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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第8章 「またまた始まる学園生活」
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第86話 実力テストと男の子テストの結果は?

≪キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪≫


「さあ、お昼よ~お昼よったら!」


午前の授業が終わると直ぐに、ムクミこと龍ヶ崎サヤカがボクの机を真後ろにある自分の机と向い合せにくっつけてくる。


「勝手にひとの机を動かすな!」

「あら、どうせ最後には一緒にお弁当食べることになるんだしぃ。いいじゃないの」

「ボクは、黒板に向かってひとりで食べたいの。あ、オマエらも勝手に机をくっつけて来るんじゃない!」


両隣の羽矢瀬クルミと早乙女ユカリが机を寄せてきた。


「いいじゃん。女の子はね、お弁当は一緒に友達同士おしゃべりしながら食べるものなの」

「ボクは、男だ! それにオマエラは友達じゃない!」

「ふ~ん。やっぱ佐久間君とがいいんだぁ。でも、ランちゃんが一緒だと佐久間君が学校中から妬まれちゃうんだからね!」

「それにもう佐久間君、パン買いに購買へ行っちゃったよ」

「いいかげんその無駄な抵抗、やめたら?」

「ほっとけ!」


いつも昼時になるとこうして激闘が繰り広げられるのだが、ボクは今日もまた女の子たちの弁当の輪に巻き込まれてしまうのだった。


「あ・・・」

「うわ~あ!」

「可愛~い!」


ボクが、ランチボックスのふたを開けた瞬間女の子たちから黄色い歓声が上がった。ペンギンたちが2列縦隊になって円らな瞳でこちらを見上げていたのだ。


「ランちゃん、お母さんにとっても愛されてるんだねぇ」

「黒い部分って海苔じゃないか。パンに海苔ってどうよ。これって味よりデザイン重視でやっていないか?」

「ま~た憎まれ口なんか叩いちゃって!」

「それに、ゆで卵で作ったシロクマ。これ変でしょ。南極と北極が一緒になっちゃっているんですけど」

「極点つながりなんだからいいのよ! それより早く食べてみて」


女の子って、可愛い可愛いって言いながら平気でキャラを模った食べ物に噛みついているけど、ボクは気分的にちょっと抵抗がある。ラップを解いてから一瞬ためらって、ボクは思い切ってガブリとペンギンの頭にかぶりついた。ううっ、胴体から首がもげる感触が・・・。


