかり恐縮です」

と博士。ボクのことなのにモノかペットみたいだ。

 

 

 


練習場から博士の執務室に戻った。ボクは建物の外に出てボールを打っている方が好きなんだけど、日焼けするからってきっちり時間管理されているんだ。

 

「あの・・・閣下。地球ゲートの件はどう進んでいるんでしょうか?」

「まだだ。キミが女神杯に出場するまで、まだ2年以上ある。キミはこのプロジェクトにいったいどれほど、国費が投入されていると思うのかね?キミがまず約束を果たすことが先だとは思わんのか?」

 

なんだか話に聞く、江戸時代に吉原に売られていった花魁みたいだ。借金のカタに自分の身を取られて、行った先でも綺麗になるための費用がどうのと借金を上乗せされていくんだって。

ひょっとしてボクは、綺麗な女の子にさせられて二度とここから出られなくなるんだろうか?

 

「まずは、女神杯だよ。キミは女神杯に勝利することだけを考えていればいいんだ」 

「そうよ、ランちゃんは世界的な・・・アイ・・・アイドルだっけ?になるんだから!」

国家レベルでボクを騙そうとしているんだろうか?

 

「なんだ、その目は。わたしを疑っているのか?」

「・・・こんな姿にさせられて・・・もう取り返しのつかないこともしているんですよ?・・・ボク・・・ボク、地球に帰りたい・・・んぐ」

「泣くことはないじゃないか。可愛い涙目して切ない声でそんなことを言われると“鋼の宰相”セナーニ閣下でも心が動く」

「このコったら!いつの間にそんな手練手管覚えたのかしら」

「ちがいます!そんなんじゃありません。ボク、約束は必ず守ります・・・だから閣下も約束を忘れないでください」

「ああ。分かったよ。国王陛下もキミのことにいたく関心をお持ちだ。もちろん地球から来た女神としてだがね。キミを不幸にするヤカラがいれば即刻罰せられかねないのだよ」

ボクはちょっとビックリした。

 

「国王がボクのことを?」

「そうだ。だから臣下の身として、キミが不幸になる話は決してしてできないのだ。少しは安心できたかね?」

「ところで閣下、今日はどのようなご用件で?」

博士がお茶をすすめながら尋ねた。

 

「いよいよ来月はプロジェクトの第2段階、王立女学院に編入だったね?そろそろキリュウ君の法的処遇を決めておかなければならないので用意してきたのだ」

「法的処遇?」

ボクは意味が分からないので、また騙されるのではないかと不安になってきた。

 

「キミはゲートから突然現れたのだ。この世界に自らを証明するものも、よって立つ国籍もないではないか」

確かに、ここでいま外の世界に放り出されたら、帰るところもお金もなく、自分が何者であるかも説明できないカヨワい女の子でしかない。

「キミが研究所を一歩出た瞬間から、何をするにも必要となる大切なものだ」

と言って宰相閣下はカードを手渡した。

 

「ラン・キリュウ。性別・・・女性。」 

「どうかね?これで法的に見てもキミは女だ」

「よかったわね!ランちゃん」

 

ボクの気持ちは複雑だ。国の代表として競技大会に出場する以上は、こうなることが予想されてはいたんだけど、こうして身分証にして突きつけられると・・・。

 

「なあに浮かない顔してんの」

「・・・ついに女になってしまったのかと」

「取引で合意した話ではないか。まあ、気持ちも分からんではないがね」

「キリュウ君。アナタ、今では女の私から見ても、とっても綺麗な女の子よ。もっと自信をもっていいのよ」

「・・・そんなこと言われても、あんまり嬉しくないです」

「割り切って男に戻るまでの間、楽しんじゃいなさいよ!綺麗な女の子だからこその楽しみっていっぱいあるんだから」

 

手に取った証明書の写真に目を落とすと、どう見ても女の子としか見えないボクの顔が写っていた。髪がまだ肩まで届いていないところを見ると、ひと月位前のものだろうか。確かに可愛いかも・・・あれ?

 

「あの・・・ここにある現住所って」

「ああ、それかね?今後キミが住まう場所だよ」

「どれどれ?あら、閣下もしかしてここは!」

「ふふん。博士はわたしの意図が読めたようだな」

「なるほど!そういうことでしたか。さすが閣下ですわ」

「?」

 

ふたりの会話が全く分からないまま、ボクのカリキュラムの仕上げは進んでいった。

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