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追放された制度設計官は、国が壊れるまで戻らない 〜正しい改革が、なぜ人を殺したのか〜  作者: 影山クロウ


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第13話 遅すぎた理解

その結論は、誰の拍手も呼ばなかった。


王都・中央検証会議室。

改革開始から三年分の統計が、机の上に並べられている。

赤線で囲まれた数値は、もはや「誤差」とは言えなかった。


「……確認します」


書記官が、静かに読み上げる。


「改革後三年目以降、

 医療対応の“間に合わなかった”事例は、

 改革前と比較して二・三倍に増加」


誰も声を上げなかった。

反論も、怒号もない。


理由は単純だ。

全員が、もう気づいていた。


宰相ヴァルドは、深く椅子にもたれた。

机の上の紙に、視線を落としたまま、言う。


「……改革は、失敗ではない」


その言葉に、頷く者が多かった。

数字上、国は強くなっている。

物流は速く、統制は取れ、外敵にも揺るがない。


「だが」


ヴァルドは、そこで一度、言葉を切った。


「犠牲は、確実に増えた」


空気が、はっきりと変わる。

誰かが責められたわけではない。

だが、逃げ道が閉じた。


「制度違反はない」

「判断ミスもない」

「それでも、人は死んだ」


誰かが、かすれた声で言った。


「……正しい判断、だったんですよね」


その問いは、宙に浮いたまま、落ちてこない。


英雄セインが、ゆっくりと口を開いた。


「正しかった。

 少なくとも、その時点では」


彼の声には、迷いが混じっていた。


「だが俺たちは、

 “間に合わなかった死”を、

 想定の外に置いていた」


宰相ヴァルドは、目を閉じた。


「……アルトだな」


その名が出た瞬間、

誰も否定しなかった。


「彼は、最悪を想定しすぎていた」

「だから追放した」

「それも、正しかった」


矛盾している。

だが、全員が理解している。


正しかった判断が、

正しい未来を作るとは限らない。


「彼は、何をしていた?」


若い官僚が、震える声で答える。


「……失敗を、

 失敗になる前に止めていました」


「記録は?」

「ありません。

 起きなかったことなので」


会議室に、重い沈黙が落ちた。


それは、

“取り返しがつかない”と理解した沈黙だった。


宰相ヴァルドは、静かに言った。


「我々は、

 正しさを制度に閉じ込めすぎた」


誰も、異を唱えない。


「だが、もう戻せない」


それが、この会議の結論だった。


夜。

北方。


アルトは、焚き火のそばで帳面を開いていた。

今日の記録。


《家畜柵の破損》

《原因:強風》

《対応:位置を変更》

《被害:なし》


短い。

だが、必要なことはすべて書いてある。


そのとき、遠くで鐘が鳴った。

王都から届く音ではない。

この土地の、時を告げる鐘だ。


アルトは、火を見つめながら思う。


——今頃、理解しただろう。


だが、それでいい。

理解は、いつも遅れる。


問題は、

遅れた理解を、どう扱うかだ。


彼は、帳面の余白に一行、書き足した。


《理解は、

 修正できる場所でしか意味を持たない》


ペンを置く。


王国は、正しさを理解した。

だが、修正できない。


ここは違う。


だから、自分は戻らない。


それが、

この物語の、

取り返しのつかない答えだった。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結になる予定です。

アルトに何が起こるのか?


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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