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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第3章 「王立女学院2年生」
33/110

第31話 王都学園選手権大会(前編)

『ドンッ! パパーン! パーン! パーン!』

花火の音が会場に響き渡った。いよいよ王都学園選手権大会が始まったのだ。


「よろしくお願いします!」

キャプテンのシャペル先輩が相手のキャプテンと握手を交わした。ボクたち王立女学院の初戦の相手は星雲学園だ。男女共学の王都でも結構由緒ある学校で、男子4名、女性2名のチーム構成だ。


「こら! アンタたち、顔がすっかりゆるんじゃってるよ。だらしない!」

星雲学園の女の子たちが男子を叱っている。見ると先方の男子部員が、ミニスカートのユニフォームからスラリと伸びるボクたちの12本の足を見つめたまま、目が離せなくなっている様子だ。

ボクは男子部員たちと目が合ったので小首を傾げてニコッと笑顔で応えた。


「うわ、こっちを見て微笑んでくれた!」

「か、可愛い!まるでエンジェルだ」

「ったく! いくらミニプリがいるからって鼻の下を伸ばすんじゃない!」

「ああ・・・たまらねえ。女の子っていいよなあ」

「キャプテンまで何を言ってるんですか!しっかりしてください」


「それじゃあ1組目スタートを。王立女学院は、3年ユノーさんと2年ランさん。星雲学園は、3年ガロワ君と3年マルガさん。競技方法はフォーサム、各チーム1球で選手は交互に打ってください。では最初の打順を決めましょう」


大会競技委員の指示でボクたちが先に打つことになった。


「ラン、頼むわよ」

「はい。ここは目一杯いっちゃいましょう」


ボクは愛機タリスマンHD-3500Sの競技初戦第1打を最高パフォーマンスで飾ることにした。

ティーグラウンドの周りには、両校の2組目と3組目の選手と顧問の先生や大会関係者のほか、マスコミも結構いるようだった。


「あれが噂のミニプリか。実物の方が写真よりずっと美形だな」

「ええ、背は低いけど小顔だしあの細さなので女性にも相当評判になっているの。彼女の記事を載せると部数が3割方伸びるわね」

「容姿のことだけを言ってる様じゃ『週刊アビリタ女性』さんもまだまだだな」

「なあに? 『月刊ゲオルスポーツ』さん、何なんです思わせぶりに?」

「まあ、見てなさいよ。あの娘の本当の魅力は今日これから姿を現すんだ。噂通りならね」


王都国際ゲオルフィールド『立春|(1番ホール)』は全長650m。ティーグラウンドから打ちおろしで一直線にグリーンの鐘を狙っていく豪快なホールだ。


ミニスカートから覗きそうになるランジェリーを気にかけながら、揃えた膝を軽く曲げてボクはティーグラウンドに自分の球をセットした。背後で見ていた連中から「おお!」とどよめきが起きる。


「見たか?」

「ああ、見えた。赤白のボーダーだ」

「くうーっ可愛い。まさにキャンディだ」


国王の命令でミニしか着ることができなくなって半年、ボクもすっかり慣れっこになってしまった。ギャラリーの反応を気にする素振りも見せずに構えに入った。愛機HD-3500Sのグリップエンドのスイッチを入れると「ヴオン」と低い起動音がして、ピンクのシャフト内で回転音がし始めた。


「さあてっと・・・地平線を越えて向こう側まで飛ばすイメージで・・・」

ボクが描いたイメージに集中すると、愛機が「シュン」と音を発してヘッドは紡錘状に、シャフトは細く長く形状変化した。


「流麗なヘッドの形がとってもフェミニンだわ。ピンクのシャフトが更に可愛らしさを引きたてているし」

「そんなことよりタリスマンをあそこまで同期させるとは凄い集中力だ」

「そんなに大変なことなの?」

「プロでも同期させるのは難しいって話だ。俺たちが構えてもウンともスンとも言わないだろう」


急速にシャフト内部の回転音が高まるとソードラケットが眩いプラチナホワイトに光り輝き始めた。瞬間、ボクはゆったりとしたリズムで球を打ちぬいた。『シュパッ』と空気を引き裂く音とともに低い弾道で飛び出した球は、100m先で急激にホップすると猛烈な摩擦熱に輝きながら遙か彼方に消えて行った。ボクのお尻をニタニタしながら見ていたギャラリーは呆然としたまま口が半開きになり、あっけにとられたのか粛として声ひとつ出なかった。


