第44話 正しさを使う者たち
彼らは、火を囲まなかった。
焚き火は非効率だ。
温度が安定せず、
光も弱い。
彼らは、
明るい室内に集まった。
商業連合の会議室。
机は整い、
資料は揃っている。
「感情論は、
不要です」
代表の男が言う。
「今回の混乱で、
はっきりしました」
「正しさは、
扱いきれていなかった」
誰も、
反論しない。
彼らは、
制度派でもない。
疑う派でもない。
「我々は、
成果を出す側です」
壁に、図が映し出される。
《制度:安定》
《余白:柔軟》
《判断:現場》
《責任:処理》
「必要な部分だけ、
使えばいい」
「全部を背負うから、
歪むんです」
その理屈は、
分かりやすい。
「人は、
立たなくていい」
「立たせると、
倒れます」
誰かが、
小さく笑う。
「正しさは、
道具ですよ」
「包丁と同じです」
「切れ味が大事で、
持ち主は、
替えが利く」
その言葉に、
誰も眉をひそめない。
成果が出ているからだ。
商業連合の管理下では、
事故は減り、
損失も抑えられている。
「世界は、
良くなっています」
代表の男は、
断言した。
「立つ人間がいなくても、
回る世界です」
その頃、
集落の外れで、
若者がその話を聞いていた。
怒りは、湧かない。
ただ、
胸の奥が、
冷える。
——回る。
——だが、
どこへ。
アルトは、
少し離れた場所にいた。
商業連合の代表が、
彼に気づく。
「あなたの思想は、
役に立っています」
アルトは、
否定もしない。
「ありがとう」
代表は言う。
「あなたは、
先駆者です」
アルトは、
静かに答えた。
「私は、
道具を作った覚えはない」
代表は、
穏やかに笑う。
「結果が、
そうしています」
会話は、
それ以上、
続かなかった。
アルトは、
帳面を開く。
《分派三:
正しさを使う者》
一行、書き足す。
《速いが、
人が残らない》
夜。
三つの火が、
それぞれの場所で燃えている。
強く、動かない火。
弱く、揺れる火。
明るく、冷たい灯り。
どれも、
正しい。
だが、
同じ世界を
照らしてはいない。
アルトは、
焚き火を見つめる。
——争いは、
まだ起きない。
——だが、
交わらない世界が、
もう始まっている。
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