「あ・・・海苔の下にワサビ漬けが塗ってあった」

「ほら、一緒に巻いてあるスライスチーズとならお味のバランスがいいんじゃない?」

「これなら美味しいかも・・・」

「へえ~ドリンクはブルガリアヨーグルトなんだぁ。しっかり美容対策してるぅ」

「ねぇ? お母さんはランちゃんのことをちゃんと考えてくれているのよ。なんてったって可愛い娘なんだもん」

「む、娘言うな!」






昼メシを食べ終えて廊下に出てみると、階段ホールの前に人だかりができていた。


「実力テストの結果が掲示板に貼り出されたんだよ!」

「さあて、1年遅れで復帰してきたランちゃんの実力はいかほどかいな?」

「これでもし赤点だったら、放課後は強制補習授業になるんだったよね?」

「他人のこと心配する前に、自分の心配しろ!」

「いいから行ってみようよ~」


と言うなり両側からクルミとユカリに両腕を掴まれて階段ホールへと引きずられて行く。


「ちょいとごめんなさいよ!」

「そこを開けてちょうだいな!」

「学園のアイドル、ランちゃんのお通りですよ!」


ワサワサしている人混みを書き分けて前に引き出された。


「あ・・・」

「すごーい! ランちゃん、学年で5番じゃな~い!」

「うちの学校の秀才くん秀才ちゃんたちが、今頃キモを冷やしているわよ~お!」

「超新星あらわるってね! ランちゃんたら、才色兼備なんだから~あ!」

「さ、さいしょくけんび・・・い、言われたくない」


ボクを取り囲むようにしてボードを覗き込んでいたサヤカ、クルミ、ユカリがはしゃぎ出す。とその時、ボクの肩をトントンと叩く奴がいた。


「キリュウくん、おめでとう。キミ、なかなかやるじゃないの。単なるアスリート系トランスジェンダーだと思っていたけど、少し見直さないといけないようね」


振り向くと赤メガネのお下げが厳しい顔をして立っていた。


「委員長・・・」

「あら~委員長6番目なんだ!」

「そ、そうよ。それが何か? 次の学年末試験でキリュウくんから、必ずクラス首席の地位を奪還させてもらうわ」


そう言うと、さっさと教室の中に戻って行く。


「うわ~うちのクラスの秀才ちゃんが宣戦布告したわよ!」

「ランちゃん、お勉強できるんだねえ!」

「いや、夏の間ずっと家にこもって自習させられていたから・・・」

「この美貌にこのナイスバディでこの成績。こうして私たちが仲良くしてあげてるからいいようなもんだけど、普通に考えればアンタ、近寄りがたいタイプなんだからね」

「男にナイスバディ言うな!」


なんか勝手に恩を着せられてしまった。惑星ハテロマの王立女学院につづいて、ボクはまた娘三人組に付きまとわれる運命なのだろうか。






「ハア ハア ハア」


ボクは、三人娘に女子トイレに連れ込まれそうになるのを断固断って振り切ると中庭に逃れてきた。

ここは並行して並ぶ高校の校舎と中学の校舎を結ぶ渡り廊下の途中にある小公園のようなスペース。噴水の周りにベンチが置かれてちょっとした寛ぎ空間になっているのだが、すぐ目の前が教員棟なので学生・生徒は敬遠してあまり近寄らない場所なのだ。


「ここまで来れば大丈夫だ。それにしても何で一緒にションベンしたがるんだろ・・・」

「それはお友達として一緒に行動しているっていう連帯感の現れなのよ」


ボクが独りごちると後ろから声を掛けられた。


「あ・・・水沢先生」


教員棟の一画、保健室の窓から美人養護教諭が顔をのぞかせていた。


「キリュウ君はやっぱり男の子なんだね。女の子の気持ちは分からないか」

「そ、そりゃあそうですよ。いくら女子校にいたからってボクは女だったわけじゃなく、単に女の振りをしていただけですから。それにしても一緒に行動することで連帯感をって言いますけど、それって自分が席を外している間に悪口言われないか心配しているだけなんでしょ?」