しばらくして「うおおお!!」とグリーンの方から大歓声が上がった。ティーグラウンドでもようやく忘れていた息をする音やどよめきが起きた。


「おいおい、乗せちまったみたいだぜ」

「650mをか? いくら打ち下ろしでも無理だろう」

「それをやってしまったんだよ、あの娘は!」

記者たちはまじまじとボクを見つめ直した。


「やったわね!」

ユノー先輩とボクはハイタッチして喜び合った。次に打つ星雲学園は、いまのショットを見て方針を変更し男子のガロワ君ではなくマルガさんにした。男子は女子より更に30m後ろから打たなくてはならず、1ホール目の1打目で飛距離の差を歴然と見せつけられてしまうことだけは避けたい様子だ。


星雲学園の1打目マルガさんのショットは300m地点、2打目ガロワ君がその球を打って600m地点、残り50mをマルガさんが見事に寄せて鐘の横5mにグリーンオン。その間、ボクとユノー先輩はすることもなくソードラケット片手にぶらぶらと散歩気分だった。


グリーンに上がってみると、ボクの1打目は鐘の奥3mに止まっていた。結局、星雲学園がギブアップし、ボクたちは2打目を打つことなく1ホール目『立春』をゲットした。その後は完全にボクたちのペースで、3ホールを残した段階で5ホールを奪取、5&3で圧勝した。続く2組目はよく善戦したけど男子2名の星雲学園と女子だけの王立女学院のパワーの差で2&1で惜敗。勝負は3組目次第となった。


「最終ホールまでイーブンで来ちゃった」

3組目の戦いを見に最終『冬至(8番ホール)』のティーグラウンドで待っていると、そう言いながらキャプテンのシャペル先輩がやって来た。ペアを組んでいるシャーロ先輩も張り詰めた雰囲気だ。


「結構、星雲学園もやりますね」

「ここまで1勝1敗だって? うーむ、うちの組で決まるんだよなあ」

「大丈夫ですって。先輩たちならいつものショットで負かしちゃいますよ」

「ランはプレッシャーを感じない“鋼の女”タイプ?」

「こんなに可愛くて華奢でお尻の小っちゃな鋼の女なんていませんよぉ」

「自分で言ってりゃ世話ないわ」

「あはは」

「えへへ」


先輩たちもすっかり緊張が解けたみたいだ。そこに2組目のトノワ先輩とジルも駆けつけてきて最終ホールのティーグラウンド上に王立女学院メンバー全員が揃った。何を思ったかジルが言い出した。


「ねえ。せっかく12本の綺麗な足が揃っているんだし・・・やりませんか?」

「やるって? なにを・・・」

「え? あれをか・・・」

「そりゃ、まずいだろ」

「せえのお!」


ボクたちが止めるのも聞かず、ジルは掛け声を掛けてしまった。こうなればノリで行くしかない。ボクたちも覚悟を決めてジルに合わせて歌いながら踊り出した。実はランジェリー事件のあった風呂場の集会のときに、せっかくお揃いの下着を着ているのだから楽しんじゃおうと、自分たちで振付けてパフォーマンスを練習していたのだ。いかにも女子高生っぽいノリに、ボクは顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったけど、手を振り足を振り腰をフリフリ頑張った。


「♪ 甘くみてると火傷をするわ

戦う乙女は過激なの

栄えある勝利をつかむため

最後の最後の最後まで

絶対あきらめたりしないわ

わたしたちはゲオル戦士

可愛い乙女なの

いくわよチーム王女

イエ~イ ♪」


ギャラリーから大歓声があがった。競技委員も拍手している。なんと星雲学園の男子たちも歓声をあげている。


「おい、鼻から血が垂れているぞ」

「おっすまん。全員お揃いのショーツだったものでつい見とれてしまった」

「しっかし、試合中にこんなええもん見られるとは」

「バッカじゃないの! ほんと男の子ってしょうもないんだから。女を武器にするあんな姑息な手に引っ掛かってどうするのよ!」

「だったらお前たちもやればいいじゃないか」

「向こうは女なの!私たちがやってもな~んにも意味ないのよ」

「じゃあ、俺たちがやるか?」

「バカッ! そんな薄汚いもん見たくない!」


星雲学園の選手たちの間で言い争いが起きていたが、競技委員の指示でシャーロ先輩がティーショットの準備に入った。試合の最終ホール第1打はただでさえ緊張するものだが、このホールで勝ち残るか敗退するかが決まるとなると相当な重圧だ。でも、直前に照れながらも楽しく踊ったのでシャーロ先輩の緊張はすっかり解けていた。


