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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第3章 「王立女学院2年生」
34/110

第32話 王都大学選手権大会(中編)

「うおおお!」


グリーン周りにいたギャラリーから大歓声が上がった。ウィニングショットとなる第3打をシャーロ先輩がしっかり鐘の横30cmに付けたのだ。相手校のアビリターレ女子高校は、第3打でグリーンを外してクリークに落としていたのでこのショットを見てギブアップ、ボクたち王立女学院が勝利した。


「シャーロ先輩、ナイスアプローチです!」

「ありがとう! 今日は3勝0敗、みんなで頑張ったよな」

「よ~し! ご褒美に合宿所に帰ったら特大ステーキにしよう。料理当番は誰だ?」

「はい、キャプテン。ボクたちです」

「おお! ランたちか。1号室の料理は旨いから楽しみだ」


ボクたちがグリーン上で喜び合っていると、それを見ていたギャラリーから手拍子が始まった。要求するように口笛も鳴り響く。


「あれってパフォーマンスをやってくれっていってるんじゃない?」


ジルが目をまん丸くして拍手の方を眺めながら嬉しそうに言う。慌てて口を押えようとしたけど、間に合わなかった。


「せえのお!」

「あ~あ、やっちゃった」

「仕方ない、踊るぞ!チーム王女の心意気を見せてやれ!」

「♪ 甘くみてると火傷をするわ~戦う乙女は過激なの・・・わたしたちはゲオル戦士~可愛い乙女なの~いくわよチーム王女 イエ~イ ♪」


こういう女子高生ノリってどうも苦手なのだが、カメラの放列やギャラリーの視線はボクに集まっている。どうせ恥ずかしついでだ、うちのチームの団結力を見せてやれ。公衆の面前で踊るのも2度目になるとそれなりに度胸もすわって来る。ボクはポニーテールを揺らして格好よく振りを決めた。


「きゃあ~! 可愛い!」

「素晴らしい! チーム王女最高!」

「俺、断然ラン姫のファンになっちゃった」

「今日は女子高同士の対戦で試合中に悩殺パフォーマンスが見られなかったけど、こうしてちゃんと期待に応えてくれるんだよあの娘たちは!」

「王立女学院は次が楽しみになるチームだな。これで第2戦を勝ち上がったから次はいよいよベスト16か」

「そろそろ大学が対戦相手だな」

「王女の元エース、レア姫が加入した王立女子大はどうなっている?」

「今日も3-0、アビリタ農大の男子チームを倒してベスト16入りだ」

「このまま行くと準決勝でラン姫と当たるな」

「今回は学校対抗の団体戦だが、この二人の能力がずば抜けていることは間違いない」

「レア姫は王立女学院時代のフォームから更に進化しているしな」

「秋に始まる女神杯予選では確実にこの二人が焦点になるだろう」

「王立女学院美人姉妹対決か。いやあ今から楽しみだ」





「ラン!」

コースからクラブハウスに戻り、女子更衣室に入ると澄んだ美しい声で呼びかけられた。


「あ! レア先輩」

「“レ、ア”でしょ?」

「あ、はい。レア」

「うふふ。それにしてもよくお似合いね。やっぱりそのミニスカートのユニフォームはランの為に作ったようなものですわ。わたくし可愛い方が大好き!」


と言ってボクはギュウッと抱きしめられてしまった。レア先輩の胸の膨らみにボクの胸の膨らみが押しつぶされ、その圧力で乳首がブラの中から上の方に逃れ出ようとする感じがした。


