第47話 押し付けられる正しさ
変化は、
言葉から始まった。
「お願い」だったものが、
「推奨」になり、
やがて、
「当然」になる。
制度派の通達は、
以前より少しだけ硬くなった。
《安全確保のため、
本指針に従うことが望ましい》
望ましい。
だが、
従わなかった場合の文言が、
小さく添えられている。
《事故発生時、
責任の所在が不明確となります》
疑う派の集落で、
空気が張り詰める。
「……
脅しだろ、これ」
誰かが言う。
若者は、
紙を握りしめる。
「違う」
「正しいことを、
言ってるだけだ」
それが、
一番、厄介だった。
制度派の担当者が、
現地で説明を行う。
「皆さんのためです」
「危険な判断を、
減らしたいだけです」
声は穏やか。
論理も正しい。
だが、
選択肢は一つしかない。
「この手順で、
お願いします」
若者は、
深く息を吸う。
「……
嫌だ」
場が、
静まり返る。
「俺たちは、
考え続けると
決めた」
「それを、
やめろと言うなら……」
言葉が、
続かない。
制度派は、
困ったように眉を寄せる。
「分かってください」
「これは、
個人の問題ではありません」
その言葉が、
火をつけた。
——個人ではない。
——だから、
従え。
一方、
商業連合は、
別の形で動いていた。
彼らは、
制度派の文書を利用する。
「制度にも、
適合しています」
「我々の方式なら、
完全に安全です」
疑う派の集落に、
契約書が届く。
《自主判断権の委託》
言い換えれば、
判断を手放せ、ということだ。
「守られますよ」
「もう、
迷わなくていい」
善意の言葉だ。
だが、
逃げ道が、
塞がれていく。
夜、
焚き火の前で、
疑う派は集まる。
「選べない」
「どっちに行っても、
俺たちじゃなくなる」
若者は、
拳を震わせる。
「……
正しいことを
やってるのに」
その言葉に、
誰も返せない。
アルトは、
少し離れた場所で、
火を見ている。
「先生……」
若者が、
声をかける。
アルトは、
静かに言った。
「正しさは、
人を動かすとき、
命令に変わる」
若者は、
歯を噛みしめる。
「じゃあ、
どうすれば」
「選べ」
アルトは、
繰り返す。
「押されて選ぶな」
「立ったまま、
選べ」
夜風が、
火を揺らす。
制度の火は、
安定している。
商業連合の灯りは、
さらに明るくなった。
この小さな焚き火は、
風に晒されている。
だが、
消えてはいない。
正しさは、
もう提案ではない。
前提になり始めていた。
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