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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜有能すぎて追放されたが、もう誰も導かないことにした〜  作者: 影山クロウ


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第55話 語られない成功

集落を離れて、

半日ほど歩いた。


道は、

また細くなる。


若者が、

ふと立ち止まった。


「……

 さっきの人たち、

 どう思ってるでしょうね」


同行しているもう一人が、

肩をすくめる。


「さあな」

「助かったとは、

 思ってるだろ」


「でも、

 誰かに話すかな」

「話しても、

 名前は出ないな」


若者は、

小さく息を吐く。


「……

 それで、

 いいんですよね」


アルトは、

少し前を歩きながら答えた。


「いい」

「語られ始めたら、

 形が変わる」


若者は、

足元の石を蹴る。


「英雄談に、

 なりますか」


「なる」

アルトは、

即答した。

「なった瞬間、

 真似される」

「真似された瞬間、

 管理される」


若者は、

苦笑した。


「……

 めんどくさいですね」


「世界は、

 だいたい、

 めんどくさい」


その日の夕方、

別の小さな村に立ち寄った。


井戸の縁が、

欠けている。


危険だが、

まだ使えている。


若者は、

一目で分かった。


——直した方がいい。


だが、

今回は、

村の者が見ている。


若者は、

一瞬、躊躇する。


アルトが、

何も言わない。


——選べ。


若者は、

井戸の縁に腰を下ろした。


「……

 これ、

 少し欠けてますね」


村の女が、

頷く。


「ええ」

「でも、

 すぐ壊れるわけじゃないし」


若者は、

道具を取り出す。


「今、

 直します」


誰の許可も、

取らない。


説明も、

しない。


石を当て、

土を詰め、

縁を整える。


作業は、

十五分ほどで終わった。


村の女が、

驚いたように言う。


「……

 助かりました」

「名前、

 聞いてもいいですか」


若者は、

一瞬、言葉に詰まる。


アルトが、

遠くから見ている。


若者は、

首を振った。


「いえ」

「通りすがりです」


女は、

少し困ったように笑った。


「そう……」

「でも、

 ありがとう」


それだけだった。


夕方、

三人は村を出る。


若者は、

歩きながら言う。


「……

 さっき、

 名乗りそうになりました」


アルトは、

頷いた。


「人は、

 感謝の行き先を

 欲しがる」


「でも、

 名乗らなかった」


若者は、

自分に言い聞かせるように言う。


「名乗ったら、

 また、

 火を囲われる気がして」


アルトは、

静かに言った。


「それでいい」

「火は、

 照らすものだ」

「持たれるものじゃない」


夜、

焚き火を起こす。


三人だけの、

小さな火。


遠くで、

村の灯りが見える。


誰も、

こちらを見ていない。


若者は、

火を見つめながら思う。


——これで、

 何かが変わったか。


答えは、

はっきりしている。


変わっていない。


だが、

壊れなかった場所が、

 一つ、

 増えただけだ。


アルトは、

帳面を開く。


《感謝:あり》

《記録:なし》

《名称:なし》


そして、

最後に一行。


《語られない成功は、

 残る》


夜は、

静かだ。


英雄はいない。

物語も生まれない。


それでも、

明日、

誰かが

安全に井戸を使う。


それで、

十分だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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