「へ~えキリュウ君。いいポイント突いて来るね。女の視点を鋭くえぐりとるなんて、さすが王立女学院出身!」

「や、やめて下さいよ!」


水沢はとても可笑しそうに笑って、ボクを部屋に来るよう手招きした。






「で、キリュウ君。調子はどうなの? 保健室に顔を見せないところを見ると上手くやれているんだろうとは思っていたけど」

「それが・・・なんだか自分でも奇妙な感じなんです」

「奇妙?」

「はい。あっちにいた時とは違って、先生方はじめ皆がボクのことを男だって分かっているくせに、なんでもない顔して女として扱うんですよ」


ボクは、ぷうっと頬を膨らますとふくれっ面で言う。


「なるほど。で、キリュウ君はそれをどう思っているのかな?」

「そりゃあボクは男ですから、女扱いされれば怒りますよ」


水沢は、まるで妹か娘でも見るような優しい眼をして微笑んだ。


「でも思っているのって、それだけじゃないんでしょ?」

「・・・実は・・・居心地は悪くないっていうか・・・女の振りをしなくても普通に扱ってもらえるというか・・・自然体でいられるんです」

「やっぱりね。学校に戻ってキリュウ君がどうなるか、先生も心配していたんだけど、ちゃんと居場所ができたんだ」

「そういう意味では上手くいっています・・・」


ボクが少し言い澱んだものだから、水沢はあらっ? と言う顔をした。


「キリュウ君。なにか心配事があるの? 当ててみようか? ひょっとしたら身体のことなんじゃない?」

「え? ・・・よく分かりますね」

「先生は、キミの初潮に立ち会ったときから味方だって言ったでしょ? キリュウ君のこと、いっつも気にしていたわよ」

「男に、キミのしょ、初潮って言うのだけはカンベンしてください」

「初潮は初潮なんだもの。で、毎月順調に生理は来ているの? ひょっとして生理不順になっちゃった?」

「せ、生理はじゅ、順調です・・・」

「周期は?」

「に、28日・・・」

「じゃあ、普通ね。とすると生理痛がひどいのかしら?」

「い、痛むけど、動けなくなるほどじゃないです・・・」


ボクは、水沢の矢継ぎ早の絶対女の子にしかしないであろう質問に、自分の体内に厳然と女性器官が存在していることを思い知らされる。


「だとすると、量が多いとか、塊になってレバーペーストみたいなのが出たりするのかしら? それとも臭いが気になるとか?」

「昼はナプキン1枚で済んでますし、サラサラだし、臭くなんかありません! ってボクに何を言わせるんですか」

「キリュウ君がその顔とその声で言っても、全然違和感ないわよ。ともかく生理のときは無理しないこと。心は男の子でも身体は女の子なんだからね? 誰にも遠慮しないで体育とかお休みしていいんだから」

「・・・はい」

「だとすると、キミの身体の悩みってなんだろう?」


水沢は、ようやくボクが本当に心配していることに気持ちが向いたみたいだ。


「実は・・・せ、生理がはじまってから・・・どんどん球が飛ばなくなっているんです」

「そうか、キリュウ君。見掛けだけじゃなく中身まで女性化してきたのね。どうりでキミの美しさにも磨きがかかっていたわけだ」

「磨きがかかった?」

「そう。内側からにじみ出てくるというか、最初に会った頃は少年っぽい肌の感じがしたんだけど、今は女らしいというか究極の女性美を体現するとこういう素肌になるんだっていう感じだもの。なんてきめ細やかで透明感がある肌なのかしら、とっても綺麗よ! それからキミの身体の臭いもあるわね。以前は女の子にしては爽やかでシトラスっぽい匂いだったけど、今は・・・ほら、甘いフローラルな香りがしているもの」


ボクは慌てて腕に鼻を近づけくんくんと匂いを嗅いでみた。


「全然わからないけど・・・」

「自分では自分の体臭って分からないものなのよ。とにかく、キリュウ君は他人もうらやむ素敵な女の子になってきているわけよ」

「ボクは、なりたくってなっているわけじゃありません!」

「そりゃまあ、そうだろうけど」


と言いながらも、水沢は咲き誇る花かさえずる小鳥でも愛でるような目つきでボクを見た。


「綺麗になったとかいい匂いになったとか、そんなことはどうでもいいんです! ボクは、プロゴルファーになることを夢見ているのに、女性化が進行して飛距離がどんどん落ちていることが問題なんです!」

「う~ん、それは難しい悩みだわね。先生も専門家じゃないからハッキリとは答えてあげられないんだけれど、もしキリュウ君が男の子に戻るにしても、今からでは普通の男性には戻れないと思うわよ」

「・・・どういうことですか?」


ボクは、思わず固唾を呑みこみ水沢を見つめた。


「性同一性障害の精神男性の肉体女性いわゆるFTMが、ホルモン治療と適合手術それから筋トレなど肉体改良の努力で男性化する事例はあるけれど、生涯にわたってホルモン治療を続けなければならないの。それから、精子を作れない以上は自分の遺伝子を残すこともできないわけだから、一度女性としての機能を捨ててしまったら自分の子供をもつことはできなくなるの。それは精神女性の肉体男性つまりMTFのケースでも同じことだけどね。キリュウ君の場合は元男性で今は精神男性肉体女性ということだから、形を変えたFTMと言っていいかもしれないわね」

「・・・ということは?」

「今から男の子に戻るとしても、オッパイ取って胸を平たくして卵巣と子宮を取り除いた元女性と同じことになるんじゃないのかな?」


ボクは水沢が、ボクの身体がもはや男性ではなくなってしまっていると言っていることに気がついた。


「でも・・・でも、筋力さえ戻れば前の飛距離に戻るんですよね?」

「理論的にはそういうことになるわね」


水沢は、ボクがどう受け止めたのかを確認するように見つめる。


「あ、でもFTMのひとと違ってキリュウ君は全身脱毛していたわよね? じゃあ、ツルツルスベスベの肌はそのまま。一生ヒゲ面になることはないわね」

「・・・他人事だと思って」

「あんまりキミが深刻そうな表情をするんだもの。ちょっとだけでも気持ちを軽くしてあげたかったのよ。悩んでいるのなら一度ちゃんと専門医に相談して、実際のところどうなのか聞いてみた方がいいと思うけどな」


