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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第10章 「女子ゴルフか男子ゴルフか」
101/110

第98話 関東大会はじまる!

≪シャン♪ シャン♪ シャン♪ シャン♪ シャン♪ シャン♪≫

≪ジングルべ~~~♪ ジングルべ~~~♪≫

≪ウオ ホッホホ~♪ ウオ ホッホホ~♪≫


トナカイの鈴音にサンタの笑い声、クリスマスソングがそこ此処にあふれ、街中はクリスマスムード一色だ。

学生は冬休みに入ってほっと一息、社会人も今年は天皇誕生日からクリスマスにかけて週末と重なったおかげで3連休。そんな年末の賑わいの中で、ボクは高校ゴルフの関東大会に出場することになった。


大会は3日間の日程で都内から車で2時間ほどの千葉県のゴルフ場で開催される。初日は公式練習日、2日目と3日目が競技会で、2日間36ホールの合計スコアで順位が決まるのだ。この大会は春の全国大会の予選を兼ねていて、上位入賞者には出場権が与えられることになっていた。


春の全国大会は3月末に開催されるのだが、3年生にとっては卒業後の開催となるため出場できない。そういうことなので通常3年生は冬の関東大会は辞退するものなのだそうだが、うちの先輩たちと来たら・・・。


「おいキリュウ。オマエといっしょに母校の名誉を賭けた大会に出られて嬉しいぜ!」

「ランちゃ~ん♪ こっち向いて~え♪ く~~~カワイイ!!」

「そのセーラー服姿もいいけど、やっぱキリュウは女子のユニフォーム姿だよな!」

「俺はすぐ後ろの組だから、オマエの華麗なスイングを楽しみながら戦うぜ!」


競技会場に向かうバスの中で、前の部長と前のエースたちが嬉しそうに叫んでいる。


「先輩たち。今日は応援に来たとかじゃなくて、本当に出るんですか?」

「そりゃあ出場申込みしちまったからな」

「他校で3年の先輩が出ているところなんかありませんよ?」

「他校は他校、俺たちは俺たちさ」


≪そうだ♪ そうだ♪ そうだ♪ そうだ♪ そうだ♪≫


出場権を得ている他の先輩たちもノリノリだ。


「監督! どうにかしてくださいよ」

「オマエはそういうが、もともと2年の男子部員はキリュウと佐久間の二人しかいない上に、1年は予選会で全滅だろ? わが麗慶高校ゴルフ部としては2005年最後の試合を寂しく終える訳にもいかんのだよ」


監督の大多は、指先で顔をポリポリ掻きながら言い訳するように言う。


「なにしろ1年が入部したのはキリュウが復帰した9月からだしな」

「あの時の入部希望者の数はすごかったぜ」


そうなのだ。ボクがゴルフ部に復帰すると聞いた瞬間、入部希望者が部室に殺到したのだそうだ。

でも、先輩たちは3年生と2年生には入部を認めなかった。それは、ボクとタメ口が利ける立場の奴は絶対に認めようとしなかったからだ。という訳で転部組を含めた1年生のアスリート系有望株が入って来たが、なにせ9月入部でゴルフを始めたばかりでは予選会で上位に食い込めるはずもない。


「という訳だから俺たち3年でカバーしてやるしかないだろうが?」

「片山先輩。いくら元エースだからって上位に入っても春の全国大会には関係ないんですよ?」


ボクは、いちばん痛そうなところを突いてみる。


「そんなこたぁ分かってるって。アマチュアがプロのトーナメントで優勝したからって賞金をもらえないのと同じさ。俺たちは名誉の為に戦うんだ」

「く~~~~カッコいい! なんか球聖ボビー・ジョーンズみてえだ」

「(カッコ悪う~~ いつまでも後進に道を譲ろうとしない老害経営者みたい・・・)」

「なんか言ったか? キリュウ」

「いいえ、心の声です」

「(前部長がいつまでものさばっているから俺たち下働きなんだよな・・・)」

「なんか言ったか? 佐久間」

「独り言っす」


ボクとカッちゃんは、お互いに顔を見合わせて嘆息するしかなかった。


「俺たちはこの大会で最後になる。年明けからは佐久間が名実ともに新部長、キリュウは副部長だ。可愛い後輩として俺たち最後のわがままくらい聞いてくれや。学園のアイドル、キリュウと卒業前に公式戦で戦えてよかったぜ~え!」