「あら? アナタ、もしかして乳房が大きくなってらして?」

「え? ええ・・・ベルも成長しているって言っていました」

「見せてご覧なさいな」

というや、レア先輩はボクのシャツのボタンを外して胸の前を押し広げた。プルンッと可愛いスポーツブラに包まれた色白の膨らみが揺れている。


「やっぱり! 少年ぽかったランもすっかり女性らしい身体つきになったのですね」

「あの・・・レアは女のボクはライバルなのでは?」

「うふふ。それは戦う時のお話。それ以外の時、ランはわたくしの年下のボーイフレンドであり、やっぱり可愛い妹姫なのですわ」


と言いながら、愛おしそうにボクをギュウッともう一度抱きしめた。はだけた胸にレア先輩の温もりと鼓動が伝わってくる。ボクは心臓がバクバクして全身真っ赤になってしまった。その時、


「あれえ? ランったらいいことしてるぅ」

ジルの声が聞こえたので、振り返りながら慌ててレア先輩から身を引き離そうとしたが、後ろから抱き締められて二人でジルと向かい合う形になってしまった。ジルも着替え途中の下着姿だった。


「あ! レア先輩だ。なあんだ、姉妹で旧交を温めていたのかぁ」

「うふふ。ジルさん、ランがいつもお世話になっています。この娘のこと、よろしくお願いしますね」

「はい! もちろんですとも。レア先輩の大切な妹分のことは、このジルにお任せください!」

「それにしても、あなたたちお揃いで可愛らしいブラなのね」

「下もお揃いなんですよぉ」

「レア、これ選手全員お揃いなんです、ジルの趣味なんです」

「お揃いにしようって言い出したのはランだもん」

「うふふ。王女ゲオル部も乙女の園らしくなってきたのですね。さあて、ラン。シャワーを浴びてらっしゃいな。髪を結って差し上げますわ」


ボクは汗を流して着替えた後、久しぶりにレア先輩にランちゃんカットに結いあげてもらった。鏡に映る自分の姿を見て、改めてボクは自分が女っぽくなっている気がした。


「レア、ありがとうございました」

「いいのですよ。ランを可愛くして差し上げるのが楽しいんですから」

「次の試合、ボクたち必ず勝ちます。だから、レアも絶対勝ち上がってきてくださいね」

「そうね。そうすればいよいよ直接対決になりますわ」

「そのときは・・・」

「容赦しませんわ」

「そうですよね・・・」

「でも、それは勝負のお話。終わったらまた髪を結って差し上げましょうね。勝っても負けても、可愛いランの面倒を見るのが楽しみなんですもの」

と言ってボクの肩に腕を回すと頬をすり寄せた。レア先輩の甘い匂いがした。





準々決勝の対戦相手は、王都教育大学だった。教師を育てる学校なので、部活指導者になれるようスポーツにも力を入れている様子だ。男性3名女性3名、各組男女ペアで戦うバランスのとれたチーム構成だ。


「よろしくお願いします」

「よろしく」

「ラン姫と一緒にラウンドできるなんて夢のようだわ。お手柔らかにね」

「は、はあ・・・」


ボクたちから見ると大学生はやっぱり大人だ。この女子大生は、言っていることと態度が一致していない。完全に上から目線だし「何よこの小娘」っていう感じがビンビン伝わってくる。男の子の方は、ガッシリした体格のスポーツマンタイプで爽やかな感じだ。もちろんユージンには敵わないけど。状況的に女の子3人で彼を取り合っている風に見えないこともない。なんだか調子が狂っちゃう。


「先攻は王都教大。それではスタートしてください」

大会競技委員の指示で、金属球をセットした男子学生がソードラケットを構えた。へえ、なかなか良い構えだ。『パシーッ』ダイナミックなフォームで振り抜かれた打球は高々と舞い上がり、少し左旋回しながらフェアウェイに落下、傾斜面を利用して勢いよく転がった。550m地点、グリーンまでの100mを花道から安全に狙える絶好のポジションに止まった。


