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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜有能すぎて追放されたが、もう誰も導かないことにした〜  作者: 影山クロウ


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第82話 評価

報告書は、きれいだった。


《事故未発生》

《事前補強成功》

《適切な現場判断》


上司は、会議室でカイの名を出した。


「最近、止める判断が早い」

「重大事故を防いでいる可能性が高い」


可能性、という言葉がつく。

だが、評価は十分だった。


カイは、席の端でそれを聞いている。


拍手は小さい。

だが、確かに向けられている。


「理論の好例だな」


誰かが言う。


「非定型即応判断法の成果だ」


カイは、わずかに首を振る。


「いえ、自分は……」


言葉を選ぶ。


「観察しているだけです」


会議後、若手が近づく。


「どうやって分かるんですか」


カイは、少し考える。


「止まることだ」


「止まる?」


「急がない」

「全部を確認しようとしない」


若手は、真剣に頷く。


その姿を見て、

カイの胸が温かくなる。


——伝えられる。


自分のやっていることは、

特別ではない。


理論の応用。

経験の蓄積。

少しの慎重さ。


それだけだ。


だが、

内側では別の声がある。


——俺は、分かる。


次の現場で、

カイは止まる前に、

ほとんど確信していた。


「ここで補強」


理由は、後から並べられる。


土の湿り。

前回の雨量。

排水角度。


説明は、可能だ。


補強は成功。

また崩れない。


上司が肩を叩く。


「数字が良い」

「このやり方を、共有しよう」


共有。


その言葉に、

カイは少しだけ躊躇する。


だが、拒まない。


「自分のやり方でよければ」


資料が作られる。


《カイ式 現場停止判断ポイント》


・土の軽さ確認

・水流の濁り

・音の変化


簡潔。

分かりやすい。


若手がそれを持ち帰る。


セルマは、その資料を見て、

静かに目を細める。


「……早い」


理論が、個人名と結びついている。


火は、

まだ起きていない。


だが、

火の“型”ができ始めている。


カイは、その夜、

自室で資料を見返す。


「大げさだな」


そう呟きながらも、

誇らしさが消えない。


——俺は、立っている。


その言葉が、

少しだけ強くなる。


まだ、崩れていない。


だから、

疑わない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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