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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜有能すぎて追放されたが、もう誰も導かないことにした〜  作者: 影山クロウ


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第81話 止まる男

カイは、止まることを覚えていた。


覚えた、と言っていいのかは分からない。

だが、体は反応する。


斜面の下で、作業員たちが資材を運んでいる。

天気は曇り。

雨の予報は、夜から。


「カイ、どう見る」


上司が聞く。


カイは、斜面を見上げる。


水の筋。

土の色。

前回の補修跡。


頭の中で、過去のデータが並ぶ。

事故報告。

崩落率。

降水量の閾値。


そして、ほんの一瞬、

言葉にならない違和感がある。


「……止めましょう」


上司が眉をひそめる。


「理由は?」


カイは、土を握る。


「昨日より、軽いです」

「水が、抜けきっていない」


理論研修で学んだ項目に、

ぴたりと当てはまるわけではない。


だが、説明はできる。


「小規模補強を先に」

「杭を追加します」


上司は、少し迷ってから頷いた。


作業は一時間遅れる。


杭を打つ。

水を逃がす。


夜、雨が降る。


斜面は崩れない。


翌朝、上司が笑う。


「正解だったな」


カイは、安堵する。


「いえ、たまたまです」


そう言いながら、

胸の奥に小さな熱が残る。


——分かった。


止まるタイミングが。


数日後、

同じような現場で、

カイはまた止まる。


今度は、迷いが少ない。


「ここで止まる」


部下が聞く。


「なぜですか」


カイは、斜面を指す。


「音が違う」

「水の動きが重い」


説明は、できる。

理論に沿っている。


補強。

調整。

作業再開。


また、崩れない。


チーム内で、噂になる。


「カイは分かるらしい」


カイは否定する。


「理論通りです」

「観察すれば、分かります」


だが、

彼の中で、

何かが確信に変わり始めている。


止まる。


判断する。


成功する。


それが、続く。


遠くの研究室で、

セルマは報告書を読む。


事故未発生。

適用事例成功。


「……早い」


理論の適用が、

滑らかすぎる。


セルマは、報告書の末尾を見る。


《現場責任者:カイ》


名前を、初めて意識する。


一方、カイは、

三度目の現場で、また止まる。


今度は、

迷わなかった。


「ここは危ない」


明確に言い切る。


部下は、疑わない。


杭を打つ。

水を逃がす。


夜、雨。


崩れない。


カイは、初めて思う。


——俺は、立っている。


その確信は、

まだ静かだ。


だが、

わずかに、

重さを持ち始めている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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