「グッショッ! アレックス」

手を叩いて女子学生が喜んでいる。


「アレックスさん、素晴らしいドローボールでしたね」

「ラン姫から褒められるとは光栄だな。ありがとう」


男子のティーグラウンドからレディスの方に歩いて行きながら声を掛けたら、女子学生にもの凄い顔で睨まれてしまった。


「さてと、ユノー先輩。ここはどんな攻め方で行きますかね」

「相手にプレッシャーを掛けるのもひとつの戦術だから、王都教大の球のちょっと後にもっていってくれる?」

「ラジャー!」


このティーグラウンドは男子より30m前だから、あの球まで520mか。落下地点が傾斜しているのでドローボールだと転がりを計算できない。ボクは愛機タリスマンを起動して、これから打つ弾道をイメージした。シャフトの長さは変わらないが、いつもよりヘッドのフェースが寝ている形状に変化した。


ゆったりとしたフォームで『パシーンッ』と金属球を打ち抜く。『シュルシュルシュルシュル』と空気を引き裂きながら低い弾道で飛び出した球は、100m先でホップすると一気に高度を上げた。真上から落下するように着地、ホップ、ステップ、ジャンプの様に3回バウンドして王都教大の球の手前に停止した。


「ヒュウ~、いつもながら大したもんだわアンタは」

「ドライブショットでバックスピンをかけるとは・・・ラン姫は飛距離だけじゃなかったのか」

「ちょっと、アレックス。あんな娘に感心している場合じゃないよ。さっさと行くわよ!」

「待てよ、ヒルデ!」


なんだか王都教大チームは揉めている様子だ。

第2打地点に行くと、グリーンに向かって花道が開けていた。ボクたちの球は王都教大の真後ろ1mにあった。


「いやあ、お見事でしたね。ラン姫」

「あ、ありがとうございます。アレックスさん」

「これは偶然ですか、それとも狙った通りで?」

「イメージはしていましたけど、こんなに上手く行く・・・」

「早く打ちなさいよ。こっちは待たされているんだから!」

「そんな言い方はないだろ、ヒルデ」


反らした胸の前で腕を組み、女子学生は口の端を歪めてこちらを睨みつけていた。


「おおコワ。あの女が打つ前にピタッと鐘の傍につけてギャフンと言わせてやるよ」

「ユノー先輩、よろしくお願いします」

「まあ、見てな」


と言いながらユノー先輩は狙いを定めると、いつも通りのタイミングでソードラケットを振り下ろした。『パシーッ』と打球音を響かせて飛びだすと、金属球は真っ直ぐ鐘を目指して飛んでいく。


「よっしゃ! イメージ通りだ」

「これはいいぞ! 行けええ!」


球はグリーン手前の花道に落下すると、バウンドしながらグリーンに駆け上がり、鐘の手前1mで止まった。


「ナイスオンです! ユノー先輩」

「ありがとう、ラン。これで連中にプレッシャーがかかったかな?」


見ると女子学生が険しい顔をして、ボクたちの球が止まった位置を見つめていた。男子学生が何かアドバイスしようとしたが、それを押しとどめて彼女はスタンスに入ってしまった。なんだかぎこちない。相当に力が入った構えだなと思った瞬間、目一杯のスイングスピードで振り抜いた。『カシーン!』打った球は、ソードラケットの打面中央ではない処に当たったのか、くぐもった鈍い音がした。グリーンを目がけて飛んでいたが、次第に右に曲がり出して右側の林の中に消えていった。


「あちゃあ・・・やっちまった」

「・・・アレックス、アンタの所為なんだからね、もう!」


女子学生は憤懣やるかたないという感じで、ソードラケットを地面に叩きつけると言った。結局、林の中からグリーンまでの狭い隙間を狙った第3打も木に当たり、王都教大はこのホールをギブアップした。


その後も、チームワークとは程遠いペア相手だったのでボクたちは圧勝した。2組目は大学生相手に苦戦して負けたが、3組目が延長戦を制して辛勝し、2勝1敗で王立女学院は準決勝に駒を進めることができた。


一方、レア先輩の王立女子大は、優勝候補に挙げられるチームだけに順当に勝ち進み、ついに準決勝で王立女学院と対戦することが決まったのだった。


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