≪まったくだ♪ まったくだ♪ まったくだ♪ まったくだ♪ まったくだ♪≫






ボクたちを乗せたバスがゴルフ場のクラブハウスに到着すると、ゲート前でたむろしていた人たちが乗降口の前に集まって、たちまち人だかりができてしまった。


≪おおっ!≫

≪パチパチパチパチパチパチ≫


ボクがステップに姿を現した途端に歓声と拍手が沸き上がる。


≪可愛い!≫

≪ビューティフル!≫

≪やっぱ実物は違うよ!≫


遠慮なく見つめる視線や止めどなく切られるシャッターの音に戸惑ったけれど、ボクは先輩たちに続いて伏し目がちにクラブハウスの選手受付へと向かう。すると目の前にいきなりマイクを突き付けられた。


「キリュウ君。ひとりだけセーラー服を着て男子の大会に出場する気分はどう?」


いかにも発声練習してプロフェッショナルの声を作りましたといった良く通る声に、思わず質問の主を見るとスポーツニュースでお馴染みの女性アナウンサーだった。ボクのすぐ横を歩きながらインタビューしてくる。カメラマンが後ろ向きに歩きながら撮影している様子は、よくニュースで見かけるシーンかも。そんなことを思っていると次の質問が来た。


「細いわぁ。君、本当に華奢なのね。その身体で大きな男の子たちと互角に戦えそう?」


ボクは、ちょっとムッとした。


「もちろんです。その為に来たのですから」

「先月男子プロゴルフツアーのカシオワールドにアメリカの女の子が招待されたのって知ってるわよね?」

「ええ・・・ミシェル・ウイーでしょ」


ミシェル・ウイーは今年の7月に開催された全米男子アマチュア大会で準々決勝まで進出し、10月にプロ転向した女の子だ。彼女はまだ16歳ながら、身長180センチを越える長身。そこから繰り出される豪快なショットで男子並みの飛距離を誇っていた。


「そう、そのミシェル・ウイーよ。残念ながら男子ツアー初の予選通過はできなかったけど、女子選手が男子大会でもどこまでやれるか挑戦できる時代になったというわけ。そこに君の登場でしょ? 日本の女の子も頑張っているんだなぁって」

「わたし、戸籍は男なんですけど」


そうボクが切り返すと、さしもの女子アナも一瞬言葉に詰まってしまった。


「そ、そんな可愛い声で男だと言われても。と、ともかくみんな君に大注目しているの。練習ラウンドはしっかり取材させてもらうので、終わったら関東大会への抱負を聞かせてね。それじゃあ頑張って!」


ようやく解放されて小走りに選手受付のテーブルに行くと、丁度カッちゃんが登録を終えて青いカードフォルダーを受け取るところだった。


「麗慶高校2年、キリュウアラシです」

「ようこそ関東大会へ。それじゃあこれに記入を」


ボクは登録用紙に記入し、受付係の大会役員に差し出す。


「ふむ、水茎も鮮やか。流れるように美しい字だね。はい、君にはこちらを。3日間使うことになるので紛失したりしないように気を付けて。女性のロッカールームは君だけなので、風呂の用意はないがシャワーは使えます。ただしタオルは持参したものを使うこと。精算は最終日に一括で大会本部に支払うこと。それから・・・」


注意事項を聞きながら手渡されたカードフォルダーを確認する。ボクのはロッカーキーの付いた女性用の赤いフォルダーだった。






≪おおっ!≫

≪パアッと花が咲いたようだ!≫

≪やっぱり女の子はいい!≫


女子ロッカールームからロビーに出ると歓声があがった。なんか選手以外にも大会関係者のオジさんたちが、ボクが出て来るのを待ち受けていた様子。お揃いのブレザーを着た集団の中から、普通に背広を着た年配が歩み寄ってきた。


「やあ、キリュウ君」

「あ、教頭先生」


バーコード頭をテカらせながら後ろ手を組み教頭が胸を反らしていた。


「キリュウ君。朝早くからご苦労さま」

「あ、校長先生もいらっしゃったんですか」


校長と教頭が抜け出てきたグループを見ると、お揃いのブレザーを着たオジさんたちがボクと挨拶する様子を羨ましそうに見ている。


「そりゃあ、日本中が注目するわが校にとって晴れ舞台ですからね。母校の為に頑張ってくださいよ」

「ユニフォームとてもよく似合っていますよ。ちゃんと言いつけを守ってくれましたね。あちらの高等学校ゴルフ協会の先生方も大層喜んでらっしゃいます」


そっちを見るとオジさんたちが満足そうに頷いている。


「は、はあ。校長先生とお約束したことでしたから・・・それじゃあ練習がありますので」


そう言うと校長先生たちに軽く会釈をして歩き出した。それにしても男しかいない。さすが男子大会だけのことはある。ムウッとした男の臭いの中を、すり抜けるようにしてキャディバッグの置き場へと向かう。まわり中から集まる視線が痛い。バチバチッと、まるで肌を叩かれるみたいだ。






