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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第3章 「王立女学院2年生」
28/110

第26話 新入生とサークル勧誘

「ほう、見事なものじゃ」

「ほんに。花吹雪の舞う中、ラン姫の乗馬姿は一幅の絵のようです」

季節は4月。ボクは満開の花を咲かせた樹々に囲まれた王宮の馬場で、国王陛下と王妃殿下に乗馬を披露していた。


「あの白馬はなかなかの名馬と見たが?」

「は。小型馬でありながら王妃杯を制した花嵐の血を継ぐ花手鞠にございます」

貴賓席で傍に従っている公爵が説明する。


「そうか、あの花嵐の仔であったか。サンブランジュは名馬の産地であるからの」

「最近の姫たちはろくに女鞍も使いこなせないと申しますに、ラン姫はよき貴婦人になりましょう」

「あの乗馬服が予の許しを得たものか?」

「は。侍従長を通じ陛下のお許しをいただきましたものにございます」

「ラン姫の美しいお御足はそのままに、風にあおられても恥ずかしゅうないよう内履きにしたのですね」

「なかなかに目を楽しませてくれる。公爵、よき姫を持ったの」

「ありがたきお言葉」


ボクは花手鞠から降りると、ミニの裾を軽くつまみ膝を曲げて挨拶をした。

「見事であった。ゲオルもあろうが乗馬にも励み姫たちの手本となれ」

「はい、畏まりました。それと御礼を申し上げるのが遅くなりましたが、王室舞踏会にご招待くださりましてありがとうございました」

「姫も16になったのでな。予も妃も姫のデビューを楽しみにしておるのじゃ」

「ほんに。姫がどの様な衣装を着てこられるか、誰にエスコートされて見えるか楽しみにしていますよ」

「は、はい。なんとか・・・ま、間に合わせたいと思っています」

「この姫は晩熟なのか男性恐怖症のところがございまして、先日も男たちを前に冷や汗を流しておりました」

「あははは、それは公爵も困ったのお。世継ぎを産んでもらわねばならんのじゃから」

「ほほほほ、姫にもいずれ殿方が怖くなくなるときが来ますよ。子を身籠るのが何より女の幸せですからね」

「・・・はい。頑張ります」

ボクはそうとしか答えようがなかった。





「姫様、リシュナ侯爵家ユージン様からの見事なお花です。付いていたお手紙はこちらに置いておきました」

メイドのレーネが指し示した花瓶に飾られたボリューム感たっぷりの花を見て、ボクはげんなりした。王宮から戻るとユージンからまた花が届いていたのだ。


「優しいお方じゃありませんの。姫様を喜ばそうと週に1度必ずお花をお贈りくださるなんて」

ベルは片目をつぶってみせた。ボクがユージンに恋していると決めつけているのだ。

「ボクは花なんかもらっても嬉しくないの」

「うふふ。姫様は色気より食い気、花より団子の方ですからねえ。で、お手紙にはなんと?」

「うん・・・『ラン姫様の部屋を飾る花がうらやましい・・・お会いする日を気長にお待ちします』って」

「きゃ~あ、素敵~い!胸がキュンとしますわ」

カーラが胸の前で手を合わせて興奮している。

「姫様も罪なお方ですよ」

レーネが言った。

ベルが面白そうにボクがどう反応するのか見ている。

「なんで?ボク何もしていないもん」

「その、何もされないことが罪深いんですよ。一度はお約束されたのに日延べしたままにしておかれるなんて」

「あまり薄情なことをされますと、どこかで神様にしっぺ返しされますよ」