水沢のアドバイスを聞いてボクは、自分の身体に起きている真実と向き合うべきかもと思った。

仕方ない。嫌だけど久しぶりにひとのことを医学的な実験対象としか思っていないあの医者のところに行ってみることにするか。






「ランちゃ~ん♪」

「ランちゃ~ん♪」

「ランちゃん言うな!」


その日の夕方。部活でもボクは女子部員たちの“女の子仲間”包囲網と格闘させられる。


「そんなふくれっ面したって無駄よ。可愛いだけなんだから! いい加減に認めちゃいなさいよ。女子のユニフォームを着ちゃった以上、もうランは女子部員なんだからね?」

「ボクは、絶対認めない!」

「んなこと言っても、日本ゴルフ連盟の偉いひとからも女子に鞍替えしちゃったらって勧められたんでしょ?」

「ううっうるさい!」

「ランはこの間のエキシビションマッチで関東大会本戦出場を決めちゃったから、本当なら今日は仲間の応援に行くところなんだろうけどお留守番なんでしょ? 男子は全員、東京地区二次予選に行っちゃったからアンタは私たちと一緒に練習するしかないのよ」


そうなのだ。ボクは男子部員なのだから、東京地区二次予選会に出場するうちの部員たちに同行して応援するのが当然だったのだ。朝、そのつもりで準備して学校に行くと大多監督は


「キリュウは留守番だ。ちゃんと授業を受けて放課後は女子部員たちに混じって練習しろ」


と言い残し、ボクを置き去りにしてバスを出してしまった。で、放課後になって部室に行くと女子部員に取り囲まれてしまったのだ。


「キャプテン。どうしてキリュウさんは男子の二次予選の応援に行けなかったんですか?」


1年の女子部員が邪気もなく、単なる疑問として不思議に思ったことを口にする。


「それはねえ、ランが可愛すぎるからなの。監督が言っていたけど、一緒に回った他校の選手はじめランを見かけた連中メロメロだったんだって。それで今日、もしランが応援に行こうものなら予選会そっちのけの状態になりそうだし、うちの男子たちも試合に集中できなくなるに決まっているから留守番していろ、とそういうことになったわけ」

「へ~え、キリュウさんって罪つくりな女なんですねえ!」

「つ、罪つくりな、お、女・・・」


ボクが絶句してしまったのをいいことに、女子部員たちはボクのキャディバックを抱えて練習場に向かって行った。クラブを人質にとられては仕方ない。ボクは、女子の練習に参加するしかなくなってしまった。






