第87話 成功率
数字は、分かりやすい。
今月の重大事故件数はゼロ。
小規模崩れは減少傾向。
会議室で、資料が回る。
「停止判断基準の導入後、成功率が上がっています」
カイの名前は出ない。
だが、誰もが分かっている。
基準は、機能している。
拍手はない。
だが、空気は肯定的だ。
カイは、資料の端を指で押さえる。
「まだ暫定です」
そう言いながらも、
胸の奥に、確かな手応えがある。
成功率。
止まった数。
防いだ可能性。
数値は、
曖昧さを消す。
現場では、
若手が迷わなくなった。
「基準二つ該当」
「止めます」
確認。
補強。
再開。
迷いが減る。
「判断が速くなりました」
若手が笑う。
カイも、頷く。
——これなら、伝わる。
夜、セルマは統計を見ている。
事故は減っていない。
だが、重大事故は起きていない。
停止回数は増えている。
「……守りすぎている」
そう呟く。
だが、
守りすぎは悪ではない。
安全第一。
カイは、次の現場で立つ。
土に触れる。
基準を確認する。
三項目該当。
「止めます」
迷いはない。
補強。
雨。
崩れない。
成功。
若手が言う。
「やっぱり基準ですね」
カイは、わずかに視線を逸らす。
——俺じゃない。
——基準だ。
その言葉は、
謙遜であり、
逃げでもある。
成功率は上がる。
だが、
止まる回数も増える。
工程が遅れる。
別箇所に負担がかかる。
小さなひずみが、
目に見えない場所で積もる。
ある若手が、ぽつりと言う。
「止まるのが正解、ですよね」
カイは、すぐに答える。
「違う」
「正解は、壊れないことだ」
だが、
止まらなければ壊れるという前提が、
静かに根を張る。
火は、
まだ起きていない。
だが、
火の代わりに、
基準が燃えている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




