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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第4章 「社交界デビュー」
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第44話 ヴェスパに乗って

人口3000万、惑星ハテロマ最大の都市ネオライネリアをジリジリと照りつけた夏の日差しも、1つ目の太陽が沈み残り2つが傾くにつれて次第に弱まってきた。ランが国賓として滞在する宿所を出てから既に半日が過ぎようとしていた。



【滞在2日目 15:30】


「ラヴィ凄いぞ! 社長賞どころか年間最優秀ジャーナリスト賞だって夢じゃない」


最初はあの男の子がプリンセス・ランだといくら言っても信じようとしなかったルブランも、公園のベンチで一人眠っていたこと、家に連れて帰って泊めたこと、翌朝のニュースで姫君ご病気が突然発表されたこと、宿舎に帰るようお金を渡したが戻らず今もそこにいること、そして現在も姫君ご病気のまま一切の行事が延期になっていること、ラヴィが順を追って説明していくうち次第に興奮しはじめた。


「それにしてもよく気がついたな!」

「新人研修のとき先生が教えて下さったじゃないですか『放送人は何事にも好奇心を持て』って」

「オマエいい教え子だなあ、俺のチームに引き抜きたいぜ。で、姫だと分かったのはいつだ?」

「私も最初はてっきり声変わりしてない中学生の男の子だとばかり。家の前で別れて地下鉄でニュースを見ているとき誰かに似ているなあと。局に着いて新聞に載っている写真を見たら目元口元あの細さみんな似ているじゃないですか! そこでピンと来たんです。でも、階段公園で見つけて本人を前にすると、やっぱりソックリさんじゃないかとも思えたんですよねぇ。だけど、女の子が性別を偽って逃げるなんてよくよくの事、綺麗な長い髪をバッサリ切るなんて大変な決心なんだぞって思ったら、これは間違いないぞって」

「なるほどな。それで取材はうまく行きそうなのか?」

「もちろん姫にはこちらの素性は明かしていません。それと局を出る時、ボスに書置きしてピンバッチカメラを持ち出してきたんです。だから階段公園で再会したところからはこれで録画できています」

 

と言いながらラヴィは襟元のピンバッチをいじって見せた。


「新人とは思えない段取りのよさだぜ。オマエいいジャーナリストになれるよ。ならば近接映像はバッチリだな。俺の車に望遠付き高感度カメラを積んでいるから、それで遠景を押さえればあとは編集でどうにでもなる」

「先生、それをお願いしたかったんです」

「手伝うのはいいが、他の班のネタに手を出したってオマエんとこのボスからまた嫌味言われそうだな」

「実はさっきボスから電話があったんです。でも、まだ確証が持てないネタなので単独取材させてくださいって言って切っちゃいました。だからまだウチの班は動いていません」

「ほんといい根性しているぜ。ま、オマエのボスとは長い付き合いだ、特ダネ第一報はオマエの所の枠だが、週末の俺のウィークエンドニュースでもトップで扱いたいからな、俺が取りなすよ。だから今のオマエは特ダネに集中しろ」

「はい! あんまり待たせると疑われるかもしれません。戻りましょう!」






【滞在2日目 15:35】


「ハァ、ハァ、ハァ、ここまで来ればもう追いかけてこないわ」


ローラに手を引かれて走って来た場所は、大きな通りが何本も交差するロータリーの中央に作られた広場だった。


「ハァ、ハァ、それにしてもアラシ君、駆けっ子得意なんだね。息ひとつ切れてないじゃない。ハァ、ハァ」

「いつも走り込んでいるからね」

「ハァ、ハァ、結構スポーツマンなんだぁ。わたし走るのは苦手だな。でも、16歳になってもう“ヴェスパ”に乗れるから、自分で走らなくてもいいんだもんね」

「ヴェスパ?」

「あれ? アラシ君知らなかった? そうか、外国に住んでるんだもんね。ここライネリアでは16歳になると“ヴェスパ”を利用することができるのよ。あ、“ヴェスパ”っていうのは通称で、本当の名前は“環境破壊防止法適用輸送手段(VE-hicle of S-ustainable PA-ckage)”頭文字をとって“ヴェスパ”って呼んでるの。要するに共用バイクね。16歳以上の市民は誰でもヴェスパ・ステーションで借りてどこのヴェスパ・ステーションでも乗り捨てることができるの。地下鉄やタクシーに乗るほどの距離じゃないと皆“ヴェスパ”を使うわ。あ、あれがそうよ!」