≪パシーーーーン!≫


違う・・・。


≪パシーーーーン!≫


やっぱり違う・・・。


「ナイスショットで~す!」

「いい球だ、ラン」


ボクの気も知らないで・・・。ケージの後ろで練習を見ている女子部員たちには、ボクの悩みなんか想像もできないに違いない。


「ランさんのスイングって、とってもエレガントですね!」

「ランはグリップがいいからスイングにも無理がないんだ」

「そっか! だからスムースに打ち出せているんですねぇ」

「アンタたちもいい球打とうと思うのならグリップから練習しなさいよ」

「ハイ!」


女子のキャプテンが部員たちに言い渡す。それにしてもガヤガヤ煩いことだ。


「すみませんけどそこ、少し静かにしてもらえませんか」

「あ、ゴメン。でも、ランもそうカリカリしなさんな。上手な先輩のスイングを見るのも大事な練習なんだから」

「・・・いいですけど、ボクは自分の今のショットをちっとも良いとは思っていないんですからね」


≪ええええええええ~っ?≫


皆とても信じられないと言った表情だ。


「ラン、そうなの?」


キャプテンが尋ねる。


「ボク、ここのところ筋力が落ちてきていて・・・ちっとも飛ばなくなってしまっているんです。こんなことじゃ試合に出たって勝てやしない・・・」

「十分飛んでいると思うけどなぁ」

「それは女子の場合だからですよ! ボクは、男子の関東大会で戦わなきゃならないんです」

「やっぱ、ランは女子に鞍替えした方がいいんじゃない?」

「ボクは男です! ほっといてください!」






部活が終わった後、ボクは先輩の女の子たちに腕を引かれるようにして五日市街道沿いにあるスイーツパーラーに連れて行かれた。店内に入った瞬間、あま~い香りに包まれる。普通の男子高校生だったら絶対に入らない店だ。


「ラン。ほんじゃあ、ここで試してご覧よ」

「いったい何をですか?」

「この店、今日はボーイズデーなんだ」

「ボ、ボーイズデー?」

「そう。世の中レディースデーとか女性専用車両とか女性限定ライブとか、女子限定のものが多いじゃない? ここのマスターって女の子相手のくせして反骨精神旺盛なもんだから、毎週月曜はボーイズデーって男の子だけ割引するセットメニューを作っているのよ」

「知らなかった・・・」

「そりゃそうでしょ。メニューにも書いてないんだから。カノジョに連れてこられたり本気で甘いモノが好きな奇特な男子が入店したときにだけ、マスターから説明があるのよ」

「それでボクに何をしろと?」

「ランが本当に男の子だったら、それが買えるはずでしょ?」


ボクは、カウンターの奥で忙しそうに調理しているマスターらしき男の顔を見てみた。






「ダメだ」

「でも、ボクは男ですよ? ほら、学ランだって着ているじゃないですか」

「そんな膨らんだ胸で括れた腰をしている男がいるものか」

「そ、それは・・・じゃあ学生証見せますから。それだったら証明になるでしょ? しっかり確認してくださいよ」


「霧生嵐。学籍番号JN012345。生年月日1990年3月15日。麗慶学園高校2年C組。確かに写真はオマエさんだな」

「そうですとも。じゃあボーイズセット売ってくれますよね?」

「ダメだ」

「ど、どうして?」

「これのどこに男って書いてある?」


慌てて自分でも学生証を確認してみる。表を見て裏も見て、何度もひっくり返してみたが、ない。


「・・・本当だ。性別覧がないなんて、今までまったく気がつかなかった」

「残念だがそういうことだ。オマエさんのような綺麗なお嬢ちゃんは、男と張り合おうなんて思わずちゃんとセーラー服を着ることだ」


と言いながらボクの手の平に、ボーイズセットに付くプリンの入った小さな器をのせてくれて片目を瞑った。


「あはは! やっぱりダメだったね」

「ランはどう見たって女の子なんだよお」

「そんな可愛い顔していくら男だ男だって言っても誰も認めないよ」


ガッカリしてみんなが待っているテーブルに戻ると、口々に騒ぎ立てられてしまった。


「でも、この子ったらプリンをゲットしちゃってるよ!」

「ほんとだあ!」

「すごいじゃん!」

「マスター! どうしてこの子にプリンおまけしたのよ?」


キャプテンが大きな声で問いかけた。ジロッとこちらをひと睨みしたマスターは、ボクに笑いかけながら言った。


「ふん。その子はオマエさんたちと違って8つボタンの学ランを着ているからな。中身は女でも気持ちは男でいたいっていう、その心意気が気に入ったのさ。女にボーイズセットは食わせられんがその一部だけなら構わんだろう」

「ふ~ん。ということは、ランはちょっとだけマスターのお眼鏡に適ったわけだ」

「ま、そういうことだ。学ランのお嬢ちゃん、いつでも店においで。オマエさんには、ボーイズセットは出せんが飲み物を頼んでくれればプリンをおまけしてやろう」

「うわあ、ランたらいいんだあ!」


お嬢ちゃんって呼ばれるのは閉口だけど、マスターからちょっとだけ男だって認められた・・・なんか嬉しいかも。こうしてボクに馴染みの甘味処ができたのだった。


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