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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第6章 「地球帰還を賭けて」
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第61話 ハテロマ競技大会記者会見

女性化プロジェクトによってボクの胸に女らしい膨らみができてからそこそこ経つのだが、乳腺の発達にともなう痛みを経験してからというもの自分でも恐る恐るでしか乳房に触れられないでいた。それが・・・


「こうしてグイッと下から持上げてぇ」

「あ痛ててててて!」

「両側から寄せてぇ」

「痛ててててて!」

「ブラカップの中に収めるとぉ・・・ほら! 立派な谷間の出来上がりぃ!」


ここ惑星ハテロマは地球の重力の3分の2しかないので、動物も植物も生物は皆のびのび育っている。地球人であるボクにとっては全てが“巨大化”しているようにしか見えないのだが、ハテロマ星人から見るとボクの方が歳の割にいつまでも小さくて華奢にしか見えないみたい。


だからボクの侍女たちは何とか“ひと並み”に仕立てようと、こうしてしゃかりきになっているのだ。


「すご~い! 魔法のようですわ!」

「あら~! 貧乳の姫様でも見事なオッパイに見えましてよ!」

「これなら何とか殿方も姫様のお胸元に注目するんじゃございません?」

「そんな無理やり乳房を引っ張るもんだから痛いんだってばぁ。だいいち男になんか注目されたくないの!」

「まだまだ青い果実なんですねぇ。姫様は揉みほぐされたご経験ありませんものねぇ」

「揉みほぐされたくなんかないの!」


朝からひと騒動だ。今日はこれからハテロマ競技大会の記者会見があるので、選手団の一員として出席するボクを飾り立てようと今までになく張り切っているのだ。


まあ、全世界に生中継されるらしいし他の女子選手の立派な体格と比較されることを思えば、その気持ちも分からないじゃないのだが。


「なんと申しましても今日の主役は姫様。姫様は他の選手以上に注目されるお立場なんですからね」

「だからってそんな身体の線を目立たせようと補整しなくったって・・・」

「いいえ。お召し物が公爵家ならではのきらびやかなドレスやジュエリーであれば何も心配などいたしませぬ。ですがこのちゃちなスーツはいったいなんなんでしょう!」

「だって、それがアビリタ王国選手団の正式ユニフォームなんだもの仕方ないじゃない」

「女神杯は特別なもの。両国が雌雄を決する4年に1度の神聖な勝負でございます。そのたったひとりの代表選手である姫様だけはもっと素晴らしいご衣裳だっていいじゃありませんか!」

「だからそれって決まりごとなんだし、同じチームなんだから同じユニフォームじゃないと・・・」

「王国ハテロマ競技大会委員会はなにを考えているんでしょ。センスのないこんな服など採用して! よしんば採用していたとしても姫様に着用を強制するとは!」


ボクにとっては女の子女の子した服装をさせられるよりはカチッとしたユニフォームの方がずっと気分的に楽なのだが、ベルたちは憤懣やる方ないといった感じで吐き捨てるように言い募り、いかにチャチなのかをあげつらった。






「“たいへん長らくお待たせいたしました! これより宇宙暦12012年 第199回近代ハテロマ競技大会合同記者会見をはじめさせていただきます!!”」


≪ジャジャッ パパパパ~ン♪≫


派手なジングルとともに司会の声が巨大アリーナ全体に響き渡った。スタンドとアリーナ席を埋め尽くす待ち兼ねた観客から拍手と歓声が沸きあがった。




ハテロマ競技大会合同記者会見はアビリタ王国とヤーレ連邦共和国両国の会見場から衛星生中継で全世界に配信される一大イベントだ。


「“選手団入場! 最初はアウェーとなるアビリタ王国からの入場です!”」


勇壮なマーチにのってアビリタ王国選手団が行進を始めた。いずれも素晴らしい体格のアスリートたちがアリーナ席の真ん中のレッドカーペットを貫くように進み、ステージ中央に設けられた階段から会見席に上がった。


「“続きましてホームで迎え撃つヤーレ連邦共和国選手団の入場です! 盛大な拍手をもってお迎えください!”」


巨大スクリーンに1万km離れたヤーレ連邦の会場の様子が映し出された。あちらも会場は満杯、観客で埋め尽くされているみたいだ。




行進が終わりあっちの選手団が雛段に座る様子が映る。するとこちらの会場内に電気分解するときのようなイオン臭が漂い始めた。


≪ジッジジジッジーッ バチバチッ≫


ステージ上に扇型に設けられた雛段に電光が走ったと思ったら、向こうの会場にいて巨大スクリーンに映っていたはずのヤーレ連邦共和国の選手たちが浮かび出た。


≪おおおおっ!≫


会場から歓声が上がる。巨大スクリーンを見ると、アビリタ王国選手団もあちらの会場の雛段に現れていた。


「“本日は両国政府の肝いりで、衛星回線フル活用により両会場を映像通信で結び全選手の立体画像をお届けしています!”」


なるほど電子的に再現された立体画像なので、画素が粗くそれ自体が発光している。


「“さあて、皆様もお気づきのことと思います。まだ登壇していない選手がおります! 両国を代表するふたりのヒロイン! お待たせしました、女神杯代表選手の入場です! エスコート役は両国選手団団長! なお一層の拍手でお迎えください!!”」


