第6話 アルカ国
森を抜けると、すぐに大きな国境門が姿を現した。
ゼンデさんは手際よく門衛に入国証を見せている。
「あの、すみません。私、入国証を持っていなくて……」
違う国に入るのなら入国証がいるのは当たり前なのに、そんなことも考えずに旅に出るなんて恥ずかしい。
「ああ大丈夫。俺の連れってことにするから!」
ゼンデさんが門衛に何か言うと、そのまま私も中へ入れてもらえた。
「ありがとうございます」
「出るときは何もいらないから忘れるよなぁ」
なんでもないことのように笑ってくれるゼンデさんは本当に良い人だ。
自国で行きたい国の入国証を発行してもらわなければいけないが、出る時には何も必要ないため、忘れる人もよくいるのだそう。
「アルカ国を出てまた違う国へ行くときは一回エルドラードに戻らなければいけないですね……」
「それならさ、冒険者登録すればいいよ。登録証があればどの国にも入れるから」
「ですが私、ただ旅をするだけなのに冒険者登録だなんて」
「仕事は自分で決められるから、別に何もしなくたっていいんだ。たまたま薬草みつけた、たまたま魔物倒した、って時とかに登録してると報奨金貰えるから便利だぜ」
たまたま魔物を倒すなんてそうないだろうけど、仕事を気にしなくていいのなら登録しておいてもいいかも。
「わかりました。そうしてみます」
「オッケー。あとでギルドも案内する」
「ありがとうございます」
とりあえず、お腹が減っているのでまずは街へ行ってご飯を食べることにした。
もう昼過ぎだが、朝ごはんにピーチアの実を食べただけだ。甘くて瑞々しい実が美味しいけれど、やっぱり腹持ちはしない。
牧場などがあるのどかな草原を抜け、街に入る。
すると、その活気に溢れた雰囲気に驚いた。
先が見えないほど続く露店が並ぶストリートに、いろいろな国籍の人たち。
それに、魔獣たちもたくさん歩いている。
「すごく賑やかなところですね」
エルドラードでは、王都の中心街や飲食店があるところなどは特別な理由を覗き、使い魔であっても同行することはできない。
貴族が多く暮らしているので、高価なものを扱っているお店が多いからだとか、魔獣同士でトラブルになるといけないからだとか、理由はいろいろある。
「まあ、良くも悪くも自由な国なんだ」
「楽しそうで良いところですね。それに、とても美味しそうな匂いもします!」
「珍しい食べ物もいっぱいあるぜ」
私たちは露店があるストリートに入り、何を食べようか見て回る。
「どれも美味しそうで迷います。おすすめとかありますか?」
「そうだな、ガッツリいきたいならホッグオークの肉とか」
「ホッグオーク?!」
「ちょっと硬いけど、噛めば嚙むほど旨味がでるんだ」
魔物の肉なんて食べたことないや。
でも、少し興味もある。
「では、それにします」
「お、いいね!」
私たちはホッグオークの串肉を買い、近くのベンチに座る。
ゼンデさんはランさんの分も買って、串から外して足元に置いた。
三人で一緒に肉を頬張る。
「美味しいです。歯ごたえがあってジューシーで旨味がしっかりあって」
「よかった。勧めたもののもう少し上品なものにすればいいかと思ってたんだ」
(そりゃそうよ。魔物の肉を進めるなんて女心がわかってないんだから)
「とんでもないです。初めて魔物の肉を食べましたが、思っていたより臭みもなく美味しいです」
(いい子ねぇ。今度おしゃれなスイーツ屋があるから行きましょう)
「スイーツ? 嬉しいです! 楽しみですっ!」
「フィーナ、さっきと反応が全然違うじゃねえか……」
談笑しながら食べる魔物の肉は本当に良い味がした。
ランさんの言うスイーツも楽しみだ。
お肉を食べて腹ごしらえをした後は、冒険者登録をするためにギルドへ行くことにした。
アルカ国は東大陸の中央にある国なので冒険者がたくさん集まってくるらしい。
ゼンデさんに連れられやって来たギルドも、もうすぐ日が暮れようとしている時間ながらもたくさんの冒険者で賑わっている。
たくさんの紙が貼られた木板を見ながらこの依頼は危険だとか、こっちは割に合わないだとか話している人たち。
魔物の角らしいものを持って受付けのお姉さんと交渉している人。
見たことのない空間に入り口の前から動けない。
「登録ならこっちのカウンター」
「あ、はい……」
圧倒されながら、ゼンデさんに付いて行く。
一人だったら絶対になにも出来ずに出て行ってたな……。
「冒険者登録したいんだけど」
「では、こちらにご記入お願いします」
渡された書類に必要事項を書いていく。
名前に、年齢、出生国に……
「役、職?」
「決まっていなければ、希望する役職を書いてくだされば大丈夫ですよ。後で変更もできますし」
「そう、ですか……」
希望と言われても私に何ができるのかわからない。
「剣士とか魔法使いとか弓使い、ヒーラー。なんでも好きなの書いておけばいいんじゃない?」
「好きなものといっても何も……」
きっと魔力的にはヒーラーなんだろうけど、治癒魔法が使えないヒーラーなんて意味がない。
「良かったら適正検査受けてみますか?」
適正検査は一度受けていて、光属性の魔力があることはわかっている。
そのことを伝えると、このギルドの検査機は魔力でなく、総合的に向いている役職を鑑定してくれるというので、受けてみることにした。
受付けのお姉さんが持ってきた透明の水晶に手をかざし、少しの魔力を流し込む。
すると、水晶は白銀色に変わった。
「テイマーの素質がありますね!」
「私が、テイマー」
「おお! やっぱりそうじゃないかと思ったぜ!」
(調子いいこと言わないの)
魔獣と共に行動し、戦うテイマー。
たしかに魔獣は好きだし、彼らの言葉がわかるという点では向いているのかもしれない。
でも、難しいところはテイム契約を結んでくれる魔獣と出会えるかということ。
私、テイマーになれるだろうか。
「というか、もうすでにテイムしている魔獣がいるのでは?」
「「え?!」」
お姉さんの言葉に、私もゼンデさんも声を上げて固まった。