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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜有能すぎて追放されたが、もう誰も導かないことにした〜  作者: 影山クロウ


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第38話 守られた失敗

失敗は、起きた。


だが、

騒ぎにはならなかった。


水路の一部が、

完全に崩れた。

前兆は、いくつもあった。


だが、

誰も止めなかった。


「契約後に対応する」

その言葉が、

判断を遅らせた。


水は溢れ、

畑の一角が使えなくなった。

収穫は減る。


だが、

負傷者はいない。


商業連合は、

即座に動いた。


「補償を出します」

「規定どおりです」


書類が回り、

印が押される。


制度側も、

問題なしと判断した。


「基準内です」

「想定された損失です」


誰も、

責められない。


若者は、

呆然と畑を見ていた。


「……前なら」

と、言いかけて、

口を閉じる。


前なら、

誰かが直していた。


前なら、

失敗は、

次に活かされた。


今は、

守られている。


失敗からも、

人からも。


夜、

集会所は静かだった。


怒りはない。

反省もない。


「補償が出るなら、

 問題ない」

「また、

 次の期に考えよう」


若者は、

何も言えなかった。


アルトは、

帳面を開く。


《水路崩落》

《被害:畑一角》

《対応:補償》


そこに、

一行を足す。


《学習:なし》


ペンが、

重くなる。


翌日、

子どもたちが、

壊れた水路の近くで遊んでいた。


危険だ。

だが、

赤印は付いていない。


基準上、

「処理済み」だからだ。


若者は、

思わず声を上げる。


「そこ、

 危ない!」


子どもたちは、

きょとんとする。


「でも、

 大丈夫って」


誰が、

そう言ったのか。


分からない。


夜、

若者はアルトの前に座った。


「先生……

 俺、

 間違ってますか」


アルトは、

静かに首を振る。


「間違ってはいない」

「だが、

 学べなくなっている」


若者は、

拳を握る。


「じゃあ、

 どうすれば」

「答えは、

 言わない」


アルトは、

そう前置きしてから言った。


「失敗が、

 守られすぎると、

 人は、

 考えなくなる」


翌朝、

商業連合が報告書を貼る。


《損失:許容範囲》

《対応完了》


紙は、

美しかった。


だが、

そこには、

次の判断が

一つも書かれていない。


畑は、

乾いていく。


人々は、

慣れていく。


守られた失敗は、

痛くない。


だから、

残る。


静かに、

積み重なっていく。


アルトは、

遠くを見る。


——次に来るのは、

 怒りでも、

 悲しみでもない。


無関心だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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