「それではアウトコース第10組、集合してください」


1番ホールのティーグラウンドに上がると、大会役員から練習ラウンドで同組の4人が紹介された。この組合せで明日の初日もラウンドするのだ。


「“龍閑舎学園2年山吹君”」


≪BOO~~~!≫

≪ニヤけてんじゃねえぞ!≫


「“紅葉館高校1年春田君”」


≪BOOO~~~!≫

≪くそ~1年坊主のくせに! うらやましい!≫


「“角筈学院高校2年佐々木君”」


≪BOOOO~~~!≫

≪2日間もアイドルといっしょかよ!≫


「“そして~~~麗慶高校2年キリュウ君!”」


≪うおおおっ≫

≪パチ パチ パチ パチ パチ≫


他の3人にはブーイングだったけど、ボクの紹介のときだけ拍手と歓声が上がった。


「それでは紹介順にスタートしてください」


≪カシーーーーーーーン≫

≪カシーーーーーーーン≫

≪カシーーーーーーーン≫


他の3人が打ち終わりボクの番になった。もちろん、ボクも一番後ろの青ティーからだ。


九十九里ゴルフクラブの1番ホールは、全長420ヤードのミドル。海辺に隣接したコースだけあって、あまり起伏はないが海風の影響を受けやすい。となると今日の公式練習での課題は・・・。


≪カシーーーーーーーン≫


「おっと! 真っ直ぐ右に出たぞ」

「林の中だけど浅い位置だな!」

「ドンマイです!」


同伴競技者たちに慰めの声を掛けられたけど、ボクとしては狙った所に打っているんだよね。


「あったよ~!」


声を掛けられて行ってみると、木立の中にボクの球があった。


「ありがとう」

「いいってことさ」

「これから2日間、お互い様なんだし」


いっしょにラウンドしている男の子たちは、頼みもしないのに真っ先に球探しに行ってくれる。なんかボクを構いたくて仕方ない様子なのだ。お礼を言うのに仏頂面もなんなので口元に笑顔を浮かべたら、ボウッと見惚れていた。


さてと、松葉が散ったベアグラウンドか・・・ライはそんなに悪くはない。ちゃんと球の芯で捉えればスピンもかかりコントロールできる感じだ。問題はどこを通してここから脱出するかだ・・・。ボクは、地球に帰ってから一度も試していなかったことをこのラウンドで試すことにした。


瞑想・・・ボクは目を閉じると自分を包み込む球体をイメージする。


瞑想・・・・・・


瞑想・・・・・・


瞑想・・・・・・


瞑想・・・・・・


・・・ダメだ。


何もイメージが浮かんで来ない。と、背後から声が掛かった。


「キリュウ君。グリーンが空きましたので速やかに第2打を打ってください。さもないと遅延行為になります」


大会役員だ。ボクは、諦めると自分の観察力と分析力を信じてセカンドショットを放った。


≪スパーーーン≫


低く飛び出した打球は、軽く右に旋回しながら木立の間を抜けてグリーンの手前90ヤード地点に止まった。


「ナイスリカバリー!」

「あそこまで持っていければ最高でしょう!」

「キリュウさん。いいショットでしたよ!」


同伴競技者の男の子たちが激励してくれる。スピンが上手く掛かり狙い通りにインテンショナル・スライスが打てたものの、ボクとしてはイメージが見えなかったことでガッカリだった。