「シャーロ先輩! 軽ーくいっちゃってください!」

「よっしゃ、任せな。ラン」


シャーロ先輩がその体格を活かした広いスタンスで構えると、ソードラケットは唸りをあげてシャフトは限界まで伸び、ヘッドの形状も空気抵抗を極限まで抑えた砲弾型に変化した。一瞬の静止の後、ゆったりと振りあげると渾身の力を込めて球を引っ叩いた。『ブァキーン!』瞬間、ボクは球が押しつぶされて扁平になったのを見た気がした。『シュルシュルシュル』と空気を引き裂く音が続いたと思ったら、フェアウェイど真ん中480m先に落下した。


「うおおお! スゲー」

ギャラリーからどよめきが起きた。


「ビッグドライブです!」

「ありがとう。でもランには負けるがな」

「あれは打ち下ろしで、たまたま追い風があっただけなんです」

「ふふ。そういうところがランなんだよな。いまのショットはお前の応援のおかげだ。ありがとうな」


星雲学園の第1打は男子選手だった。30m後ろのティーマークからで、大きな図体を振り絞って叩いた打球は高い弾道長い飛行時間で500m先に落下した。王立女学院第1打の直ぐ後だ。



星雲学園の第2打は残り330m。女子選手が集中するとソードラケットは最大長に形状変化した。観戦しているギャラリーの小声のやり取りが聞こえて来る。


「あそこからあれで狙うのは少しリスキーじゃないか?」

「いや、先攻がここで安全に刻んでいくと、後攻に余裕を与えてしまい不利になるから狙うしかないんだ」

「彼女の飛距離から言うとグリーンに乗るかどうかは五分五分、むしろ手前からグリーンに沿って流れるクリークに捉まる危険の方が大きいんじゃ・・・」


フルスイングで打ち抜いた球は、グリーン手前で勢いがなくなり吸い込まれるようにクリークの中に落下した。「あああ!」と声が上がる。次の瞬間、『ゴン』と岩に当たる音がして球が跳ね上がった。球は風に乗るようにしてフラフラと舞い上がりグリーンに落下、鐘の手前10mに停止した。

ギャラリーからチャレンジした強い気持ちと見事にやり遂げた成果に対して温かい拍手がわき上がる。


「やるじゃない。となると私も狙うしかない」

シャペル先輩が言った。キャプテンとしてチームを率いる強い責任感が滲み出ている口調だった。緊張しているのかなと顔を窺ったら、ボクたちの方を見てニッコリ笑っている。


「♪ 最後の最後の最後まで~絶対あきらめたりしないわ~ ♪ だろ?」

「そうですキャプテン! ♪ わたしたちはゲオル戦士~可愛い乙女なの~いくわよチーム王女~ ♪」

ボクたちは続けて歌った。


キャプテンは320m先のグリーンに向かって構えた。キャプテンの最大射程は330m、届く距離だが少しでもブレると小川などのハザードが待っている。『キーン!』と最高回転まで高まったシャフト内部の音だけが聞こえる。緊張の一瞬、ゆったりとソードラケットを振りあげると正確なスイングで金属球を振り抜いた。


「行けえ!」

ボクたちは球に向かって叫んだ。放物線を描いてグリーン手前のフェアウェイに落下した球は、ワンバウンド、ツーバウンドして、手前の小川を飛び越えるとグリーン上を鐘に向かって転がった。


「当たれえ!」

「うわああ!」

ギャラリーから悲鳴にも似た叫び声が上がる。キャプテンの打った第2打は、鐘をかすめて1m奥に止まった。


星雲学園の第3打目は鐘に当たらず、4打でホールアウト。シャーロ先輩が第3打をきっちり鐘に当てて第3組は1&1で勝利、ボクたち王立女学院は初戦を2勝1敗で突破し勝ち上がった。


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