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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜有能すぎて追放されたが、もう誰も導かないことにした〜  作者: 影山クロウ


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第94話 崩れたもの

事故調査は、形式通りに進んだ。


地層分析。

雨量データ。

排水構造の再確認。


結論は明快だった。


《想定外の横断浸水による接合部の脆弱化》


基準の不備ではない。

判断ミスでもない。

不可抗力に近い。


「手順上の問題は確認されませんでした」


会議室で、その言葉が告げられる。


カイは、黙って聞いていた。


正しい。

基準は守られた。

停止判断も適切だった。


それでも、崩れた。


会議後、上司が肩を叩く。


「気にするな」

「中央を止めたのは正解だ」


カイは、頷けない。


止めたことは、間違っていない。

だが、何かが崩れた。


それは、斜面だけではない。


現場に戻る。


崩れた接合部は、仮設補強が済んでいる。


若手が、黙って排水溝を見ている。


「ここ、昨日触りました」


その声は、小さい。


カイは、隣に立つ。


「基準外だったな」


「はい」


沈黙。


風が、土の匂いを運ぶ。


カイは、土に触れる。


重い。

冷たい。


事故の日、

自分は中央ばかりを見ていた。


責任区域。

評価対象。

成功実績。


止まることに、

意識を集中しすぎた。


全体を、

引き受けていなかった。


セルマが、静かに近づく。


「理論は、あなたを守りました」


カイは、苦く笑う。


「守られたくなかった」


その言葉は、本音だった。


守られた。

だから、

境界の外を見なかった。


セルマは、接合部を見る。


「ここは、誰のものでもなかった」


カイは、ゆっくりと頷く。


「俺が、見なかった」


若手が、思い切って言う。


「自分も、言いませんでした」


「なぜ」


「基準外だったから」


その単純さが、

胸を締めつける。


基準は、

安心を与えた。


だが、

境界を作った。


境界の外で、

火は起きていた。


それを、

誰も拾わなかった。


夕方、

カイは一人で斜面に立つ。


基準表は持っていない。


土に触れる。


音を聞く。


目を閉じる。


——止まるか?


その問いは、以前と違う。


——引き受けるか?


答えは、まだ出ない。


だが、

ひとつだけ分かる。


自分は、

止まることで評価されることを、

どこかで期待していた。


その期待が、

視野を狭めた。


崩れたのは、

斜面だけではない。


自分の中の、

確信もだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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