「後半のスタートは20分後になります。5分前までにスタート地点に集合するように」


大会役員からの指示が出て小休憩に入った。ボクは足早にクラブハウスに向かう。


「キリュウ君。男の子たちと回った感想はどう?」


ラウンド中ずっとボクの傍に付いて観戦していた女子アナが、すかさずマイクを突き付けて来る。


「わたしも男ですから」

「結構林に入れたりバンカーに落としたり、ロングパットを残したりと苦労していたじゃない? やっぱり男の子たちと一緒のバックティーからだとキツイのかな?」


彼女にはそう見えたのだろうけど、ボクとしてはトラブルになりそうな場所に球を打ちこんだり傾斜を確認したくて、いろいろ試してみただけだ。


「あら? 笑顔を浮かべたりして。ずいぶん余裕ね?」

「見ての通り前半のスコアは45。わたし下手なんですよ。ボギーペースでは絵になりませんか?」

「そうね。キリュウ君にもうちょっと頑張ってもらえると、お茶の間で見ている人も応援のし甲斐があるんじゃないかな?」


いまどき“お茶の間”のある家なんてあるんだろうか。業界人の変な言語感覚に吹き出しそうになる。

頬が弛んでくるのを堪えて真面目な顔を作ると、


「それじゃあ、化粧室に行きたいのでここで失礼します」


と言って女子アナとカメラマンを振り切りボクは女子ロッカールームへと向かった。






それにしても、どうしてイメージできなかったんだろう。ボクは、手を洗いながら鏡に映った自分を見つめる。


あの後も、前の組を待つので時間があるときには何度か試してみたのだが、何も起きなかった。

惑星ハテロマじゃなければできないことなのだろうか? ひょっとしたらマリアナ姫の魂がボクに乗り移って、精神感応できるようにしてくれていたから可能だったのだろうか? 


でも、リカバリーショットはことごとく上手くいったっけ。以前のようにイメージはできなかったけれど、狙ったルートを狙った通りの球筋で脱出し、計画通りの地点に持っていくことができていたのだ。


新垣亜衣プロとのラウンドでもそうだった。ロングホールの第2打をきっちり狙った通りに打つなんて、これまでのボクにはできなかったもの。ボクって結構ゴルフが上手くなったじゃんって思えてきた。






「後半もよろしく」


既にティーグラウンドに集まっていた同伴競技者たちに挨拶すると、


「前半は残念だったね」

「気持ちを入れ替えてやるといいよ」

「キリュウさん、ドンマイです」


と応援されてしまった。まあ、それも仕方ないかも。何せ彼らは37、37、39とそこそこのスコアで前半を上がっているのだから。ボクは、励ましの言葉にもかかわらず、後半もリカバリーショット狙いを繰り返すことにした。


池こそ打ち込まないけれど、ボクは毎ホール林からのショットを繰り返す。飛距離では遥か先まで飛ばす男の子たちも、リカバリーショットで着実にベストポジションまで脱出して来てはグリーンサイドのバンカーに落とすボクの様子を見るうちに、「わざとやってるんじゃないか?」って疑問いっぱいの表情をするようになって行った。






最終ホールの18番は、パー5のロングホール。グリーン手前をえぐる様に池が配置されているプレッシャーの掛かるホールだ。


≪カシーーーーーン≫


「ナイスショット!」


前のホール、パーだった3人の男の子たちが打ち終わりボクの番になった。

午後から風が出てきていて、時おり強風が吹き抜けて行く。こういうシチュエーション、惑星ハテロマでもあったよなあ。風は敵にも味方にもなるのだった。


ボクは高めにティーアップすると、視線を高くとりアッパーブローにドライバーを振り抜いた。


≪カシーーーーーン≫


「あっと、今度は左だ!」

「真っ直ぐ林に向かっている!」

「どんまい・・・あれ? フェアウエイの方に戻ってる!」


林の上空に達して下降に転じたボクの球は、折からの横風を受けて右へと曲り出した。斜め後方からの海風は、上空では相当に強く吹いている様子でフェアウエイに戻るとともに前方へと伸びて行った。


≪トーン トン トントン≫


落下地点に傾斜があったせいで勢いよく前へと転がって停止した。フェアウェイセンターだ。


「グッショット!」

「おいおい! 俺たちオーバードライブされたんじゃないか?」

「狙いで風を利用したんですか?」


皆目を丸くしちゃっている。ボクとしては、結構強く吹いていたので、どのくらい風に流されるものか試してみただけなのだが。それにしても結果オーライだ。上手く行ってしまったものだ。




≪パシャーン≫


「あああ。池につかまっちまった!」


セカンド地点に行ってみると、やはりボクの球が一番先まで飛んでいた。グリーンから遠い順に打った第2打は、ラフからの角筈学院佐々木君は着実に池の手前にレイアップ、紅葉館の1年春田君は長身を活かした力強いショットで直接グリーンを狙ったもののサイドバンカー、ボクとほぼ同じ位置から打った龍閑舎の山吹君は、今のショットで池に落としてしまった。


さて、ライはよし。ここからだと真っ直ぐ狙えば池越えになってしまうけれど、右から回せば花道を使えるかも。ここまで36、パーで上がって41か。ここは最終日の最終ホールのつもりで攻めるだけ攻めてみることにしよう。


ボクは、3番ウッドを手にすると軽く素振りをして緊張を解く。


「おいおい!」

「ツーオン狙うのか?」


ボクは、慎重に狙いを定めスタンスが決まるとゆっくりスイングを開始する。少し左下がりの傾斜なので、ボールが低く出てしまいそうだけど、上手くいけばランが出て転がってくれるはず。それっ!


