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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第2章 「ミニスカートプリンセス」
24/110

第22話 ラン姫の悩みと新年の誓い

3つ目となる今日最後の夕陽が水平線に沈み、真っ赤に染まった冬離宮にもポツポツ灯りが点りはじめた。あと数時間で宇宙暦12011年が暮れる。


「姫様。そろそろお召し替えを」

ワンピースの背中のホックを外され、ボクはベルたちのするがまま、されるがままに着替えていく。無理やりビキニタイプの水着を着せられて以後、すっかりあきらめ気分になってしまった。あれ以上に恥ずかしい格好はないので、もう他の衣装はどうでもよくなってしまったのだ。


「では、こちらのお袖にお手をお通しくださいませ」

「うん。ねえ、今日は徹夜になるんでしょ?」

「ええ。カウントダウンの後はその流れで新年パーティになりますので」

「姫様はまだデビュー前ですから適当なところでお引き上げくださいませ」

「楽しかったらずっといてもいい?」

「ベルの言うことをちゃんとお聞きになるのでしたら」

「うん。分かった」


メイドのレーネとカーラがミニでデザインされたビスチェドレスのすそを直したり背中のリボンを結んでいる間に、ベルはボクの首を豪華な金細工のチョーカーで飾る。幅が5cmはあるので結構重いのだ。女装をさせられるようになって10カ月、随分女の子が身に着けるものにも慣れたけど、これを首に巻きつけられると自分が犬になったみたいな気分になる。


「さあ完成。出来上がりましたよ」

「まあ!なんてお綺麗なんでしょ」

「姫様はお顔が小さくお首が細くてらっしゃるから見栄えがするんですわ!」

「うううワンッ!」

「めッ!姫様お戯れも大概になされませよ!」

ベルに怖い顔で睨まれてしまった。





「“10”」

「“9”」

「“8”」

年越しのカウントダウンが始まった。冬離宮の前の広場は着飾った市民でいっぱいだ。


「“3”」

「“2”」

「“1”」

カウントゼロと同時に夜空に花火の閃光が輝き、少し遅れてドンッドンッと爆発音が響き渡った。人々の間から大歓声が上がり新年を迎えた喜びで満たされた。こうして宇宙暦12012年が明けた。


「“ハッピーニューイヤー!”」

「“新年おめでとう!”」

「“公爵様ばんざい!”」

公爵とボクは冬離宮のバルコニーに並んで立ち、広場に向かって手を振る。そこここから音楽が流れ始め歌う人踊る人飲む人食べる人、ひと、ひと、ひと、街中がパーティー会場のようだ。





「あらたまの年をこうしてまた皆と迎えることができた。3年ぶりであったが、やはり故郷サンブランジュでの年越しはいいものじゃ。今年はランもともにいてくれる。この幸せを神に感謝し新しい年が実り多きことを願い杯を挙げよう」

公爵の新年の挨拶を受けて冬離宮の大広間に招かれたサンブランジュ島の主だった市民が一斉にグラスを挙げ乾杯した。


「ランや」

「はい?お父様」

「よくぞ予の養女になってくれたの。改めて礼を言うぞ」

「も、もったいのうございます。ランはよき姫になろうと心掛けていますが、至らぬばかりで亡き姫君様の足元にも及びません」

「ランはマリアナと瓜二つであるが別の女性じゃ。ランはランなのじゃ。ランはゲオルの遣い手であり乗馬の素養も見事なもの、機織りもこなすではないか。さらにその上で、予の為にマリアナの代わりを努めようと日々心配りをしてくれているのじゃ」

「そ、そんな。持ち上げ過ぎです。天に昇っちゃいますよ」

「あはは。それは困る」

「じゃあ、この話はおしまい。いい?」


ボクは冗談めかして話を切り上げたけど、改めて公爵から感謝されたことにかなり戸惑っていた。やはり公爵はボクを正式な公爵家後継ぎとして考えているのではないか?だとすればボクは公爵家の姫君として子孫を残す義務を負うことになってしまう!男だから当然子供なんか産めやしない。だったら姫から王子に性転換させてもらったら?だめだ・・・ボクの身体はもう男性としての機能も損なわれているんだった。ヴェーラ博士から言われたことは、女性ホルモンを長期間投与し続けると男性としての機能は元に戻らなくなる、さらにホルモンバランスの崩れが肉体的に悪影響を及ぼすので男性ホルモンを分泌する最大の機関である精巣を切除しなければならない、ということだった。だからボクの身体には睾丸がない。地球に戻る為のやむを得ない取引だったけれど、一生ボクには子供ができないのだという忘れかけていた事実が、また重く圧し掛かってきた。


