屋上の情事、あるいは理性の融解
悠真が手に入れた古びた禁書には、催眠術の真髄がこう記されていた。
【催眠の第一歩:生理的共鳴】。対象が最も深く呼吸する瞬間、その呼気と術者の暗示を同期させよ。特に、自律神経が揺れ動く『体温の上昇時』は、暗示が脊髄にまで浸透する絶好の機会である。
昼休み。悠真は屋上の給水塔の陰に潜み、その時を待っていた。
扉が静かに開き、星野葵が現れる。彼女は周囲を一度だけ見渡すと、誰もいないことを確信し、大きく息を吐いた。午前の授業で張り詰めていた「完璧な優等生」の糸が、ほんの少しだけ弛む。
葵は制服のブレザーを脱ぎ、フェンスに手をかけた。そして、悠真の予想通り、窮屈そうにブラウスの第一、第二ボタンを外す。
「ふぅ……」
露わになった彼女の鎖骨は、陽光を反射して眩いほど白かった。ボタンを外したことで、彼女の豊かな胸の膨らみがブラウスを押し広げ、深い谷間に一筋の汗が流れるのが見える。
悠真は、ポケットの中で香水を染み込ませたハンカチを握りしめた。彼女の脳が最もリラックスするラベンダーの香りを、微風に乗せて彼女の元へ送る。
葵が鼻をぴくりと動かした。彼女の無意識が、図書館という「安全圏」の匂いを感知した瞬間だ。
「……あ」
葵の瞳から、鋭さが消えた。トランス状態への導入準備は整った。悠真は音もなく彼女の背後に忍び寄り、その耳元に、低く、湿った声を注ぎ込む。
「星野。……そのボタン、外したままでもいいんだぞ」
「!?……桜井、くん?」
葵が驚いて振り返ろうとするが、悠真は彼女の肩を背後から優しく、しかし抗えない力で抑え込んだ。
「動くな。今、お前の脳は、このラベンダーの香りと、俺の声を求めているはずだ。……聞こえるか? お前の心臓の音が、どんどん速くなっているのが」
「あ、ああ……なに、これ。体が、熱くて……」
悠真は彼女のうなじに顔を近づける。彼女の体温が急上昇しているのが分かった。羞恥心と不可解な快楽が混ざり合い、彼女の理性を根底から揺さぶっている。
「星野。お前は今、最高の解放感の中にいる。この屋上の風、俺の指の感触、そしてこの香りが、お前の『羞恥心』を『悦び』に書き換えていく」
悠真は、彼女のブラウスの隙間から、震える指先を差し入れた。熱を帯びた彼女の肌に触れた瞬間、葵の体が大きく跳ね、小さな喘ぎ声が漏れた。
「……んっ、や、だ……桜井くん、だめ……」
「だめじゃない。お前はこれを待っていたんだ。……レベル1暗示起動。『お前は今から、俺に触れられるたびに、知性が溶け、本能だけに従う雌になる』」
悠真が指先で、彼女の胸元の柔らかい膨らみをそっと圧迫する。
葵の瞳が、ぐにゃりと歪んだ。焦点が合わなくなり、とろんとした熱い光が宿る。彼女の手は、拒絶するためではなく、自分の快楽を支えるためにフェンスを強く握りしめた。
「あ、は……あ……。桜井くん……、不思議。もっと、触って……もっと、恥ずかしいこと、して……」
さっきまでの孤高の女王は、どこにもいない。彼女は自ら腰をくねらせ、悠真の手に自分の体を押し付けてきた。ブラウスから半分はみ出した彼女の肌は、赤く火照り、彼女が「完璧」という重圧から解放された喜びを全身で表現していた。
「いい子だ、葵。……お前は、俺の前でだけ、この『恥ずかしい姿』を晒すことに、最高の価値を感じるようになる」
悠真は彼女の耳たぶを甘噛みし、さらに深い暗示を刻み込んだ。
数分後、チャイムが鳴る。
悠真が暗示の解除キーである「指パッチン」を鳴らすと、葵は一瞬だけ呆然とした後、慌ててボタンを留め直した。
「私……何を……」
彼女の記憶は曖昧だ。しかし、彼女が悠真を見る目は、先ほどまでとは明らかに違っていた。その瞳には、恐怖ではなく、深い深い、底なしの**『依存の予感』**が宿っていた。
『暗示成功』
対象:星野 葵(浸食率 15%)
獲得経験値:+50pt
レベルアップまで:あと10pt
悠真は立ち去る彼女の背中を見送りながら、自らの手のひらに残る熱い感触を確かめた。
(次は、もっと深いところまで書き換えてやる……)