目の前のロータリーをスクーターの様な二輪の乗物が走って行く。電気モーターなのかエンジン音もなくスピードの割に静かだ。


「へえ、ボクも乗ってみたいなあ」

「いいわよ。あ、でもアラシ君は外国人だから登録しなければ運転できないか。じゃあ、わたしが運転するから後部座席ね。レッツゴー!」


再びボクの手を取るとローラは広場から来た道とは違う通りに向かって歩き始めた。






【滞在2日目 15:40】


「お待たせ~え。あれえ? いないじゃん。アラシ君? アラシ君!」

「うちの娘もいないぞ。ローラ! どこにいるんだ!」


ラヴィとルブランが玩具店のビルの前に戻ってみると、ランとローラふたりの姿は既になかった。


「電話してみるか、≪ヴャ≫≪ヴョ≫≪ヴャ≫≪ヴャ≫≪ヴョ≫っと。ん? あれ? 電源切ってやがる」

「同じ年頃だから女の子同士仲良しさんになって、一緒に店の中に入ったんじゃないかな」

「そうだな。アイツ、俺と違って全然人見知りしないからなあ」

「誰がですか! 女と見れば直ぐにでも声を掛けるくせに」


とラヴィがルブランの背中をど突いた。今朝から特ダネの重圧にひとり耐えてきたのが、先輩ジャーナリストに相談できてすっかり気分的に楽になったのだ。いよいよ増して来た期待感と高揚感で軽口を叩く余裕も生まれていた。


「ともかく店内を探して見るか」

「あの子たちがいそうな場所ならだいたい想像がつくわ」






【滞在2日目 15:50】


「あそこがヴェスパ・ステーションよ」


ローラが指差す方を見ると、ガラス張りの小さなピラミッドが見えた。そこが入口なのかヴェスパを借りる人が次々入って行く。しかしそのゲートからは誰も出てこないみたいだ。


「へえ、でも入って行くだけで一向にヴェスパに乗って出てこないけど?」

「ああ、それは地下に駐輪場があるからよ。出口は別にあってそこから道路に出て行くの」

「ふうん、そうなんだ。それよりお父さん心配してないかな? ボクもラヴィさんに何も言わずに来ちゃったし・・・」

「わたしは放っといていいと思うけどね。まあ、アラシ君が安心するようにメール打つわ。えっと『パパへ ローラはお友達と一緒です。夕食を済ませてちゃんと家に帰るから心配しないでね。お仕事がんばってください。じゃあね。ローラ』送信っと」

「なんだか淡白なメールだね。父親に対する愛情が希薄なような気がするけど・・・」

「いいんだって。パパはわたしのことを愛してくれているんだけど、お仕事の方も気がかりなのよ。自由にして上げた方が嬉しいんじゃないかな。そんなことよりヴェスパヴェスパ! 行くわよ!」


と言うとローラはボクの手を引っ張り少し駈け足になりながらピラミッドに向かった。






【滞在2日目 15:50】


「おかしいなあ、絶対ファンシー小物か縫ぐるみのコーナーにいると思ったんだけど・・・」

「電源を切っていて全然電話は繋がらないし、仕方ない、全館呼び出しをかけてみるか」


ラヴィたちはオモチャ屋の店内で女の子が喜びそうな売場を探し回っていたが、ランとローラの影も形も見えなかった。


「お! 娘からメールだ」

「なんてなんて?」

「ええと『パパへ ローラはお友達と一緒です。夕食を済ませてちゃんと家に帰るから心配しないでね。お仕事がんばってください。じゃあね。ローラ』って。くーっお仕事頑張ってだってさ! あの娘はいつもパパのことを気にかけてくれているんだよ。なんていい子なんだろ」

「・・・はあ、父親からはそういう見方も出来るんだぁ。ま、ともかく今はこれしか連絡をつけられる手立てはないんだから私たちと落ちあえるよう説得してみません?」

「そうだな、じゃあメールで返信するか。えっと『ローラへ メールありがとう。パパはローラのことが心配で心配でずっと探していました。レヴィさんもお友達のことを心配しています。夕食は一緒に4人でしませんか? 連絡待ってます。 パパより愛をこめて』送信っと」






【滞在2日目 15:50】


その頃、特捜の指令車の中では、マグナダル警部の陣頭指揮の下、着々と捜査範囲が絞られていた。警部の了解が貰えたのでベルも一緒だ。


「“こちら3号車。こちらの捜査範囲には目撃者はいませんでした”」

「“そうか、ご苦労。では次のゾーンに移動してくれ”」

「“ラジャ”」

「“警部。マルタイ(保護対象)の行った美容室が判明しました”」

「“やはり美容室に行っていたか!”」

「“それで美容師に監視カメラの写真を見せたところ間違いなくマルタイだと断言しました”」

「“そうか! で、何かつかめたか?”」

「“その後の行き先については美容師も聞いていません。ただ、新たな情報としては、やはり髪を短く切って男の子の様にしていました”」

「髪を、髪を、男の子の様、きゃああああああああ~あ!」


と叫ぶなりベルは気を失って倒れてしまった。






【滞在2日目 16:00】


ボクは、ローラが運転するヴェスパの後部座席から流れ去る街並みを眺めていた。ヘルメットからこぼれるローラの長い髪が風にそよぎ、夏の光を浴びてキラキラ輝きながらボクの鼻をくすぐる。う~んいい匂いだ。甘酸っぱいジャスミンの様な香りだ。ボクも女の子になって同じような匂いがするようになってしまったけど、これは本物の女の子の匂い。やっぱりボクは男なんだ。そう思うとだんだん気分が爽快になってくる。


