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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第5章 「女神杯への挑戦」
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第59話 女神杯代表決定戦(前編)

ついに、ついにその日がやって来た。


「“ただ今より女神杯アビリタ王国代表選考会決勝を開始いたします! まず最初に出場される選手をご紹介しましょう! 盛大な拍手でお迎えください!”」

≪ウォーッ!≫

≪パチパチパチパチ≫


待ちかねた大勢のギャラリーから拍手と歓声があがる。


「“ラン・ド・サンブランジュさん! アビリターレ西地区代表 王立女学院2年生”」

≪ヒューヒューッ!≫

≪パチパチパチパチ≫


ボクは微笑みながら大きく手を挙げて声援に応えた。今日のユニフォームは王立女学院のミニワンピ。国王陛下の“ミニしか着ちゃいけない”命令が解けたので、本当のことを言えば太ももをさらけ出す格好はしたくないんだけど、これが今シーズンのうちの学校の正式な競技服だから仕方ないのだ。

ちなみに昨年秋、学園祭恒例のユニフォームコレクションで決まったのは、新作パンツルックだった。「ランはゲオル部の看板娘なんだから出なさいよ」としつこく先輩からも後輩からも迫られたけれど、女神杯地区予選を勝ち進んでいたボクはステージには立たずに済んだ。


「“続いての選手はレア・ド・シモンさん! アビリターレ東地区代表 王立女子大学1年生”」

≪ウォーッ!≫

≪パチパチパチパチ≫


やっぱりレア先輩素敵だなあ。優雅な仕草でにこやかに応える姿を見つめながら、改めてボクはこれから始まる戦いにまだ心の整理が出来ていないことに気がついた。レア先輩にとっては女神杯に出られる最後のチャンス・・・その為にフランツ王子との結婚を延期してまで大学に進んだのだ・・・それとボクと本気モードで対決する為に・・・。


「“競技方法は2ラウンドによるマッチプレー。もし決着しない場合にはサドンデスとなります。それではスタート順を決めますので両選手はこちらへ”」


競技委員のコイントスで表面を選んだレア先輩が先に打つことになった。


「ラン。悔いが残らないようお互い遠慮なしで戦いましょうね」

「はい、レア」


レア先輩はボクの両肩に手を置き覗きこむように見つめながら言った。まるでエメラルドのような緑色の瞳の奥にメラメラ闘争心の焔が燃えているのが見える。ボクは思わず気圧されてしまって息を詰める。ふっとそれが緩んだと思ったら、ボクはしっかり抱きしめられていた。頬を寄せた耳元で「可愛い子~♪」と呟いたのが聞こえた。


「う、美しすぎる!」

「ああ・・・なんて麗しい光景なんだ!」

「まるでエンジェルとフェアリーが睦みあっているみたい!」


観客から溜息まじりの声が上がっている。


「“いやあ予想されていたこととはいえ、こうして改めて目の当たりにすると今回の決勝カードの凄さ素晴らしさが分かりますね”」

「“公爵家と伯爵家のプリンセス同士の対決、というよりわが国を代表する美少女の対戦、これは見逃せません!”」


放送席からも称賛の声が漏れ聞こえて来る。


「“それではレア・ド・シモンさん、スタートをお願いします”」

「はい」


明るく澄んだ声で応えると、レア先輩が真っ白な金属球をティーグラウンドにセットした。

プルンと小さく膨らんだ唇からひとつ息を吐きだして、目標を見定め構えに入る。


≪ギュルルル≫


グリップが自動変形して両手を包み込むと固定化した。ボクのとは違って関節近くまで腕を覆っている。


≪キイイイーン≫


回転音を高めながらヘッドが形状を変化しはじめシャフトも細く長く伸びる。レア先輩の最長飛距離用は、予想に反してゴツめの方形ヘッドだった。なんか華奢で女らしい先輩のイメージと違うよなあって思っていたら、構えるなり目一杯全身を使った大きなスイングで鋭く金属球を打ち抜いた。


