第48話 立たない者は、守られる
最初に抜けたのは、
声の小さい男だった。
いつも最後に発言し、
決断の場では、
黙って頷いていた。
「……
俺、
商業連合の方に行く」
焚き火の前で、
そう言った。
誰も、
責めなかった。
責める理由が、
なかった。
「怖いんだ」
男は、正直に言う。
「また、
誰かが怪我するのが」
「俺が決めて、
それで……」
言葉が、
続かない。
若者は、
ゆっくり頷いた。
「……
分かる」
それが、
一番つらい。
商業連合は、
男を歓迎した。
「正しい選択です」
「あなたは、
守られます」
契約書が交わされ、
配置が決まる。
翌日、
男は
安全な作業に就いた。
判断は、
求められない。
危険も、
ほとんどない。
給付も、
安定している。
夜、
彼は言った。
「……
楽だ」
声は、
少し震えていた。
その後、
二人、三人と続いた。
誰も、
裏切り者とは呼ばれない。
だって、
幸せそうだから。
疑う派の集落は、
目に見えて、
小さくなった。
若者は、
人数の減った焚き火を見つめる。
「……
立たない方が、
守られる」
誰かが、
呟く。
アルトは、
その言葉を否定しない。
否定できない。
制度派も、
動いていた。
「危険な活動からの
保護措置」
そう名付けて、
一部の作業を
制限する。
「安全のためです」
疑う派は、
さらに動けなくなる。
夜、
若者がアルトに言う。
「先生……
俺たち、
間違ってますか」
アルトは、
少し考えてから答えた。
「間違ってはいない」
「だが……
報われない」
若者は、
唇を噛む。
「正しさが、
報われないなら……」
「それでも、
立つかどうかだ」
アルトは、
静かに言った。
翌朝、
商業連合の施設で、
小さな事故が起きた。
だが、
誰も怪我しない。
即座に、
補償が出る。
男は、
胸を撫で下ろす。
「……
よかった」
彼は、
守られている。
同じ頃、
疑う派の集落では、
橋の補修を
自分たちで行っていた。
危険だ。
効率も悪い。
だが、
誰かが、
立っている。
若者は、
工具を握りしめる。
——守られる世界と、
立つ世界。
どちらも、
正しい。
だが、
同時には、
選べない。
焚き火は、
小さくなった。
だが、
消えてはいない。
アルトは、
帳面を開く。
《離脱者:増加》
一行、書き足す。
《正しさは、
人を残さない》
夜風が、
火を揺らす。
立たない者は、
守られる。
立つ者は、
孤独になる。
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