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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜有能すぎて追放されたが、もう誰も導かないことにした〜  作者: 影山クロウ


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第69話 統計の偏り

セルマは、数字を信じている。


数字は、嘘をつかない。

嘘をつくのは、解釈だ。


机の上に並んだ報告書を、彼女は一枚ずつめくっていく。


事故件数。

発生地域。

対応時間。

補償額。


すべて、正しく処理されている。


それなのに。


「……少なすぎる」


彼女は、ある区域を指でなぞる。


管理外区域。

制度の監督がほとんど入らない場所。

商業連合も、優先度を下げている地域。


その一帯だけ、事故発生率が不自然に低い。


補修申請も少ない。

補償支払いも少ない。


だが、人口は減っていない。


「報告漏れ?」


セルマは、別の資料を引き出す。


医療記録。

物資輸送量。

住民移動記録。


どれも、異常はない。


事故が隠されている形跡もない。


「……壊れていない?」


その仮説は、奇妙だった。


壊れないはずがない。

制度も商業連合も、ほとんど関与していないのに。


セルマは、立ち上がる。


「現地確認を」


助手が、戸惑った顔をする。


「管理外区域ですよ?」

「調査許可が下りません」


「許可が要るのは、管理区域だけ」


セルマは、淡々と答える。


「管理していない場所を、

 調べるのに、

 誰の許可がいるの?」


数日後。


セルマは、問題の区域に立っていた。


派手な看板もない。

整備された道路もない。


ただ、静かな集落。


最初に目についたのは、

補修跡だった。


新しい。

だが、申請記録がない。


「……誰が?」


近くにいた老人に声をかける。


「ここ、最近直しましたか」


老人は、首を傾げる。


「さあな」

「気づいたら、直ってた」


「誰が?」


「知らん」


セルマは、眉を寄せる。


偶発的な修繕?

それとも、非公式な組織?


別の場所でも、

同じことが起きていた。


斜面。

水路。

橋の縁。


壊れる前に、手が入っている。


だが、

記録はない。


「……残っていない」


セルマは、ノートに書く。


《事故未発生地点における非公式介入の可能性》


助手が、小声で言う。


「誰かが、勝手にやってるんでしょうか」


セルマは、少し考える。


「勝手に、ではない」


彼女は、補修された石に触れる。


粗い。

効率的ではない。


だが、

的確だ。


「壊れる前に、

 止めている」


その言葉を口にした瞬間、

セルマの中で、何かが繋がる。


——事故を減らすのではなく、

 事故を起こさない。


だが、それは、

制度の枠外の行為だ。


責任も、記録も、残らない。


「……誰かが、

 立っている」


セルマは、静かに呟く。


その瞬間、

遠くの道で、

一人の影が動いた。


セルマは、振り向く。


だが、

既に誰もいない。


助手が聞く。


「どうします?」


セルマは、迷わず答える。


「追う」


彼女の目は、真剣だった。


善意だった。


火を消そうとしているわけではない。


ただ、

理解しようとしている。


それが、

何を壊すのかを、

まだ知らない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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