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実験作:夜の保存

夜22時

「今日の記憶も保存…と」


寝る前に24時間ぶんの記憶を保存するかが決められる世界。

記憶は無くなるが、知識は残るし、24時間ぶんの記憶を保存しないうやつなんてほぼいない

小学校以降で保存しない奴は珍しい。


いつからとかはわからないが、そういう”決まり”言い換えるなら”ルール”だ。

そのため、深夜の時間帯はテレビはもちろん、ラジオ、コンビニ、インターネットも自動で止まってしまう。

それに合わせて、みんな眠りにつく。やることがないためというのもあるが、なんとなく慣習でそうなっている。

つまりこの国は、深夜に一度リセットされる。

『では、今夜の放送はここまで。お相手はDJ佐藤でした。皆様、しっかりと本日も”保存”してお休みください』

僕は念のためもう一度記憶を”保存”してベッドに入った。



目覚ましの電子音で起きる。

大きく伸びをして、そして思い出す。

「昨日は、木曜日。普通に授業を受けて、英語の小テスト、現国のヤマセンのつまらない授業…」

ベッドの横のラジオをつける。

『…金曜日の次のニュースです。最近、行方不明者の事件が増えています。皆様も…』

「金曜日か…」

ということは、キチンと記憶が保存されている。

じゃあ、学校行こうかな


昼休憩

「というわけで、昨日のテレビがさ…」

友人Aのくだらない話を聞きながら卵焼きを噛みしめる。

「…そろそろさ、なんか次の面白そうなこと、探そうぜ?」

今まで注意深く弁当の鮭をつまみながら友人Bが口に出した。

僕も、AもBを見る。

「おもしろいことってなんだよ。学校の裏山キャンプはもうやらねーぞ」

これは2か月前の事である。

我が学校の裏山。少しの小高い山と広場、たまに学校行事のレクリエーションにも使われる場所だ。

思ったより寒くて逃げ帰った。

「銭湯のサウナでカラオケもやらねーぞ」

これは1か月前の事である。

テレビでやっていた、サウナカラオケ特訓法である。

1日1時間でめきめき上達なら、開店から閉店までやればプロ級じゃない?と始めたが、のぼせた。

怒られたことは記憶に新しい。

誰に発表するでもない。自己満足で検証するのが我らが調査トリオである。

Bはにやりと笑って口を開いた。

「お前ら、甘いな。今回はな…」


誰が決めたとわからないルール

1つ、24時間ごとに記憶を保存するか決めなくてはいけない

保存しなければ記憶は失われる。が、知識は消えない。

2つ、深夜の時間帯は寝なければいけない

具体的な時間は不明だが、そういう慣習だ


これを『破る』とどうなる?