≪カシーーーーーン≫


低めに飛び出した打球は、軽く左旋回しながら池の際を抜けるようにして対岸の花道に落下した。よし!


≪トーン トン トントン ツツーーーー≫


第2打は花道でバウンドしながらグリーンに乗ると、2段グリーンを駆け上がって奥に切られていたピンの横3メートルで停止した。


≪うおおおおおお!≫


グリーンサイドで観戦していた大会関係者や選手たちから一斉に歓声が上がる。校長と教頭が手を取り合って飛び上がるように喜んでいるのが見えた。まだ練習ラウンドだっていうのに・・・。余計な雑念は取り払わなくっちゃ。後はパットを決めるだけだ。




≪カッコーン≫


そしてボクの球は軽いスライスラインに乗って引き寄せられるようにカップに吸い込まれた。


≪ナイスイーグル!≫

≪パチ パチ パチ パチ パチ≫


結局、後半を39でまとめることができた。


「ありがとうございました」

「明日もよろしく」


いっしょにラウンドした同伴競技者に挨拶すると、ボクは着替える為にクラブハウスへと向かう。


「キリュウ君。最後のイーグル凄かったわね!」


さっそくマイクを突き付けられる。また歩きながら女子アナのインタビューだ。


「ありがとうございます」

「スコアも前半から立て直しているし、明日からはバッチリじゃない?」

「だといいんですけど」


ボクの淡泊な答えに女子アナがちょっと鼻白んだ。


「キミはテレビに出ているのよ? 注目されるのって嫌いなの?」

「どちらかと言えば嫌いです。それより、どうしてわたしだけを取材するんですか? 実力のある選手なら他にいっぱいいるでしょう?」

「関東大会で注目の選手と言ったらキリュウ君しかいないでしょ? こんなに可愛いんだもの。それにね、キミが全国大会に出られるかどうかなんて分からないじゃない? この大会を取材するのは当然だと思うけど?」


悪びれずに言い返して来た。ボクは、冷めた目で横を歩く女子アナを見つめ返す。


「えっと、それじゃあお茶の間で応援してくれている人たちに、明日からの大会を前にしたキリュウ君の抱負を聞かせてくれる?」


ボクは立ち止まると、女子アナの方に向き直ってから言った。


「神隠しから戻って来て最初の公式戦です。こんな姿になってしまいましたが、男子ジュニア登録選手として恥ずかしくないプレーをするつもりです。それじゃあ開会式の準備があるのでこれで失礼します」


ムッとしたので不愉快なボクとしては、自分にできる精一杯の礼を尽くしたコメントだった。






「“練習ラウンドを終えてキリュウ君は~”」

「“『神隠しから戻って来て最初の公式戦です。こんな姿になってしまいましたが、男子ジュニア登録選手として恥ずかしくないプレーをするつもりです』”」

「“~と抱負を語りました。その後に行われた開会式ではただひとりセーラー服で出席。男の子たちに囲まれいっそう美少女ぶりが際立っていました!”」

「“いやあ神隠し少年、実に可愛いですね。明日からの活躍に期待したいです。CMをはさんで次は天気予報”」


その夜、取材に来ていたスポーツニュースのゴルフコーナーでボクのことを取り上げていた。


「アラシ、とってもチャーミングに映っていたわねぇ♪」

「録画もバッチリだ。保存版としてブルーレイに焼いておくからな!」


母さんと父さんは、ボクがテレビに映るのが嬉しくて堪らない様子だ。


「あの女子アナ、不愉快なんだ。わたしのことを珍しい生き物か何かと勘違いしているんだもん」

「そんなこと言わないの。アラシが綺麗で可愛いから取材しに来てくれているのよ?」

「ずっと付いて来るから試合に集中できないんだもん」

「アラシは人気者だからな。人気者の宿命ってやつだな。それを乗り越えてこその一流アスリートだぞ?」

「そうよアラシ。アナタは女の子なんだし笑顔が肝心なの! 明日はもっと愛想よくなさいね♪」


この夫婦と会話するとどうも話が噛み合わない。とは言え、試合前に自宅でいつも通り家族と過ごせるのはリラックスできてよかったかも知れない。学校によっては試合会場となるゴルフ場の近くに合宿するところもあったけれど、うちの高校では貸切バスで通うことにしていた。丁度クリスマスだしよかったかも。


その晩、ボクは翌日に備えて23時前に就寝した。

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