第11話モウ、牛!
ボーノ国の南側に位置する島。マナフィールド。定期船にてコロネと渡る。
「おぉっこれがマナフィールド!南国リゾートじゃねぇか!」
フェリーの甲板から身を乗り出す。
島はヤシの木が高くそびえ立ち、巨大鳥が空を舞う南国系のテイストだ。
「そう浮かれてもいられないわよ。デモンフィールドと比べて魔物の強さは桁違い。知能の高い魔物が多いから捕まって鍋で煮込まれないことね」
「おぅ!どんな奴が来てもぶっ飛ばすぜ!てか、この船に乗ってるやつ皆冒険者か?」
「そうね。この島を観光しようだなんて馬鹿は居ないわ」
「あんまり出くわしたくねぇな。通報されても面倒だ。俺はこの世界のデブ=悪っつー常識をぶち壊すために、まずは美味いものを食べなきゃなんねぇからな」
「食べたいだけでしょ。ま、私も同意。ぶち壊しましょう。食への冒涜を」
コロネと拳を突き合わせる。
俺たちはマナフィールドへと足を踏み入れた。
◇◇◇
「上陸!そして飯!マナフィールドでは何が美味いんだ?」
「いろいろよ。今のお口は?」
「ん〜店のビーフが味気なかったら牛肉が食いてぇな」
「OK。いるわよピッタリの――」
バキバキッ
「ブォオオオッ」
ヤシの木をなぎ倒す、巨大な角。浜辺に現る、黒牛。
「モウギュウだ!」
「勘弁してくれよ?!まだ上陸したばっかだぜ?!」
共に上陸した冒険者達が武器を手にするが、モウギュウの突進の方が速い。
「モウ、牛だな?!コロネ!」
「えぇ!別名新人冒険者殺し……」
「おもしれぇ!ぶっ飛ばしてやるよ!」
突進してくる鼻っ柱にパンチを――
「どけデブ!」
「ちんたらしないでよね!」
「は?!ちょ、じゃま……」
手柄を横取りしようとした男女パーティ。呆気なくモウギュウの突進に吹き飛ばされ、俺も巻き添えですっ転ぶ。
「ぽっちゃり勇者!」
「俺は問題ねぇ!コロネも気をつけろ!速いし強烈だ!」
かすっただけで肌がヒリつきやがった……なるほど。デモンフィールドとはワケがちげーってか。
「だ、ダメだ勝てねぇ……一旦引くぞ!」
逃げていく冒険者。その波から弾き出され、転んだ女冒険者が目に入る。俺は迷わず、女冒険者の前に立つ。
「デブの良いとこはなぁ……吹っ飛ばされねぇとこだ!」
モウギュウの突進を正面から阻止。
「んぉ……ッ」
砂浜に足が埋まる。
コイツァ大物だぜ!しなる筋肉、引き締まった野生の肉!
「絶対絶対絶対食いたい!20000kcalメッツアッパー!!!」
額は硬い。なら顎。下から突き上げたパンチによりモウギュウは空高く舞い上がった。
その場の全員が空を仰ぎ、一様に口を開けたのだった。
「ハッハー!見たか!ワンパン宙返りの刑だぜ!」
拳を突き上げると、周囲から湧き上がる歓声と動揺。
「信じられねぇ。モウギュウを素手で倒しやがった」
「何者なの?あのデブ……いや、筋肉なのかしら実は?」
ハッ……ま、まずい!目立ちすぎた!
「あの、助けていただいてありがとうございます」
「お、おう!いいってことよ!コロネ!」
「肉確保!行くわよぽっちゃり勇者!」
「早!流石だぜ!」
コロネが切り出した巨大肉と角を二本抱えて逃走。騒ぎが広がる前に熱帯雨林の中へと駆け込んだ。
「なんてエレガントな力……」
女冒険者はうっとりとその背中を見つめたのだった。
◇◇◇
ぐぅうううぎゅるっごろろっ
「あのねぇ。さっきからうるさいのよ。アンタのお腹」
「仕方ねぇだろ……こんなの見てお腹鳴らすなって方が無理だ」
目の前にはアルミに包まれ蒸された肉。コロネがナイフで薄切りに。赤く美しいサシをした肉壁が露となる。
「牛肉といえば、コレよね」
大皿に肉を並べ、水につけた玉ねぎをトッピング。
「ローストビーフゥ!」
「タレは三種あるわ。たまねぎソース、ガーリックソース、ハニーマスタードソースよ」
「天才か?!いただきます!」
まずはたまねぎソース。
柔らかさは言うまでもねぇ!肉も癖無いし噛むだけ肉の味が滲み出てくる!抱えてた時はアンモニアくっせー肉で食えんのかって思ってたけど流石コロネだぜ〜下処理の解説は忘れちまったけど
「いろんなソースで味変にもなるわ。私はハニーマスタードが好き。もぐもぐ……んん〜美味し〜」
「この美味しさを禁止するなんて王様は相当なバカだなぁ〜きっと超ガリガリだな」
「王様は元冒険者だからムキムキね。この世界では低カロリー高タンパクが基本だから」
「俺のメッツパンチのが強い」
「常識をひっくり返すって、まさか殴って解決するつもり?」
「ぶっ飛ばしゃデブ=弱者だとか醜いだとか、そーゆーの撤回されるだろ?」
「呆れた。世界中を敵に回すだけよ。それよりもこの世界にある5つのフィールドを制覇するべきよ」
「お、何か特別な権限が与えられるとか?」
「えぇ。全フィールド制覇者には"フィールドマスター"の称号が与えられる。フィールドマスターは王の側近。法律へ口出しすることも可能よ。それに存在が有用だと証明できれば、価値観だって変わるかもね」
「なるほど。変わらねぇ時は……コレだな!」
肉に齧り付きながら拳を丸める。
「まぁそれは……最終手段にしておきましょう」
「食って殴って食う!フィールドマスターになったら、"好きなものを腹いっぱい食うべし!"っつー法律爆誕させてやるぜ!」
◇◇◇
肉を貪る俺たちを草むらから覗く人影。
赤い唇がうっそりと微笑んだ。