≪うおおおおっ!≫


ボクはアビリタの選手団長でもあるセナーニ宰相のたくましい腕につかまりレッドカーペットを導かれながら雛段へと進む。もの凄いフラッシュだ。アリーナ中の観客たちが腕を振り上げたり拳を握りしめながら声を限りに叫んでいる。


「どうかねキリュウ君。女神杯の代表がどれほど大きな立場なのかこれを見れば分かるだろ?」

「・・・みんな、何て叫んでいるんですか?」

「そりゃ、勝ってくれ絶対ヤーレを負かしてくれ、さ。40年ぶりの勝利を君に期待しているんだ」


宰相は少し屈みながらボクにだけ聞こえるように話す。


アリーナを進みステージへの階段を昇ると、他の競技に出る同僚選手やコーチたちは既に着席していて、雛段の中央より一番前の椅子が2つだけ空席になっていた。セナーニ宰相から隣の席に座るよう促されたので手を支えてもらいながら着席する。


こういう場合、女の子は浅く腰かけて背筋をぴんと伸ばし脚は組まず軽く曲げて斜に揃えると綺麗に見えるのだ。




「“最初に国際ハテロマ競技大会委員会会長からご挨拶を頂戴します”」


≪ジッジジジッジーッ バチバチッ≫


目の前の演壇に、いかにも往年の名選手という感じの老人が奈落から浮かび出るように現れた。電子映像ながら身体中から威厳を感じさせるオーラが出ている。


ひと言ひと言、深く響く落ち着いた声で近代ハテロマ競技大会の意義、800年途切れることなく継承されてきた伝統の素晴らしさを語りかける。どちらの会場も静かにその演説に聞き入っている。


「“・・・さて、ハテロマ競技大会の最終種目『女神杯』について申し述べさせていただきたい。言うまでもなく女神杯の起源は3千年前に遡ると言われる。

伝説によればその当時、世界戦争が何百年にもわたり続いていた。

化学兵器によって大気は汚染され土壌は荒廃し海洋は腐敗し多くの生物が絶滅、世界中で飢饉が発生し人類も滅亡の危機に瀕していたという。

そんな時ひとりの女性が地球ゲートを通って現れた。

そう地球の女神だ。

彼女は武力によらず勝敗を決する方法を提案、戦争に明け暮れる人々を寝食を忘れて説得しやがて世界中が彼女の提案を受け入れた。

その時に提案されたのがゲオルというスポーツなのだ。

ゲオルは実に素晴らしいスポーツで、これまでのひとつの球を奪い合う競技や相手を打ち負かす格闘技とは異なり、ひとえに競技者自身が自分一人で成し遂げた成績の比較で勝敗が決することにあった。

誰かを打ちのめすのではなく自己との戦いで優劣が決まるのだ。

才能のあるアスリート同士の勝負は観戦する者の心を捉える。

ゲオルは国境を超え民族を超え宗教を超えて人々を魅了し、そして世界に再び平和をもたらした。

人々は彼女のことを尊敬を込めて地球女神と呼んだ”」


会長の話に耳を傾けながら、ゲオルに夢中になる当時の人々の姿をまざまざと目に浮かべていた。


「“それが今日の近代ハテロマ競技大会に受け継がれ、4年に1度各種スポーツ競技を通じて両国のトップアスリートが競い合う平和のための大会となっている。

大会最後を飾るのは、この伝説を継承する女神杯ゲオル競技であり、女神に捧げる神事として両国を代表する2人の女性アスリート、純潔な生娘によって戦われる”」


きむすめ、と聞いてボクは恥ずかしくて真っ赤になってしまった。セナーニ宰相がボクを女に見せなくてはならなかった理由はこれだったのか。まあ、確かにボクは男性と交わった経験はないけれど・・・生娘ではないわなあ。


単なるスポーツ競技ではなく神事だっていうし、女神様を騙すようなことをしてよいのだろうか・・・罰が当たったりして・・・。


「“大会最終日、各競技が積み上げてきた勝敗に最後の決着をつける戦いではあるが、女神杯の勝利国こそハテロマ競技大会の最終勝者とみなされ、たとえ大会競技全体で勝利数がまさっていても女神杯を失えば敗者とされることはご承知のとおりだ。

