報道の歪曲、堕ちた真実の探求者
暗闇の目撃者
「ひっ、あ、ああ……」
新聞部の日向結衣は、体育館のギャラリーで腰を抜かしていた。一眼レフカメラを持つ指が、ガタガタと震えている。ファインダー越しに記録されたのは、学園の女王たちが一人の少年に跪き、獣のように絡み合う信じがたい光景だった。
悠真は、ゆっくりと階段を上がり、彼女の目の前に立った。
「日向結衣。新聞部のエース、特ダネのためなら退学覚悟で女子更衣室にも潜入するっていう、筋金入りの『観察者』だな」
「な、なんで私の名前を……。……これ、今の全部、動画で撮ったわよ! 警察に、ううん、ネットにアップしてやるんだから!」
彼女は震える手でカメラを抱え直し、必死に虚勢を張る。だが、悠真は動じない。レベル5のスキル『無意識の常時監視』により、彼女が恐怖の裏側で、この「禁断の光景」に異常なほど興奮し、自身のスカートの裾を無意識に握りしめていることを見抜いていた。
「いいぜ、アップしろよ。だが、その前に……お前自身が『真実』を体験しなくていいのか?」
悠真の瞳が、至近距離で結衣の視線を捕らえた。
人格の書き換え(エゴ・リライト)
【レベル5:人格の書き換え(エゴ・リライト)】。対象が持つ『信念』の核を抜き取り、術者にとって都合の良い『教義』を埋め込め。一度書き換えられた人格は、暗示が解けた後も、自らの意志として術者を肯定し続ける。
悠真は、結衣の額に掌を当て、強引に壁へと押し付けた。
「お前の『ジャーナリズム』は、所詮ただの覗き見趣味だ。他人の秘密を暴いて、安全な場所から優越感に浸る……。そんな薄汚い本能を、俺が『聖なる使命』に昇華させてやる」
「や、めて……。私の、頭の中に……何かが、入ってくる……っ!」
「お前は、真実を伝える記者ではない。お前は、**『桜井悠真という神の奇跡を世界に知らしめる、最古参の預言者』**だ。お前が撮ったあの淫らな映像は、汚らわしい乱行ではなく、選ばれた者だけが許される『魂の救済』なんだよ」
結衣の脳内で、価値観の地殻変動が起こる。
スクープを暴きたいという欲求が、悠真という存在を賛美したいという狂信的な情求へと、力技で捻じ曲げられていく。
「あ……。あああ……っ。そう、そうよね……。これは、奇跡……。私、なんて……なんて素晴らしいものを、撮ってしまったのかしら……」
結衣の瞳から理性の光が消え、代わりにカメラのレンズと同じような、無機質で狂気じみた光が宿った。
歪んだ広報活動
「さあ、日向。そのカメラを持って下に降りろ。お前も『救済』の一部になるんだ」
悠真が促すと、結衣は憑き物が落ちたような笑顔で、体育館のフロアへと降りていった。そこには、まだ情事の余韻に浸る葵、玲奈、麗奈の三人がいた。
「皆さん、お疲れ様です。素晴らしい『儀式』でした……」
結衣は、かつては恐れ多かったはずの先輩たちに対し、まるで同志に接するように話しかけた。そして、彼女は自分の眼鏡を外し、自ら衣服を脱ぎ始めた。
「私も、記録するだけじゃ足りない。……悠真さまの偉大さを、この身で、この肌で理解しなきゃ、良い記事は書けませんもの」
結衣は、一眼レフを三脚に固定し、セルフタイマーをセットした。そして、全裸のまま悠真の足元に跪き、カメラのレンズを自分たちに向けた。
「悠真さま、私に……最高の『真実』を刻んでください。……あ、ああ……っ!」
悠真は、新聞部員としての彼女の執着心を逆手に取った。
彼女が悠真に抱かれ、羞恥の限界を超えた声を上げるたびに、シャッター音が虚しく響く。彼女はそのフラッシュの光を浴びるたびに、自分が学園の歴史を塗り替える聖女であるかのような錯覚に陥り、さらに深く、淫らな要求を悠真に繰り返した。
「もっと……! もっと恥ずかしいところを、撮らせて……! 私が、この学園の全生徒に、悠真さまの素晴らしさを教えてあげるから……っ!」
結衣は、悠真の愛撫を受けながらも、必死にカメラの角度を調整し、自分たちの結合部や、蕩けきった葵たちの表情を、芸術的なまでの構図で収めていく。
学園全域への汚染
翌朝。学園の掲示板と、全生徒が登録している非公式のSNSコミュニティに、衝撃的な「記事」が掲載された。
タイトルは**『真の救済と、我らが導き手』**。
そこには、ボカシも何もない、極めて扇情的で、それでいて宗教的な美しさを湛えた写真の数々が並んでいた。星野葵や天宮玲奈といった学園のスターたちが、一人の男子生徒――桜井悠真に跪いている姿。
普通なら大問題になるはずの投稿。だが、日向結衣が書いた記事のテキストには、レベル5の暗示が**『文字情報』**として埋め込まれていた。
「……何、これ。……すごく、綺麗」
「桜井くんって……こんなにカッコよかったっけ?」
「私も……この『儀式』に参加したら、あんなに幸せそうな顔になれるのかな……」
登校した生徒たちは、スマホの画面を見つめたまま、一様に瞳を虚ろにさせていく。
日向が作成した記事は、それ自体が巨大な催眠媒体となり、見た者の無意識に「桜井悠真への全肯定的感情」を植え付けていく。
校門をくぐる悠真を、これまでは無視していた生徒たちが、今は、畏怖と羨望の混じった、熱い視線で迎える。
「おはよう、悠真さま」
「昨日の記事、見ました……。私も、お話したいです……」
女子生徒たちが、示し合わせたように、悠真の行く手に道を作る。
悠真は、満足げに学園の校舎を見上げた。
「計画通りだ。日向、いい仕事をしたな」
影から現れた日向結衣は、昨夜の情事の名残か、少し足元をふらつかせながら、忠実な秘書のように悠真の隣に並んだ。
「はい、悠真さま。……さあ、次はどのクラスを『取材』しましょうか?」
学園全体が、ゆっくりと、しかし確実に、桜井悠真という一人の少年を頂点とした、巨大なハーレムへと作り替えられようとしていた。