「ひゃっほう!」

「ちょっと、身体を揺らすのやめてよ。運転しにくいんだからぁ」

「だって嬉しいし楽しいんだよ。このヴェスパって思いのほかスピードが出るみたいだね。もっと飛ばそうよ!」

「ダメ。わたし安全運転主義なんだから」


後ろ姿しか見えないけれどローラはまだ運転に不馴れなのか、体中目一杯力が入っていてガチガチになっているみたいだ。


「あ、あれ何?」

「ど、どこ? わたし前しか見えてないんだから!」

「あれだよ、あれ。そうだ、あそこに行ってみよう!」


と言うなりボクは体重を左に傾けた。ヴェスパは綺麗に左旋回して三叉路の左の通りに入って行った。


「きゃああ! 何すんのよぉ」

「ふっふっふ。二輪車は体重移動だけでも進路変更できるんだぜ?」

「アラシ君のいじわるぅ!」


ローラは恐怖に震え、涙声になっていた。


「ごめん。ローラさんがそんなに怖がると思わなかったんだ。ごめんね」


ボクが謝ると、ローラの身体から強張りが消えて後部座席の方に身を寄せて来る感じがした。


「ローラ、ローラよ。ローラって呼んでいいわ。キミ男の子だけど」

「ローラ。じゃあボクもアラシでいいよ。キミ女の子だけど」

「うふふ」

「あはは」


ボクは急に嬉しくなりお腹の底から笑いが込み上げてきて抑えられなくなった。ボクたちは大きな声で笑い合いながら通りを疾駆して行った。






【滞在2日目 16:00】


停車した車の中から目の前をヴェスパに乗った若い男女が笑いながら通り過ぎて行くのを見ている男たちがいた。


「いいよなあ。カップルでタンデムか」

「それも女の子に乗っけてもらっていたぜ」

「だな。あんなのも楽しいかもな」」


とその時、無線が入った。


「“14号車、現在の状況を知らせろ”」

「“こちら14号車。今のところこの地区にはマルタイは現れていません”」


厳つい目をした男たちは、歩道や店を出入りする人物を目で追いながら応えた。






【滞在2日目 16:20】


「ここがお目当てのビルよ」

「なんだか・・・危なそうな雰囲気の所だね」


ボクたちは、ジェットコースターのビルの下に来ていた。見上げると遙か彼方まで窓が続き先端部分のジェットコースターは見えなかった。昨夜窓から見た時の煌びやかな電飾、心がワクワクする魅惑的な雰囲気は魔法が消えてしまった様になくなり、古びてくすんでしまった無残な摩天楼の姿は、まるで白日の下に晒された厚化粧の様だった。


「でもアラシが乗りたいのってここのジェットコースターなんでしょ?」

「うん。ローラは乗ったことあるの?」

「ないわ。このビルにだって入ったことないもん」

「遊園地なんでしょ? 子供連れが来るんじゃないの?」

「ここは大人用だもの。親子で楽しむ為のテーマパークは郊外にあるのよ」

「そうなんだ。ボクたちだけで入っても大丈夫なのかな・・・」

「なあに言ってるの! 16歳と言えばもう大人よ。アラシにはまだ無理だけど、わたしたち女の子は自分の意思で結婚だってできるんだからね」


と言うとローラは、腰に両手を当てていかにも「私は大人の女よ」とばかりに、少し前屈みになって胸を突きだした。小っちゃな胸だなぁ、絶対ボクの方が大きいよ、と思ってしまった自分に気がついて苦笑しかけたけど、何食わぬ顔で質問した。


「まだ開店前みたいだけど、何時からなのかな?」

「えっと、ああ案内ボードがあったわ。なになに・・・“新花街タワー”は日没からオープン・・・“タワーコースター”は夜9時からだって。あのジェットコースター、“タワーコースター”って言うんだね」

「まだ5時間もあるんだ・・・。それまでどうしようか?」

「ううんとねぇ、ビルがオープンするまでこの近くの通りでお店を見て歩くのは?」


ボクたちが、まだ閉じられている巨大なゲートの前で立ち止まっていると、声を掛けられた。


「そこの少年少女。なにかお困りかな?」






【滞在2日目 16:25】


「“こちら7号車。ヴェスパ・ステーションでマルタイと見られる少年を見たという目撃情報がありました”」

「“ヴェスパ? ヴェスパを借り出すにはIDが必要だぞ。誰かと一緒だったのか?”」

「“同じ年頃の少女に手を引かれています”」

「“よし、至急その少女の身元とヴェスパの乗り捨て先を調べてくれ”」

「“ラジャ”」


マグナダル警部は、ついに有力な手掛かりをつかんだとばかりに手を打ち合わせ派手な音をさせた。その音に驚いてベルが椅子から飛び上がった。


「おお、驚かせてしまいましたか。相済まんことでしたな。その代わり姫君の行方が分かるのも時間の問題になりましたぞ!」

「ああ、ありがとうございます、警部。姫様が見つかったら私をお迎えに行かせてくださいませ」

「そうですな。姫君をなだめなければならぬかも知れませんしお願いしましょうか。ではこのまま小職と一緒にいてください」


ライネリア警察庁特別機動捜査班はついにランの足取りをつかんだのだった。


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