≪スパーーーン! シュルルルルルルル≫

≪おおーっ!≫


ギャラリーがどよめいている。ボクも呆気にとられた。違う・・・以前の完璧にコントロールされたショットとは球足が全く違っていた! 高い弾道で飛び出した金属球は最高点まで一気に駆け上がると、軽いドロー回転で遙か彼方に落下して行った。


「いかが?」


レア先輩はフォロースルーを解きながらこちらを見ると微笑んだ。


「驚きました。以前のスイングとは随分変わりましたね、レア」

「うふふ。飛ばし屋さんのランに対抗する為に私もいろいろ努力しましてよ」

「正確なショットに飛距離がついたということはまさに鬼に金棒ですね」

「どなたが鬼ですって?」

「あ、いや。じゃあレアに失礼のないよう遠慮なく本気で参ります」

「そうこなくっちゃ。ランは私の最大最高のライバル。この日を夢見てトレーニングに励んできたのですもの」




さあてっと、ボクは軽く片膝を曲げてピンクの金属球をティーグラウンドにセットする。太陽光を浴びてキラキラ輝いている。今日一日頼むぞ! 


≪ヴオンッ≫


グリップエンドのスイッチを起動してグリップを軽く握る。


≪シュルルッ≫


円柱状だったグリップが瞬時にボクの両手を包みこむ。まるで皮膚の様な形質に変化して腕と一体化した。


≪ギュイン≫


形状変化可能帯域に入った回転音だ。早い・・・このソードラケット、これまでになくレスポンスがいい。準備万端いつでもどうぞとまるでボクを急かすようだ。待ちかねている愛機『プリンセスマリアナ』号に応えるため、ボクはこれから打つショットに思念を集中する。見えた・・・。


≪ギュルルル≫


その瞬間にはソードラケットの形状も変化していた。


≪おおっ!≫


ギャラリーから驚嘆の声が上がる。


「“これはっ! サンブランジュ選手のソードラケットが変化したのですが・・・” 」

「“いや、驚きました! 私も長らくゲオル解説してきていますが、この様な形状変化は見たことがありませんよ”」


ボクがいま構えているソードラケットの姿は、極端に小さなクラブフェースに細く長いボディ、最後尾には小さな翼が3枚付いているものだった。なんていうか、そう、原子力潜水艦の先端を平らにした様な形だ。先端の直径はこれから打つ金属球の大きさしかない。


「“あの小さなフェース部分ではちょっとでも打ち損じるととんでもないミスショットになってしまうのではありませんか?”」

「“ええ、あれだけ小さいと中心から0.1ミリでも0.1度でもずれただけでどういう結果になるのか予想もつきませんね”」


ボクだって自分でもまさかこんな姿に変化するなんて思ってはいなかったのだ・・・でも、これがボクのイメージにコイツが出した回答。ボクは愛機を信じることにした。


思念を集中してイメージした飛行軌道をもう一度確認しながらワッグルを3回繰り返す。

金属球にしっかり狙いをつけるとそのタイミングで右足に体重を移動し、ゆっくりとバックスイングを開始する。女の体形にさせられお尻が大きく腰が細くなったことで、以前より身体を深く捻ることができる様になっていた。ともすると行き過ぎになってしまうので、十分意識しながらトップの位置までソードラケットを引き上げる。


一瞬の静止。大勢観客がいるのに不思議な静けさ。ギャラリーが固唾を呑んでいる音まで聞こえて来た。


ボクは左足を踏み込むとゆっくり重心を移しながら持上げていた腕を振りほどいた。スイングの勢いでミニスカートの裾が捲れ上がり太腿の付け根まで露わになっているのが分かる。アンダースコートがまる見えだ。


