第7話 テイマー
私はとりあえず、テイマーとして冒険者登録をして、ギルドを出た。
これでどこの国への行き来もスムーズにできる。
でも、 魔獣をすでにテイムしているなんてどういうことなんだろう。
『適正があるだけなら白色なのですが、白銀色になったということはすでにテイマーということなんです』
水晶はたしかに白銀に輝いていた。
お姉さん曰く、輝きが強ければ強いほど階級が高いのだという。
はっきりとはわからないが、私がテイムしているのはA級かS級ではないのだろうかということだ。
そんなこと、あるわけないのに。
「なんか思い当たる節はないのか?」
「ありません……そもそも、魔獣と関わったのは魔獣騎士団の子たちとキュウだけですし」
「魔術師団の魔獣と勝手に契約を結ぶなんて有り得ないよなぁ……ってかキュウって、結局なんの魔獣なんだ?」
「わかりません。でも、可能性があるとしたらキュウだけですね……」
キュウがA級かS級の魔獣だなんて考えられない。
あんなに小さくて、可愛くて、優しくて、泣き虫だったのに。
「フィーナって、テイムの方法は知ってるのか?」
「いえ、知りません」
「テイムする魔獣に中指を嚙ませるんだ。魔獣はテイム者の血を飲んで契約が完了する」
キュウとの日々を思い返す。
中指を、噛む……。
そういえば、指を怪我したときにキュウが舐めてくれたことがあった気がする。
もしかして、その時に?
「もしかしたらと思うことはあります。これって、魔獣側もテイムされていると気が付いていないってこともあるんですか?」
「それはないな。魔獣側は人間の血を体にい入れるんだ。気づかないことはないよ」
(そうね。魔獣側はテイム者の魔力を常に感じることができるの。わかっていないことはないわ)
「キュウは、私と契約を結んでいることをわかっているってことなんですね」
だったら、どうして会いに来てくれないのだろう。
あれだけいつも一緒にいて、お互い大好きだったのに。
……いや。私が悪いんだ。
『どこか、遠くへ行って。お父様に見つからないようにできるだけ遠くへ。絶対に戻ってきたらダメだからね』
キュウを父から守るためとはいえ、あの子を捨てたのは私だ。
会いに来てくれなくて当然。
でも、それならなおさら会いに行かないと。
いつまでもテイムしたままではキュウは自由になれない。
ちゃんと解除してあげなければ。
「テイムを解除するためにはどうすればいいのですか?」
「もう一度指を嚙ませるんだよ。魔獣が体の中に取り込んだ血を戻すんだ」
「血を、戻す……。それって、人間側から解除することはできないということですか?」
「そうだな。後は、どちらかが亡くなれば自然に解除されるけど……」
ゼンデさんとランさんはどうしてか苦い表情になる。
「なにか、あるのですか?」
「無理やりテイム契約を解除するために、魔獣を殺めるテイマーがいるんだ」
(魔獣は、一度主と認めた人間に生涯尽くす思いで契約を結ぶわ。でも、人間はより強い魔獣と契約を結ぼうとする)
「そんなこと……」
「まあ、こればっかりは俺たちにも防ぎようがないんだよなあ」
魔獣は、成長と共に階級が上がっていく。そうすればテイマーの階級も上がる。
逆を言えば、魔獣の階級があがらなければテイマーの階級も上がらないとうこと。
でも、階級はテイムするときにわかっている。それから共に成長することに意味があるのに……。
(もちろん、お互いが同意して別れを選ぶことのほうが多いわよ)
ランさんは悲しむ私を気遣ってか、そんな事ばかりではないと教えてくれる。
でも、テイマーとして魔獣に対する責任や役割を自覚しなければいけないと感じた。
私はキュウとちゃんと話をすることができるだろうか。
ギルドを出てからしばらく歩き、街の奥に進むと宿泊施設が並ぶ通りに出た。
女性冒険者専用の宿もあるらしく、ゼンデさんが案内してくれた。
「この宿、すげえ良いって評判なんだ。残念ながら男の俺は入ったことないんけど」
前個室シャワー付き、長期滞在OKで、料金もかなり安いらしい。
「いい所を教えていただきありがとうございます」
「ああ。それと明日、一緒に行って欲しいって言ってたとこにいってもいいか?」
「もちろんです」
「じゃあ、また朝に迎えにくるから」
「わかりました。おやすみなさい」
宿の前でゼンデさんとランさんに手を振る。
二人もここから近い宿を借りているらしい。
もうアルカ国に滞在して随分と経つそうだ。
私は二人の背中をしばらく見送ってから宿へと入る。
中は当然だが女性ばかりで、短剣や杖を携えている人や、魔獣を連れている人もいる。
冒険者の宿って感じがするなぁ。
私は受付けを済ませ、渡された鍵の部屋へと向かう。
二階に上がり、一番突き当たりの部屋。
中へ入ると、その間取りに驚いた。
窓際には一人で寝るには十分な広さのあるベッド、その横には机がある。
そして机の横にはドレッサーまで置かれている。
反対側には二つの扉があり、一つはシャワー室、もう一つはトイレだ。
シャワートイレ別々は嬉しい。
たしかにこれで一泊銅貨一枚は安すぎる。
どうしてこんなに安いのだろうと疑問に思いながらも、ベッドにボスッと腰掛ける。
柔らかいベッドに座ると、なんだか急に疲れが押し寄せてきた。
昨日はランさんに包まれて気持ち良かったけれど、初めての野営は気が張っていた。
一人で国を出てきてどうなるかと思ったけれど、落ち着けるところに来られて良かった。
ゼンデさんとランさんのおかげだな。
明日改めてお礼を言わないと。
獣舎のみんなはどうしてるかな。
新しい掃除婦さんと仲良くやっているだろうか。
グランディ様に挨拶してから出てくるべきだっただろうか。
気になることがたくさんあるし、やっぱり寂しいな。
なんて、弱気になったらだめだよね。
私は自分にできることをすると決めたんだ。
ゼンデさんたちのお役立てるように頑張らないと――。