第66話 問われる
オルグは、リエンを探した。
公式な調査ではない。
制度の名も、商業連合の看板も出さない。
ただの、個人としてだ。
彼女が現れそうな場所には、見当がついていた。
管理されていない場所。
誰も責任を持たない現場。
案の定、
古い用水路の前で、
リエンは腰を下ろしていた。
「……また、会ったな」
オルグが声をかけると、
リエンは一瞬だけ顔を上げた。
「偶然ですね」
「そうでもない」
オルグは、少し距離を保って立つ。
「聞きたいことがある」
「いや……
教えてほしい」
リエンは、手を止めた。
それだけで、
オルグは分かった。
——これ以上、近づくと壊す。
「どうやって判断している」
リエンは、答えない。
「手順じゃない」
「理論でもない」
「……なら、何だ」
沈黙が流れる。
水の音だけが、続く。
「同じことをした」
オルグは、低く言った。
「フローも作った」
「人も動かした」
「……壊れましたか」
リエンが、静かに聞く。
「壊れた」
オルグは認めた。
「正しく、壊れた」
リエンは、少しだけ目を伏せる。
「それが、答えです」
オルグは、思わず声を荒げた。
「答えになっていない!」
「俺は、どうすれば――」
その瞬間、
リエンは、はっきり言った。
「立たないでください」
オルグは、言葉を失う。
「あなたは、
立つ側じゃない」
冷たい言い方ではない。
事実を述べただけだ。
「……どういう意味だ」
リエンは、石を一つ持ち上げる。
「これ、
さっきより軽いです」
オルグは、受け取る。
確かに、軽い。
「だから、
今は大丈夫」
「それが、判断か?」
「はい」
オルグは、唇を噛む。
「……それを、
教えてくれと言っている」
リエンは、首を振る。
「教えたら、
あなたは立たなくなります」
「俺は、
現場に立っている!」
「立ってます」
リエンは認める。
「でも、
引き受けてません」
オルグは、何も言えなかった。
責任。
報告。
補償。
それらが、頭をよぎる。
「あなたは、
壊れてから
引き受ける人です」
その言葉は、
責めていない。
断定でもない。
ただの、区別だった。
「……じゃあ、
俺は、
どうすればいい」
リエンは、少し考えた。
そして、言った。
「立たなくていいです」
「でも、
邪魔はしないでください」
オルグは、苦く笑った。
「それが、
答えか」
「はい」
リエンは、作業に戻る。
オルグは、その背中を見ていた。
——答えは、もらえなかった。
——だが、
拒絶されたわけでもない。
彼は、ゆっくりと踵を返す。
立てない人間が、
立とうとすると、
火は消える。
そのことだけは、
はっきり分かった。
遠ざかる背後で、
水は、静かに流れている。
今日も、
壊れなかった。
だが、
その理由を、
オルグは、
まだ言葉にできない。
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