第27話 選ぶという負担
最初に割れたのは、意見だった。
集落の集会所。
普段は修理や分担を決めるだけの場所が、
この夜は、少し重かった。
「……受け入れるべきだと思う」
そう言ったのは、古くからここにいる男だった。
声は強くない。
だが、迷いもなかった。
「制度に組み込まれれば、
安全基準がはっきりする」
「外から文句を言われることもなくなる」
誰かが頷く。
「正直、
毎回決めるのは疲れる」
「失敗したら、
全部自分の責任だ」
それは、弱音だった。
だが、否定できない。
反対側で、若者が言う。
「でも、
制度にしたら、
今みたいには動けない」
「判断が遅れる」
「遅れても、
誰も責められない」
別の声が重なる。
「それが、
正しさじゃないか?」
言葉が交差する。
怒鳴り声はない。
だが、線が引かれ始めている。
アルトは、端に座ったまま、口を開かなかった。
誰かが、耐えきれず聞く。
「先生は、
どう思うんですか」
アルトは、しばらく黙ってから答えた。
「私は、
どちらも正しいと思う」
場が、ざわつく。
「制度は、
人を守る」
「余白は、
人を動かす」
アルトは、静かに続けた。
「だが、
同時には持てない」
沈黙。
「選ぶということは、
負担を引き受けることだ」
「楽な方を選ぶと、
重さは後から来る」
古くからの男が、低く言った。
「……俺は、
もう引き受け続ける自信がない」
その言葉に、
誰も反論しなかった。
若者が、拳を握る。
「俺は、
まだやれる」
「失敗しても、
ここで直したい」
視線が交わる。
年齢でも、立場でもない。
覚悟の差だ。
アルトは、立ち上がった。
「決めろ」
それだけ言った。
「今夜、
決めなくていい」
「だが、
先送りもしない」
「残る者」
「制度を受け入れる者」
言葉を選び、
はっきり言う。
「道は、分かれる」
誰かが、息を呑んだ。
「分かれるって……」
「追い出さない」
アルトは即答する。
「だが、
同じやり方ではいられない」
集落は、小さい。
だから、誤魔化せない。
夜が更け、
人々は三々五々、外へ出た。
焚き火の前で、
弟子が言った。
「先生、
分裂します」
アルトは、否定しなかった。
「分かれることは、
壊れることじゃない」
「選ばないまま続ける方が、
壊れる」
弟子は、唇を噛む。
「……俺は」
「決めろ」
アルトは、同じ言葉を返す。
「私の後ろに、
立つな」
その一言は、
突き放しではない。
自立の要求だった。
遠くで、
官僚の馬車が止まる音がした。
制度は、待っている。
だが、急がない。
なぜなら、
内側が割れるのを
待っているからだ。
アルトは、夜空を見上げた。
——これは、
私の思想の結果だ。
逃げない。
だが、
引き受けるのは、
もう私だけじゃない。
火は、静かに燃えている。
選ぶという負担が、
今、この場所に置かれていた。
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