第9話カロリー摂取には二郎ラーメン
「そっち行ったわよ!ぽっちゃり勇者!」
「だあああああ!!」
木々を蹴散らしながら突進してくる巨大な樹木から全速力で逃げる。
飯を求めてデモンフィールドを歩き回っていた所、出くわした魔物"ロングツリー"。
簡単に言えば人面樹木だ。葉は髪の毛のように長く黄色い。
どんな魔物が来ようとぶちのめして食う!って決めてたけど……
急ブレーキをかけ、腰の入ったパンチを放つ。
ひょろり、ぺちっ
俺のパンチは木の皮すら傷つけられない。
「チクショー!ロコモティブ(痩せ)モードじゃパワーがゴミカスすぎる!」
木の枝攻撃を躱し、うねる根からダッシュで逃げる。
完全なるパワー負け!このままじゃ殺られる!
「落ち着きなさい!速さも武器よ!頭使って!」
「頭ァ使うのもカロリークソ程消費するんだよ!!あああ腹減ったぁああ!」
「もうっ!素早さを活かすのよ!腰のものは飾り?!」
腰には異世界に来てから一度も抜いていない剣が目に入る。
脳裏を過ぎる、キングゴーレムを華麗に刻んだコロネの剣技。
スピード。剣。パワーはミジンコ。
「やってやるぜ!空腹のまま死ねるか!」
剣を引き抜き飛び上がる。動きはトロい。否、俺が速い。
ババババッ
ロングツリーの周囲を切り裂きながら下へ。リンゴの皮むきの要領だ。ロングツリーの樹皮が細長く剥けた。
「コロネ!」
「やるじゃない!すっごくビューティよ!ぽっちゃり勇者!」
樹皮を剥いてしまえば、中身は黄土色の生木。コロネの出刃包丁が根から頭の先までを切り裂いた。
バラッ
美しく、縦三つに切断。
「流石料理人。ロングツリーの三枚卸しだぜ!」
着地。と、同時に力が抜けて倒れ込む。
力、入んねぇ……クラクラする
「ぽっちゃり勇者?!まさか今のでカロリー使い切って……」
「こ、コロネ……最後にお前の美味い飯が食いてぇ」
「最後だなんて縁起でもないわ!しっかりしなさい!この世界の美味しい物を食べ尽くすんでしょ?!」
「俺は現代世界で餓死した……クク。今もその時と同じ感覚がするぜ」
「バカ言ってんじゃないわよ!アンタが居ないと私の夢も叶えられないの!まだ死ぬなんて許さないわ!」
「へ、へへ……頼む、コロネ」
「駄目、駄目よ……"大河"!!」
「二郎ラーメンが食いたい」
「……は?」
◇◇◇
「まだ怒ってんのかよ〜」
俺の頭にはたんこぶ三つ。地面に寝転がったまま鍋を煮込むコロネを見つめる。痛い。
「うるさいわね。ぽっちゃり勇者は肥満取締部隊に丸焼きにされちゃえばいいのよ」
「でも二郎ラーメンは作ってくれるんだ」
目の前に突き刺さる出刃包丁。前髪が数本はらりと落ちた。
「いいからさっさと味と材料を教えなさい」
「ハイかくかくしかじかです」
「麺なら丁度いいわ。ロングツリーの葉がソレよ」
「あぁ。コイツ見た時からラーメンが食いたくて仕方なかった」
「ロングツリーの葉はそのまま食べると体中の水分を取られて干からびちゃうわ。その特性から武器や洪水に備える道具に利用されているわ。ちなみに食用にするには」
「あー今日はそういうのいい。血糖値下がりすぎて無理み。カロリーはよ」
俺のたんこぶが五個に増えた。
◇◇◇
「言っとくけどね勇者。私は天才魔物料理人。作れない料理なんてないんだから!」
ドンッ
目の前に巨大な丼が。背脂の浮くスープ。太めの麺。分厚いチャーシューとたっぷりのネギ。
「じ、二郎ラーメンだ!す、すげぇ!再現度高ぇえ!このチャーシューとネギは?!」
「ロングツリーの胴体と皮を」
「いただきますぅううう!ズルルルッ」
「おぃコラ!」
「口に広がるぶっ濃いニンニク!麺に絡んだギトギト豚骨が食欲を唆るぜ!ネギで口の中リセット!んでもって豚骨ゥ!ズルルルルッ」
「はぁ。いい食べっぷりだこと」
「来たぜ……きたきたぁっ!」
細腕が膨らみ関節がムチムチと擦れ合う。漲るパワー。愛しのクリームパン拳。
「大好きなラーメンたらふく食って、幸せの体が戻ってきたぜ〜!」
「早っ。まぁその方がぽっちゃり勇者らしいわね。にしてもとんでもないカロリーね。二郎ラーメンってやつ」
「おぅ!えーと、30000kcalか!爆弾だな!」
「また糖質疲労おこすわよ」
「構わん!その後動けばモーマンタイ!そんでもって新しい魔物をぶっ飛ばして食う。永久機関だぜズルルルッ」
「デモンフィールドは制覇したからね。魔石を換金したら次のフィールドへ向かいましょう」
「このフィールドはどうなるんだ?」
「そのうち新しいボスが生まれるわ」
「フィールドも永久機関なんだな〜。つかよ、魔物食って禁止なんだな?」
「今更ね……」
「肥満取締部隊といい、何者なんだ?アイツら」
「呆れた。無知って恐ろしいわね。いいわ、教えてあげる。食事がてら聞きなさい。この狂った世界の仕組みをね――」
ロングツリーラーメン
30000kcal