「ひ、姫様あ!こ、こちらにお出ででしたか。こ、これは公爵様もご一緒で。父娘仲睦ましいところお邪魔いたし大変失礼おば、おば」

大分ご酒を聞こし召して真っ赤な顔になっている老人が寄ってきた。


「市長。ご機嫌のようじゃな?」

「そ、それは当然のことでございますぞ。こ、公爵様が3年ぶりにご帰還なされ、こうして新年を、ご、ご一緒に迎えさせていただけたこと、りょ、領民として嬉しくない者がありましょうや!」

「ははは。予も皆とともに迎えられて嬉しいぞ。で、姫に何用じゃ?」

「ひ、姫様にお願いしたきことが、あ、ありまして」

「ロノー市長様。お願いとは?ランに出来ることでしょうか?」

「も、もち論にございます。広場におる市民どもが、どうしてももう一度姫様のご尊顔を拝したいと、む、無理を申しておりまして・・・なんとかお願いできないものかと」


そういえばさっきから、広場の方で『シャン、シャン、シャン、シャン』とカーテンコールを求めるような手拍子が聞こえてきている。新年パーティーで盛り上がっている中、きっと若くて綺麗な女の子が見たいんだろうなと、男のボクにはその気持ちが理解できた。


「市長様。分かりました。でもその前に、ベル」

ボクがベルに耳打ちすると、ベルは準備の為に急いで大広間から出て行った。





「お!バルコニーを見ろ」

「あれは市長じゃないか?」

ロノー市長がバルコニーに姿を現した。


「“皆の衆!願いが叶ったぞ!姫様のお出ましじゃあ!”」

「“うおおおお!”」

大歓声が上がった。その時、全ての照明が消えて広場は真っ暗になった。突然の停電に人々がどよめく。

遠くの方から『カカッ、カカッ、カカッ、カカッ、カカッ』と馬が石畳をひづめで蹴る音が近づいてきた。冬離宮の城壁の上の武者走に照明が点り、長い髪をなびかせた少女を乗せた白馬が現れた。


「おお!ラン姫様だ」

「抜けるような白い肌が真珠のように輝いてるぜ!」

「揃えられたお御足の美しいこと!」

「あの乗り方は何だ?女らしくていいじゃないか!」

「知らねえのか。あれは女乗りだ。そんじょそこらの女にはできやしねえ。やっぱ姫様だぜ」

「ああ!危ない。姫様が振り落とされる!」

城壁の真ん中に来ると白馬は前足を宙に持ち上げて二本足立ちになったのだ。


「すげえ!後足立ちだ」

「女乗りで馬の後足立ちをやってのけるなんざ大した姫様だぜ!」

「おお!手を振っておられる」

「なんて愛らしいんだ!」

「地球から来た娘ってどうなんだとも思ったが、ラン姫様は俺たちの女神だぜ!」

「姫様ばんざい!」





「姫様、この記事をご覧くださいませ。『騎馬の麗人の正体はラン姫だった!』ですって」

「こちらの方が凄いですわ。『じゃじゃ馬姫現る!』」

ボクのメイドのレーネとカーラが新聞に載っている記事を読み聞かせてくれている。ボクはベルに髪をブラッシングされながら、ため息を吐いた。


「はあ、もういいから。ボクもやり過ぎたと思って反省しているんだし勘弁してよ。またベルに叱られるもん」

「ベルは叱りませんよ。姫様のサービス精神には感心しているんですから。ただ・・・」

「ただ?」

「ただ、姫様が乗馬がお上手だと世間で評判になってしまったことで、また危ないことをなさらないかが心配なのです。姫様は女神杯に出場される大切なお身体なのですよ」

「ごめんなさい。もう後足立ちはしません」

「お約束ですよ?」

「はい。反省してます」


ベルはボクのことを男だと知っていて、着せ替え人形みたいに可愛くしたり、素肌をさらす格好ばかりさせようとしたり、乳房を強調して女らしくしようとするけれど、本気で怪我をしないか心配してくれているのだ。完全な味方じゃないのかも知れないけれど、ボクは調子に乗って勢いで危険なことをしてしまい、いつも傍にいる唯ひとりの理解者であるベルに心配かけたことを反省した。