≪ッ キュイーーーーーーン!≫


微かに金属球を捉えた手応えはあったけれど、殆ど手に衝撃を感じることなく球は猛烈に加速しながら飛び出して行った。


≪どっ!≫


一拍遅れてギャラリーから歓声が上がった。


「“凄い! 地面すれすれに飛び出した打球は150m先で急激にホップすると遙か上空まで舞い上がっています!”」

「“あまりに可憐なスイングで球ではなく選手の方に目を奪われてしまいましたが、摩擦によるものでしょうか空気を焦がす様な匂いがしていますよ”」


≪おおおっ!≫

≪ナイショッ!≫


フェアウェーの彼方から大歓声が伝わってきた。


「ふう、びっくりしました。素晴らしいですわ、ラン。アナタ、また進化してらしたのね。でも、勝負はこれから。まだまだ負けませんわ」


レア先輩の美しい眉が寄せられ少し険しい表情になっている。




第2打地点に行ってみると。レア先輩の球はフェアウェイ左サイド、390m地点にあった。前より相当飛距離が伸びている。グリーンまで残り260m、これなら2オン可能だ。

ボクの打った球はフェアウェイセンター、620m地点。鐘まで30m残すだけだった。


「“ラン・ド・サンブランジュ選手、更にまた飛距離が伸びてますね!”」

「“いやあ、あれだけ飛ばされてしまうと男子プロでも敵わないでしょう。それはそうとしてレア・ド・シモン選手ですが、彼女も昨年秋のシーズンに比べると随分飛距離が伸びていないですか?”」

「“ああ確かに。記録を見ると昨シーズンのティーショットの平均飛距離が290mですから100m以上飛んでますよ!”」

「“以前の女性らしい優雅なショットスタイルがアグレッシブになっていましたし、ソードラケットも新たなものに変えていますね”」

「“さすがにわが国の女神杯代表選手を決める試合です、進化し続けた者だけに女神は微笑む!勝利する為には決して立ち止まることは許されないのです!”」


なんだか大仰だなあ。ほら、レア先輩も第2打をどうしようか真剣に考えているのに実況コメントが煩そうだもの。


決勝1ホール目、恩賜臨海公園ゲオルフィールド『立春』のグリーンは砲台型。狭くて球が止まりにくい上、手前と奥には深いバンカーがある。レア先輩の位置からだと距離を出すショットをしなければならないからグリーンに球を止めるのは至難の技だ。それにボクの球がグリーンの直ぐ傍まで来ているから、レア先輩としてもこのショットは絶対にミスできない。


ホッと息を吐くとレア先輩は、横目で目標を確認しながらスタンスに入った。いつもより少し緊張しているのか頬に朱が差している。


≪ギュルルル≫

≪キイイイーン≫


レア先輩のソードラケットが、長めのシャフトに厚めのブレードが付いた形状に変化した。距離を出しながら止まる球を打つには高い弾道で攻めて上空からポトンと落とすしかないということか。レア先輩は躊躇することなく一気に振り抜いた。


