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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜有能すぎて追放されたが、もう誰も導かないことにした〜  作者: 影山クロウ


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第58話 名前をつけない理由

夜は、

静かだった。


焚き火は起こさない。

今日は、必要ない。


若者は、

石に腰を下ろし、

空を見ていた。


同行者が、

ぽつりと聞く。


「……

 さっきの人、

 制度の人間だろ」


若者は、

頷いた。


「また、

 来るかな」


「来る」

若者は即答した。

「探してる」

「火じゃなくて、

 形を」


同行者は、

少し考える。


「……

 正直さ」

「名前、

 つけた方が

 楽じゃないか」


若者は、

目を閉じる。


その問いは、

何度も自分に向けてきた。


「楽だ」

「名乗れば、

 説明しなくていい」

「責任も、

 整理される」


同行者は、

黙って聞く。


「でもな」


若者は、

小さく息を吐く。


「名前がつくと、

 正しさが固定される」


同行者が、

顔を上げる。


「固定?」

「そうだ」


若者は、

足元の土を指でなぞる。


「この前の斜面、

 あれ、

 正解だったと思うか」


「……

 多分な」


「でも、

 次も同じ場所なら、

 同じやり方で

 直すか?」


同行者は、

首を振る。


「状況、

 違うな」


若者は、

頷いた。


「名前がつくと、

 それが

 やり方になる」

「やり方になると、

 考えなくなる」


夜風が、

静かに吹く。


「考えなくなると、

 直せなくなる」


同行者は、

しばらく黙っていた。


「……

 じゃあ、

 何を残すんだ」


若者は、

少し笑った。


「残さない」

「残るのは、

 癖だ」


「癖?」


「嫌な音に

 足を止める癖」

「迷ったら、

 今やる癖」

「誰の名前か

 考えない癖」


同行者は、

小さく息を吐く。


「……

 それ、

 教えられないな」


「教えられない」


若者は、

肯定する。


「でも、

 見てれば、

 移る」


少し離れた場所で、

焚き火の残り香が

かすかに漂う。


アルトが、

言っていた言葉が

頭をよぎる。


——火は、

 持ち運べない。

 だが、

 起こせる。


同行者が、

静かに言う。


「……

 それでも、

 広がらないぞ」


若者は、

空を見上げる。


星は、

少ない。


「広がらなくていい」

「消えなければ」


同行者は、

何も言わなかった。


遠くで、

水の音がする。


流れは、

少しずつ変わっている。


若者は、

立ち上がった。


「行こう」

「次は、

 あの曲がり角だ」


誰も、

記録しない。


誰も、

名付けない。


だが、

判断は、

確かにそこにある。


若者は、

歩きながら思う。


——名前がないから、

 間違えられる。


——間違えられるから、

 直せる。


夜は、

静かだ。


この世界は、

今日も正しくならない。


それでも、

壊れなかった場所が、

 また一つ増える。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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