第15話 それでも国は続く
王国は、続いた。
改革は撤回されず、
制度は維持され、
数字は依然として「成功」を示している。
だから、国は前へ進むことを選んだ。
中央会議室で、宰相ヴァルドは静かに告げた。
「これ以上の揺り戻しは行わない」
誰も反論しなかった。
反論できなかった。
犠牲は、許容範囲に収まっている。
死者は出ているが、
国家が傾くほどではない。
それが、国家というものだ。
英雄セインは、前線に立ち続けていた。
かつては討伐の象徴だった男は、
今では“判断を実行する存在”になっている。
補給が一日遅れる。
医療が半日足りない。
判断は、基準どおり。
「……次だ」
彼は、そう言って進む。
止まらない。
止まれない。
部下が、小さく言った。
「以前なら、
もう少し余裕を見てましたよね」
セインは、答えなかった。
答えれば、
何かが壊れる気がしたからだ。
王都では、
“間に合わなかった死”は、
報告の定型文になっていた。
《対応は適切》
《制度に問題なし》
それを読む官僚の手は、
もう震えない。
慣れたからだ。
宰相ヴァルドは、夜、一人で執務室にいた。
机の引き出しから、古い書類を取り出す。
追放決定書。
アルト=レイヴン。
自分の署名。
「……正しかった」
そう呟き、
しばらくして続きを言えなかった。
正しかった。
だが、正しさしか残らなかった。
窓の外では、
王都の灯りが揺れている。
人は生き、
商いは続き、
国は回っている。
だから、この選択は間違いではない。
間違いではないが——
戻れない。
北方。
アルトは、壊れた橋の修理を見守っていた。
昨日の豪雨で、基礎が崩れた。
「設計、甘かったな」
「うん」
「次は?」
「位置をずらす」
「それでいい」
橋は、明日には直る。
完璧ではないが、
誰も死なない。
夜、帳面に記す。
《橋崩落》
《原因:水量想定不足》
《修正:基礎位置変更》
短い。
だが、すべてが残る。
王国の記録には、
“修正”がない。
あるのは、
“判断は適切だった”という言葉だけだ。
アルトは、焚き火を見つめながら思う。
——国は続く。
——だから、壊れない。
だが、
続くこと自体が、選び続けることだ。
正しさを。
速さを。
平均を。
その選択を、
誰も止めない。
それが、この国の強さであり、
弱さだった。
遠く、王都の鐘が鳴る。
時刻を告げるだけの音。
アルトは、立ち上がり、
火に薪をくべた。
ここでは、
失敗が燃える。
だから、
夜は、明ける。
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