≪スパーン! シュルルルル≫


フェアウェイから高々と上がった金属球は、日差しを浴びて白く輝きながらグリーン目指して飛んで行く。


≪クッ・・・≫


上昇から下降に転じたとき右へ曲がり始めた。薄くサイドスピンが掛かっていたんだ。これではグリーンから外れてしまう! 誰もがそう思った瞬間、海から風が吹いた。


≪ストーン、トントントントン、カーン♪≫

≪おおおっ!≫


「“当たった! 当たった! なんということでしょう! 鐘を直撃しました!!”」

「“危うくグリーンを外すところでしたが、まさか風に押し戻され直接鐘を捉えてしまうとは・・・”」

「“いやあレア・ド・シモン選手に女神が微笑みましたね!”」

「“ツキを味方につけることができるかも大きな要素ですからねぇ!”」


なんだかまるでボクが負けてしまったかのような言い草だ。意に介さずスタンスに入ることにした。ボクは直接カップイン、鐘に当てることしか考えていない。


≪シュンッ≫


愛機の形状もイメージ通りに変化する。


「“おっと、プリンセスランが既にスイングを始めています”」

「“これは直接狙うしかありませんからねぇ。ヘッドがスピン量を最大にする為の形になりましたよ”」


≪スパーンッ≫


ボクはゆったりと振りあげるとイメージした軌道通り正確にショットした。


「“ふわっと舞い上がった打球は鐘の手前1.5mに落ちてラインを転がり、ああ、当たる当たる当たる、当たったああ!!”」

「“いやこれは、もの凄いことになってきましたよ!”」


実況席もギャラリースタンドも大騒ぎだ。


「ラン、さすがね。このホール、私のはツキでしたけどアナタのは実力でした」

「ありがとう。でも・・・ツキじゃないかも。セカンドショットの海からの風、レアは読んでいたのでしょ?」

「・・・どうして?」

「ボクにも風が近づいて来るのが見えていましたから」


レアはボクの顔を不思議そうに見つめると、小さく小首を傾げニッコリ笑った。

これでマッチイーブン。1ホール目は引き分けになった。






「“予想通りと言いましょうか、想像を絶する状況と言いますか、女神杯アビリタ王国代表選考会決勝マッチプレーは前半のラウンドを終えてマッチイーブン。両選手ともに一歩も引きません”」

「“飛距離から言えば何と申してもラン・ド・サンブランジュ選手ですが、レア・ド・シモン選手も正確無比なショットコントロールを武器にしていますから決着がつかないんです。距離のあるショットでも1打、10cmのパットでも1打、ゲオルは上がってナンボですからねぇ”」


実況の言ったとおり、前半の8ホールを回ってもお互いひとつも勝ち負けがつかなかった。

ボクが相当先の方に球を飛ばしても、長い飛距離でもレア先輩が先に決めてしまうので、逆にボクの方がプレッシャーを受けてしまう流れだった。短い距離でも絶対に外せない状況が続くと結構堪えてくる。そんな中、後半に入る前に休憩を取ることになった。


「ラン、ロッカールームに戻って一緒に休みましょう」

「ええ、レア」


ボクの腰に腕をまわすと、クラブハウスの方へと歩き出した。通り道の両側をギャラリーが囲んでいて、ボクたちの写真を撮ったり眺めたりしながら口々に囁いているのが聞こえる。


「ほんと可愛いわぁ!」

「仲いいのねえ」

「ああしてスキンシップしていると姉妹みたいね」

「王立女子学院で先輩後輩だったんですって?」

「王女ゲオル部看板娘の先代と当代なんですって!」

「あら? あの方は・・・ひょっとして?」


クラブハウスの前で背の高い男たちが待っていた。


「レア、お疲れ様」

「あら観戦してくださったの? フランツ」


その様子を見ていたギャラリーから歓声が上がる。


「まあフランツ王子よ!」

「そりゃあレア姫の許婚ですものねえ」

「あら? じゃああちらの青年は?」


手を差しのべてタオルを渡しながら、もうひとりの男がボクに話しかけた。


「アラシ、今日は実にいい勝負じゃないですか!」

「毎試合観戦ご苦労なことです、ユージン」

「あたた・・・いきなりご挨拶だなあ」

「弟分の試合だから来ているんだか、下心あっての行動なのか分かったもんじゃないでしょ」

「あらあら、ユージン様にはランも結構言いますのね」

「そうなんです。助けてくださいよ、レア姫」

「傍から見ていても仲がおよろしくて結構ですこと」


そんなやり取りを見ていたギャラリーが納得したように頷きはじめた。


「やっぱりよ!」

「あれはリシュナ伯爵のご子息。きっとラン姫と許婚になるのよ!」

「お似合いだわ!」

「あのカップルの結婚式だったら絶対見てみたいわぁ! ラン姫の花嫁姿ってきっと可愛いわよ」


なんだか居心地が悪くなってきた。


「レア、ひと息つきません?」

「ええ、そうしましょう」

「では、僕たちもお供して・・・」

「殿方はご遠慮なさって。だってランとはお化粧直しに行くのですから」


レアは再びボクの腰に腕を回すと、ロッカールームに向かって歩き出した。今日のボクはUVケアだけで化粧っけはないのだが、もちろんピクニックで女の子たちが「お花摘みに行く」のと同じ意味なのだ。でも、レア先輩のことだから少しは本気モード入っているのかもしれない。どっちにしても早くトイレ、トイレ・・・。


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