第21話 失敗を引き受ける者
失敗は、静かに起きた。
風車は、回らなかった。
若者が選んだ修理方法は、理屈としては正しい。
歪んだ羽を補強し、軸の負担を減らす。
材料も、作業手順も、問題はない。
だが、風が変わった。
突風ではない。
季節の変わり目に起きる、ごく普通の風向きのズレだ。
軋む音がして、
補強した羽が、途中で止まった。
「……だめか」
若者は、歯を噛みしめた。
誰も怪我はしていない。
だが、風車は止まり、粉挽きはできなくなった。
集落に、困った空気が流れる。
「どうする?」
「臨時で人力に戻すしかないな」
「時間がかかる」
アルトは、少し離れた場所で、それを見ていた。
何も言わない。
若者が、こちらを見た。
「……先生」
呼びかける声に、助けを求める響きはなかった。
確認だ。
アルトは、一つだけ答えた。
「君が決めた」
それだけだった。
若者は、深く息を吸い、頷いた。
「分かりました。
今日は人力で回します。
明日、羽を作り直します」
「材料は?」
「足りない分は、
自分の家の分を回します」
誰かが言った。
「それ、きついぞ」
「でも、
自分が止めたんです」
その言葉で、話は終わった。
夜。
若者は、一人で作業場に残っていた。
削り直した木材の山。
失敗の跡が、そこにある。
アルトが、静かに近づく。
「後悔しているか」
「……しています」
「なら、いい」
若者は、手を止めた。
「怒らないんですか」
「怒る理由がない」
「失敗しました」
「失敗したのは、
君の判断だ」
若者は、少し戸惑った。
「それで……」
「それで、
君が直している」
アルトは、それ以上言わなかった。
翌日、風車は回った。
前より遅い。
だが、安定している。
粉は挽ける。
量は少ないが、十分だ。
集落の誰かが言った。
「前のほうが、速かったな」
若者は答える。
「次は、
もっと速くします」
アルトは、その会話を聞きながら、帳面を開いた。
《風車停止》
《判断者:若者》
《原因:風向変化未考慮》
《対応:再設計》
そして、最後に一行。
《責任:判断者》
その言葉を書き終えたとき、
アルトは、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
——もう、私の思想ではない。
これは、
この若者のやり方だ。
失敗は、彼のものだ。
だから、次は彼の成功になる。
焚き火の前で、若者が言った。
「先生、
前より、
少しだけ分かりました」
アルトは、微かに笑った。
「それで十分だ」
夜は、静かだ。
風は、弱い。
世界は、今日も正しい場所と、
正しくない場所を行き来している。
だが、ここには今、
引き受けられた失敗が残っていた。
それが、この場所の強さだった。
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