「だってさあ、ユージンと二人で会うのが怖いんだもん」

「それは姫様がユージン様をお好きだからなんですよ」

「そんなことないって。第一、会ってもどうしていいのか分からないし・・・」

「姫様は本当にネンネなんですねえ。男と女が会ってすることと言えば・・・」

「まだ16歳ですもの。姫様は女神杯に集中しなくてはならない大切な時期です。男遊びはその後のお楽しみでいいんですよね」

ベルがこの辺で開放してやろうと言葉を引取って言った。


メイドたちが出て行った後も「好きなんでしょ?」としつこく絡んでくるベルに、ボクは反駁はんばくする。

「ベル。男友達だったらともかく、絶対にユージンと恋人にはなれないよ」

「ランさんは男ですものね。でも正直なところ、ランさんはユージン様を前にするとご自分でも気持ちのコントロールができなくなる、だからお会いになりたくないんでしょ?」

「・・・うん。ベルの言うとおりかも。自分が男でなくなりそうで怖いんだよ。そのまま女の気持になったとしても身体は男なんだし・・・不幸なことになるのは目に見えているよ」

「そうですねえ、では男女の関係のない状況で会われてはどうですか?」

「え?」

ボクは思いがけない提案に虚を突かれた。確かに男も女も関係ない状況でならば会えるかも・・・ボクはベルの提案をじっくり考えてみることにした。





「“それでは新1年生の皆さん、これから3年間伝統ある王立女学院の生徒として、常に社会の模範となる女性を目指ししっかり学業に励んでください。ご入学おめでとう”」

女学院長の挨拶に大講堂内から拍手が上がり入学式は終了した。


「ラン。新入生勧誘するからお前、例のユニフォームに着替えて来い」

新キャプテンのシャペル先輩に言われ、ボクは部室でユニフォームコレクション金賞受賞のユニフォームに着替えて大講堂前広場に出てきた。すると・・・


「きゃ~あ!ランさんよ」

「ミニプリだ!」

「うわあ、可愛いい!」

「細っそ~い!」

「顔小さ~い!」

「色白ろ~お!」

オリエンテーションが終わって、大講堂から出てきた1年生たちに取り囲まれてしまった。新1年生とはいえハイヒールブーツのボクと殆ど変らない背丈だから、壁ができた様で身動きがとれない。


「あ、あの。ゲオル部の勧誘はあっちだから・・・、ボク行かなくちゃならないので」

「ボク?ランさん自分のことボクって言うんですか?」

「かっわい~い!!」

「そ、そうなんだけど・・・と、ともかくここ通してもらえるかな?」

その時、壁の上に顔が覗いた。


「こら!新入生。先輩が困っているじゃないか。ほら通り道をあけろ!」

「シャーロ先輩!」

「ラン。お前、小っちゃくても上級生なんだから、こんなことで涙目になるな」

ボクはシャーロ先輩にがっちりガードされて人波を抜けた。ボクとゲオルで張り合う飛ばし屋だけあって男性なみの体格をしているのだ。新入生も上空からジロッと睨まれてすくんでしまった。


「はいよ、キャプテン。お届けもんだ」

「遅くなって済みません」

「なんだ?ラン、どうかしたのか?」

「ランが新入生どもにとっ捉まっていた処を救い出してきたんだ」

「そりゃいい!入部希望が殺到するぞ」


シャペルキャプテンの言うとおり、ゲオル部のブース前には直ぐに人だかりができてしまった。他のクラブが羨ましげにこちらを見ている。


「では入部を希望する者は明日までにこの用紙に書いて顧問のソーマ先生に提出すること。理由欄につまらんことを書く奴は容赦なく落とす。そのつもりでちゃんと書くように。以上だ。何か質問あるか?」

