第45話 交わらない選択
知らせは、同時に届いた。
上流の村で、
橋が傷んでいる。
老朽化。
増水。
いつ崩れても、おかしくない。
通行止めにすれば、
物流が止まる。
放置すれば、
事故が起きる。
判断が、
必要だった。
正しさを守る者たち
制度派は、
即座に動いた。
「基準を確認する」
「耐荷重は、
まだ規定内だ」
資料が回る。
結論は、早い。
「通行制限のみ」
「全面補修は、
次期計画で」
誰も、
異議を唱えない。
事故は、
確率で管理される。
正しさを疑う者たち
焚き火の前で、
疑う派は、
沈黙していた。
「……嫌な音がする」
若者が言う。
「今なら、
直せる」
「でも、
根拠は?」
誰も、
はっきり言えない。
それでも、
結論は出た。
「今、
直す」
「危ないと思ったからだ」
理由は、
それだけだった。
作業は、
遅い。
効率も悪い。
だが、
誰かが立っている。
正しさを使う者たち
商業連合は、
別の判断をした。
「臨時ルートを設けます」
「橋は、
使い切りましょう」
数字が示される。
「補修より、
コストが低い」
「事故が起きても、
補償で対応可能」
橋は、
道具として扱われた。
人は、
立たない。
三つの判断が、
同時に実行される。
その夜、
雨が降った。
疑う派が直した橋は、
持ちこたえた。
制度派の橋は、
問題なく使われた。
商業連合の橋は、
翌朝、崩れた。
幸い、
通行は制限されていた。
負傷者はいない。
商業連合は、
即座に発表する。
「想定内です」
「補償を行います」
誰も、
嘘をついていない。
だが、
人々は、
初めて気づく。
——同じ世界で、
別の未来が
同時に進んでいる。
若者は、
壊れた橋を見つめる。
「……
どれが、
正しかったんだ」
アルトは、
答えない。
代わりに言う。
「交わらなかった」
若者は、
息を呑む。
「正しさが、
交わらなくなると、
世界は、
分かれる」
夜、
三つの灯りが、
別々の方向を照らしている。
どれも、
間違ってはいない。
だが、
もう、
同じ地図を
描いていない。
アルトは、
帳面を閉じた。
——争いは、
まだ起きない。
——だが、
世界は、
戻らない。
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