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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜有能すぎて追放されたが、もう誰も導かないことにした〜  作者: 影山クロウ


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第37話 責任を売る者たち

提案は、あまりにも整っていた。


商業連合が持ち込んだのは、

新しい“部署”の設立案だった。


「責任管理部門」


名前は、無難だ。

拒否感を持たせない。


「判断は、

 これまで通り現場で」

商業連合の男は言う。

「ただし、

 結果の整理と対応は、

 我々が引き受けます」


紙の上には、

細かい条文が並ぶ。


《事故時対応フロー》

《責任所在の明文化》

《補償範囲の明確化》


誰かが、

思わず言った。


「……それなら、

 安心だな」


男は、微笑む。


「ええ。

 もう、

 誰も一人で

 背負わなくていい」


若者は、

喉の奥が乾くのを感じた。


「引き受けるって……

 どうやって?」


商業連合の男は、

即答した。


「契約です」


静まり返る。


「判断の自由は、

 奪いません」

「ただ、

 責任を

 集約するだけです」


制度側の担当官が、

慎重に確認する。


「法的には?」

「問題ありません」

「個人責任は、

 発生しません」


それは、

皆が欲しかった言葉だった。


失敗しても、

責められない。

裁かれない。


誰かが、

小さく笑う。


「……楽になるな」


若者は、

胸の奥が冷える。


——楽になる。


その言葉が、

これほど怖く聞こえたことはない。


アルトは、

集会所の端にいた。


発言は、しない。

ただ、見ている。


商業連合の男が、

念を押す。


「もちろん、

 費用はかかります」

「ですが、

 事故対応や補償を考えれば、

 安いものです」


数字が示される。

現実的だ。


誰も、

声を荒げない。


反対意見も、

出ない。


若者が、

意を決して言った。


「……それで、

 失敗は、

 誰のものになる?」


男は、

少しだけ言葉を選んだ。


「システムのものです」


その瞬間、

アルトのペンが止まった。


《責任:システム》


文字は、

帳面に残らなかった。


書けなかった。


なぜなら、

それは責任ではない。


処理だ。


夜、

若者がアルトに言った。


「先生……

 俺、

 分からなくなってきました」


アルトは、

静かに答える。


「分からなくなったなら、

 まだ大丈夫だ」


若者は、

目を伏せる。


「分からないまま、

 選ばせる仕組みが、

 一番、危険だ」


翌日、

契約は仮締結された。


誰も、

強制されていない。


皆、

自分で選んだ。


だからこそ、

この仕組みは、

止めにくい。


倉庫の前を、

人々が通り過ぎる。


壊れたままだ。


直せるはずなのに、

直さない。


「契約後に」


その一言で、

判断が止まる。


責任は、

もうそこにない。


売られたのだ。


静かに、

丁寧に。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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