映像通信が入った。『親展』だ。ベルたちが退出したのを確認して応答した。

「はい、ランです」

「あらまあ!キリュウ君また一段と綺麗になったわねえ」

「ヴェーラ博士の日焼け止めのおかげで、しっかり素肌を露出させられていますからね」

「そうよ、女は人から視線を浴び、注目を浴びることで、どんどん綺麗になるものなの」

「女じゃないし・・・」

「そんなこと言わないの。見たわよ、あの水着。ニュースでも大評判になっていたんだから。それから昨日の乗馬姿。ドレスからのぞく細い足が綺麗だって女の子たちも騒いでるわよ。キリュウ君、キミ王都に帰ったら大変よ」

「こっちでもなんです・・・はあ」

「なあに?宰相閣下との約束を果たすための大前提である『誰ひとり疑うことのない憧れの女性、女から見ても理想の女性』になったっていうのに気がふさいでいるの?」

「先生、宰相閣下は本当にボクを地球に帰してくれるんでしょうか?」

「疑っているの?閣下は一国の宰相なのよ。国の名誉にかけて約束は守るわ」

「そう・・・ですよね」

「なあに?まだ不安があるの?」


ボクはヴェーラ博士の立体映像に、ためらいながら上眼づかいで訊いた。


「公爵や、公爵家の人たちはどうするんですか?」

「あら、そういうこと。キリュウ君、キミって優しいのね。地球に帰る為の居候だと割り切ってもいいのに、残される人たちのことを心配しているんだ」

「そりゃ、そうですよ。公爵も他の人たちもボクのことを姫様として大切にしてくれているんですから」

「その期待を裏切りたくないって?」

「・・・いずれボクは地球に帰ってしまい、いなくなる身なんです。それを言わずに期待だけさせていると思うと、とっても心が痛むんですよ」

「キリュウ君。キミさあ、女神杯は来年だし、女神杯が終わって地球ゲートの準備ができるまで、まだたっぷり時間があるのね。その間に状況がどう変わるか分からないし、キミだって気持ちが変わるかもしれないじゃない」

「ボクの気持ちが変わる?・・・・ここに残ることを選択するっていうこと?」

「可能性よ。何が起きるかはその時になってみなければ誰にも分からないの。だからキミが地球に帰ることを公爵に言わなかったとしても、何も後ろめたいことはないの!キミは今を生きて楽しむことだけ考えていればいいのよ」


納得した訳ではなかったけど、ヴェーラ博士の言うことを聞いて少し心が軽くなった気がした。


「ところで、今日のご用件は?」

「あ?そ、そうだったわね。すっかり話に夢中になっちゃった。急がないし用件は今度にするわ。じゃあ王都に帰ったら連絡頂戴。定期健診したいしね。じゃあね!」


と言って通信が切れた。何か言いよどんでいたけれど、ボクに用件っていったい何だったのだろう?





「公爵様、姫様のご帰島を、領民一同心待ちにしておりますので、是非ともお早い時期にお戻りください」

離発着場の広場で市長が挨拶をした。


「市長、いろいろ世話になった。次はランを連れて夏離宮に参ろう。それまで皆息災で過ごせよ」

「市長様。ランは楽しゅうございました。この島が大好きになりましたよ」

「おお!これは嬉しいお言葉。姫様は島の女神にございますぞ。いつでもお戻りを」


専用飛行車のタラップを最上段まで上がったところで、公爵とボクは振り返って手を振った。広場を取り囲んだ人々から拍手と歓声が上がる。それに応えてボクはいつもより大きく手を振った。


「楽しかったかい?」

「ええ、とっても!お父様は?」

「予も楽しかった。それにしてもランは女神杯を目指すだけあって素晴らしいゲオルの遣い手だな」

「うふふ、ありがとう。今年はいよいよ女神杯の予選が始まるの。お父様とゲオルする機会が少なくなるけれど、その分、ランは1試合1試合お父様への贈り物として勝利を目指すことにするわ」

「そうか。ならば予もランの戦いぶりを楽しみにすることにしよう」


王都アビリターレに向かう飛行車の中で、ボクはこれから始まる女神杯までの試合を、公爵に勝利を捧げる為に戦うと宣言した。こうしてボクの冬休み、初めての公爵領滞在は終わった。


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