「は~い!つまらんことって具体的に言うと何ですか?」

「ラン先輩に憧れて、とかラン先輩に憧れて、とかラン先輩に憧れて、とかだ!」

「じゃあ、ラン先輩に質問!」

「え、ボク?」

「きゃ~あ!ボクだってぇ!かっわい~い!」

「はい、はい、はい、はい!ゲオル部のサークル勧誘はこれまで。解散!ほら新入生散れ!」


「ったく、困ったもんだな。ランももう少し・・・・・・無理か」

「キャプテン何ですか?」

「可愛すぎるんだよな、お前。言っても仕方ないことだけど。こうしてレア先輩からランへとゲオル部の看板娘が引き継がれた訳なんだろうな・・・」

キャプテンは腰に手をあてたまま、なおも遠巻きにしてこちらを見ている新入生集団とボクとを見比べながら大きくため息を吐いた。





「ラン!そっちの新入生勧誘終わったんでしょ?」

ユニフォームから制服に着替えて部室から出て来ると、サリナとパメルが待ち構えていた。


「うん。入部希望の用紙を100枚用意したんだけど余らなかったよ」

「ゲオル部って凄い人気じゃないの!」

「さすがはラン副キャプテンだね!」

「そ、そんなことないって。シャペル先輩がきちんと部活の説明をしたからだよ」

「それはともかく、この後は暇だよね?」

「うん。ベルが迎えに来るまでは時間あるけど?」

「よっしゃ!じゃあ一緒に来て!」

と言うなり二人は両側からボクを抱えるようにして廊下を走り始めた。


「ひょっとして・・・ここは」

「ピンポン!大当たり」

調理実習室の扉が開くとエプロンと三角巾姿のミーシャが待っていた。中にはお菓子の焼ける甘い匂いがしていた。


「ラン、疲れているところ悪いね。新入生の集まりが悪くって、呼び込みを手伝って欲しいのよ」

「ボクが?ここスイーツ部でしょ?部員でもないのに呼び込みやったら新入生に嘘つくことになるよ?」

「規則では体育会系サークルの生徒も文化系サークルの掛け持ちして構わないことになっているのよ。部員とは言わない、いまから準部員もしくは部友になってもらえない?」

「部活が忙しいから掛け持ちなんてできないよ・・・」

「名前だけでいいから。そう・・・ランの部活は食べて感想を言う、というのでどう?」


ミーシャは2年だけどスイーツ部の部長なのだ。メジャーな料理部に比べてスイーツ部の歴史は浅く、女の子が喜びそうなテーマであるにもかかわらず活動が地味なのか部員も少ない。先月卒業した先輩たちがいなくなると部員はこの三人娘だけになってしまった。これでもし新入生が入ってこないと廃部になってしまうのだ。王立女学院に来て最初に仲良くなったクラスメイトの、ミーシャたちに拝み倒されてボクは断りきれなくなってしまった。



「新入生のみなさん!まだ部活決めていないんだったらスイーツ部も覗いてみませんか?」

「あ!ランさんだ」

「ホントだ!制服姿も可愛いねえ」

ボクが実習棟の前で声を掛けると、直ぐに人だかりができてしまった。


「ランさん、スイーツ部も掛け持ちなんですか?」

「う、うん。一応メンバーなんだけど・・・」

「ランさんがいるなら入部しようかなあ」

「でもさスイーツ部って言ってもクッキーや菓子パン作るだけって聞いたけど」

「3年間やるにしてはちょっと地味かも」

「と、ともかく調理実習室で説明しているから覗いてみて!」

「じゃあ、ランさんが案内してくれます?」

「うう・・・分かった。じゃあ一緒に来て!」

ボクが調理実習室に向かうと、人だかりがそのまま移動してきた。



「というのがスイーツ部の活動内容です。何か質問はありますか?」

ミーシャが説明を終えると直ぐに手が挙がった。


「はい!ランさんは何が得意なんですか?」

「え、ボク?」

「きゃ~あ!ボクだってぇ!かっわい~い!」

また大騒ぎだ。ミーシャたちもあっけに取られている。


「ボクは・・・田舎でチーズとかバターなら作ったことあるけれどお菓子は作ったことないんだ・・・」

「ラン先輩はいいの。公爵家姫君ですからお菓子は作ってもらうんです。ということで皆さんが作ったお菓子もラン先輩に味わってもらいます」

「うわ!ランさんに食べてもらえるんですか?」

「やった!」

「これは作り甲斐があるわね!」

「じゃあ、入部希望者はこちらで手続きしてください」


という訳で無事スイーツ部にも結構な数の1年生が入部したのだった。これがその後のボクの苦難の始まりでもあったんだけど・・・。


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