「今何時?」

「1時だな」

僕らは、ちょうど家族が家を空けて一人となっていたBの家に集まった。

つまり、僕らはBにやられたってワケだ。

明日は休みだし、夜通し楽しもうって腹積もり。

「お、電気止まったぜ。いよいよって感じだな」

Bの家が真っ暗になる。

ブレーカーが落ちたのではない。供給が経たれたのである。

「噂は本当だったんだな…この様子じゃそのうち水道も止まるぜ」

「ウチはアパートの5階だぜ。確か4階くらいから電気で水をくみ上げてるらしいからさ、たぶん水も止まってる」

マジかあ~なんて言いながらランタンをつける。

煌々と照らされるBの部屋。

漫画、小説、ラジオ、ポスターとベッド。僕とA。

「なあんか、思ったより暗いよな。漫画読んだら目が悪くなるんじゃね?」

「違いねえな。じゃあラジオにするか」

Aは小型ラジオのスイッチを入れる。ザリザリと耳障りな音。

『…であるわけで…のニュ…は…』

「お前下手だな。手動でチューニングしたことないの?」

ゲラゲラ笑いながらBがラジオをとる。

『………です。もう深夜1時を回りました。この時間まで起きてる皆さん、”保存”はすみましたか?』

「お前ら、”保存”しなかったある?」

「あるに決まってるじゃん」

「俺も~でも最近は無いな」

「なんか嫌なことがあった日はあえて”保存”しないといいらしいぜ。PTO?とかの対策でさ」

「PTSDだ。このバカ!」

3人で笑いあう。

カーテンを開けると真っ暗な外。俺たちの家以外の電気は見えない。街頭の電気すら消えている。

半月が出ていなければ一面闇の世界だ。

「あ!あれってさ。天の川?あの辺の!」

「いや、薄い雲じゃないか?」

ガラリと窓を開けて身を乗り出して空を見るA。

僕たちの話声以外、何もしない。

「…なんかさ。いや」

Bが遠くを見つめて呟いた。視線の先には何もない。

半月の光は弱弱しいが、目が慣れてくると意外にも家の輪郭が闇の中に浮かび上がってくる感じがする。

動くものは何もないのが新鮮に感じる。

「これさ、ランタンの光を消したほうが面白いんじゃない?この雰囲気がさ」

「いや、さすがに部屋の中は明るいほうがいいだろ」

そういいつつもAはランタンの明かりを最小に調整してくれた。

蛍光灯の豆球のように小さい光だ。

「…なあ知ってる?豆球の噂」

「なに?」

「小さい頃、夜寝るときに真っ暗だと怖く感じる時ってあったろ?その時、蛍光灯の豆球だけつけて寝るってやつ。アレって逆効果だって言う噂だよ」

「いや、知らんが」

まあ聞け…とBは声のトーンを落とす。

「あのオレンジの、ちょうどいい感じの明るさがさ、逆に良くないものを呼ぶってやつだ。良くないものってのが何なのか…幽霊?化け物?蛇?そういうやつだよ。ちょうどこのくらいの明るさでさ」

「…………」

3人分の沈黙が支配する。

外からは何も聞こえない。

ラジオからの音だけが聞こえる。

『もうすぐ深夜2時です。ラジオの前のみなさま、”保存”はすみましたか?おやすみなさい。この放送はまもなく終了します』

「じゃあ俺はトイレ行ってくるわ」

「おう。廊下出て右な」

ひらひらと手を振りながら部屋を出るA。

サー…と雑音のなるラジオの電源を切るB。

「これで暇つぶしが一つ消えたな。外でも見るか?」

「そうだなあ…」

外を見るBにつられて僕も外を見る。

「…いま、何時?」

「2時10分を過ぎたとこ」

ふうん…なんて

「一番遅くまで起きたのって、何時くらい?」

「12時かな…」

「じゃあ記録更新だね」

「土曜日何する予定?」

僕らは、とりとめのない会話を続ける。それは、沈黙を恐れるように。

現実を忘れるように

「これって、何時まで起きる?朝?」

「それは…」

僕もBもさすがに見て見ぬふりはできなかった。

今まで必死に見ないように、口に出したら終わりだと思っていた出来事。

半月の弱い光の下、風もないのに動くなにか。

「…ランタン、消さない?」

「おう」

「…Aのやつ、遅くない?」

「……」

「……」

じっとりとした空気。

嫌な汗が伝う。

すっくとBが立ち上がり、窓を慎重に閉める。

「…カーテン、閉めたほうがいい?」

「閉めると真っ暗だぜ?」

「お前、Aの様子見てこない?」

「それはイヤ」

なにかが動く音

無言でカーテンを閉めるB

「Aは…」

「トイレで寝たと思わない?きっとそうだよ」

「いま何時?」

「いまは…2時半」

ガチャン!と金属製のドアが開く音

廊下を歩くタンタンという音

ゆっくりと、ゆっくりと…

顔を見合わせる僕とB

部屋のドアノブがゆっくりと回った。


~~~~~




カンカンカンと、階段を登る音が聞こえた。

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