その重責に耐え全力を尽くし勝利する者こそ真の世界チャンピオンと言えるのだ!”」


会長自らそんな煽るようなことを言うものだから、雛段で後ろに座っているうちの選手やコーチたちの熱い視線が背中に突き刺さるようだ。


「“それでは皆さん、第199回ハテロマ競技大会最終競技者をご紹介する。ここからは司会に引き継ごう”」


演壇から会長の姿が掻き消えると場内が真っ暗になった。


「“レディーーーーーース エエエンド ジェントルメーーーーン! 大会最後を飾るメインエベント! 女神杯ゲオルを戦うのはこの二人だあああ!”」


突然、ボクは強烈なスポットライト照射を浴びた。ドラムロールと激しい手拍子足踏みがアリーナに響きわたる。


「“挑戦者! アビリタの超新星! 雪よりも白い麗しのプリンセス! ラン・キリュウ・ド・サンブランジュ!”」


≪うおおおおおおおおおおおおおおおっ!≫


大歓声が沸き上がりアリーナの空気がビリビリ振動する。

女神杯はハテルマ中が熱狂する試合になるそうだが、アビリタ王国の人たちにとっては特別な意味をもつ試合になるらしい。というのも、近代大会になってからこれまで99勝99敗、次の第199回大会は女神杯100勝を先に成し遂げた国という重い意味を持つが、アビリタ王国はここのところ9連敗中で、100勝を前に36年もの間足踏みし、ついにヤーレに勝星を並ばれてしまっているからだ。


ボクは、突然巨大なプレッシャーを感じてしまった。

そのせいか急に尿意を催してきた。でも今は、ステージから逃げ出すわけにはいかない。


とその時、隣に座っていたセナーニ宰相に手首をつかまれ、ガッツポーズで立たされてしまった。ガチガチに緊張しながらも唇の端を上に曲げて何とか笑顔をつくり歓声に応える。


≪ひゅーう! ひゅーう!≫


「“受けて立つチャンピオンは! 言わずと知れたヤーレの至宝! 今大会に勝てば史上初の3連覇! クイーーーーーン オブ クイーーーーーン! 氷の女王! スジャーラ・シフォン!”」


≪“どわわわわわわわわわわわわわわわ!”≫


スピーカーを通してヤーレの会場の大歓声が聞こえてくる。


こちらの会場でも演壇越しにボクの反対側にいた電子映像の女が立ち上がるのが見えた。


ボクは改めて対戦相手を見てびびった。氷の女王と呼ばれるだけのことはあって冷たい無表情な顔に細く開かれた目が蛇のようだ。身長は2m以上ありそう。


ボクが言うのもなんだけど、こいつホントに女?


次勝てば3連覇ということは、12年間女神杯代表をやっているんだ・・・あれ? てことは生娘なの? うーむ・・・とてもそうは見えない、っていうか実は男なのじゃ・・・。


「“それでは両選手、互いの健闘を誓って握手をお願いします!”」


ボクは演壇へと進み出ると、同じ様に近づいてきた『氷の女王』の電子映像に手を差し伸べた。


≪バチッ!≫

「きゃっ!」


ボクは思わず悲鳴をあげてしまった。火花が飛び散り手に衝撃が走ったのだ。


「“おおっと! 早くも白熱した戦いが始まっています! チャンピオン、今のは拒絶ととっていいでしょうか?”」

「“フンッ! そんな幼稚園児を対戦相手に寄こすなんて、アビリタはいったいどういう神経をしているんだ”」


≪“どっ!”≫

≪“あはははははっ!”≫


ヤーレの会場が沸いている。


「“プリンセス、何か言いたいことは?”」

「あなた、女?」

「“ングッ・・・”」


≪おおっ!≫

≪あははははははっ!≫


こちらのアリーナに笑い声があがる。


ボクは女性化プロジェクトで鍛えられたキラースマイルを浮かべてウィンクする。怒りで緊張はすっかり解けてしまっていたので、顔中の筋肉という筋肉を思いの通りにコントロールできていた。


「“おっと! これは堪らない! とろけてしまいそうな天使の微笑! これぞプリンセス! 見る者を幸せにせずには置かないなんという笑顔でしょうか! 今回の女神杯は、氷の女王vsスマイルプリンセスの対決になりました!”」


コイツには絶対に負けられない。ボクは笑顔を浮かべたまま、蛇の目で睨みつけて来るチャンピオンと向かい合い一歩も引かなかった。


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