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第33話 穏やかなひと時

「頭の痛みは良くなりましたか?」

(うん。もう大丈夫だよ)


 翌日も保護施設へ行き、魔獣たちの治療の手伝いをすることにした。

 ヘリオス様は忙しいとのことで、今日はいない。


「フィーナさん、ありがとうございます。とても助かります」

「いえ、ここの魔獣たちはみんなフレアさんに感謝していますよ」

「だといいのですが」


 それは本当のことだ。

 魔獣たちから直接聞いたから。


 保護されてきたとはいえ、ずっと酷いことをされてきて、また知らないところに連れてこられて、不安だった。

 それでもフレアさんの優しさが、ここは安心できる場所なのだと思わせてくれたと言っている。


 そのことを伝えると、フレアさんは嬉しそうに笑った。


「フィーナさんが羨ましいです。魔獣の言葉がわかるなんて。それに、フィーナさんの元へならまたドラゴンがやってきてくれるのではないかと思うんです」


 フレアさんの言葉にどきりとして、キュウの方を見る。けれど本人は体を小さくしたまま何食わぬ顔でちょこんと座りこんでいる。

 こう見ると、本当にただの鳥類の魔獣だ。


「この国の人たちは、今でもドラゴンに戻ってきてほしいと思っているのでしょうか?」

「今の人たちはドラゴンがいないことが当たり前になっているのでそこまで強い気持ちはないと思います。ですが、ヘリオス様はずっと、ドラゴンが来てくれることを待ち望んでいます……」


 ヘリオス様は昔のようなドラゴンのいるトラガノ国にしたいと思っている。

 だから初代国王と同じ力を持つ私と結婚しようとしているんだ。

 

 時期国王として、国のことを思っているんだろう。


「フィーナ」


 その時、施設の中にグランディ様が入ってきた。テオも一緒だ。


「グランディ様、お疲れ様です。えっと……お仕事は?」

「先ほどまでここの騎士団の訓練を見学させてもらっていたんだ。今日はヘリオス王子がいないから会議は進まなくてな」


 ヘリオス様がいないと聞いたフレアさんは小さく息を吐き、肩を落とす。

 なんだか悲しげな表情をしている。


「また探しに行かれたのですね……」

「探しにとは、何をでしょう?」

「ドラゴンだよ。アルカ国近くの国境の森で目撃したという情報が入ったそうだ。少し前のことだからもういない可能性が高いが……」


 少し前でアルカ国近くの国境の森って、絶対キュウのことでしょ……。

 スタンピードを止めてくれたときのことだ。

 グランディ様もそれはわかっているだろうけど、何も言わないでいてくれている。


 それにしても、王太子であるヘリオス様が自分で探しに行っているんだ。


「ヘリオス様はご自身がドラゴンをテイムしたいと考えています。だから少しでも情報があれば自ら出向いているのです。未だ見たことすらないそうですが……」

「ヘリオス様は、どうしてそこまで建国当時のトラガノ国にこだわっているのでしょう?」


 初代国王と同じ力を持つ私を妃にしようとしたり、ドラゴンをテイムしようとしていたり。

 トラガノ国は今だってとても豊かな国だ。

 軍事力だってあるし、商業や農業だって栄えている。


「憧れ……だと思います。王族は幼い頃から国の情勢や歴史を学びます。ヘリオス様は人一倍、初代国王が創った当初のトラガノ国に強い思いを抱いていましたから」

「今と昔ではそんなに違っているのでしょうか?」

「人々の暮らしや国の在り方は時代と共に変わってきていると思います。ですが、ヘリオス様がどうしてそこまで昔にこだわっているのかは私にはわかりません……」


 そういったこともヘリオス様に直接聞いてみたいな。

 国境の森でドラゴンはきっと見つからないだろうし、すぐに戻ってくるだろう。


(ねぇねぇ、騎士団ってとってもかっこいいね。僕にもなれるかな?)


 フレアさんに手当てをされている、白狐がテオに話しかけている。

 大きな耳に、まん丸の目の白狐は成獣になっても体は小さく、戦闘などには向いていないけれど、テオは嬉しそうに返事をする。


(もちろんだよ。そうだなぁ、君は耳がいいから諜報部隊とかが向いているかもね!)

(諜報部隊?! なにそれかっこいい!)


 微笑ましいやり取りに、私まで自然と笑顔になる。


(でも、訓練はとっても大変だよ。僕のご主人様はすごく自分に厳しくて、ついていくのに大変なんだ……)


 訓練が終わって獣舎でいつもこぼしていたことだ。

 グランディ様は、有事の際にしっかりと動けるように訓練を決して怠らない。極限まで力を使うのだと。

 どんなに大変な討伐現場よりも、訓練の方が辛いと魔獣たちは言っていた。

 だからこそ、優秀な魔獣騎士団であるのだけれど。


「ふふ、テオ、本音が漏れてるよ」

(あ、言っちゃった……)

「テオ、フィーナの前ではいつもそんなことを言っていたのか?」

(だってご主人様全然疲れなんいんだもん……)


 大きな体で私の後ろに隠れるテオに、呆れたようにため息をつくグランディ様。

 なんだか獣舎にいた頃に戻ったみたい。


 なんてことを思っていると、突然キュウが膝の上に乗ってきた。

 無言ですり寄ってくる姿がかわいい。頭を撫でてあげると満足そうに笑う。


 魔獣たちに囲まれて、何気ないことで笑い合えることが幸せだな、と感じる。

 

「みなさん、とても和気あいあいとされていて一緒にいて私も和やかな気持ちになります」


 フレアさんも白狐を撫でながら楽しそうにしている。

 言葉はわからなくても、彼女には魔獣たちと心を通わせるなにかを持っていると思う。


 そんな穏やかな時間を過ごしていると、一人の騎士がバタバタと慌てた様子で入ってきた。


「フレアさん! 街の工房で火災が発生して火の手が広がり負傷者が多数出ています! 救護出動お願いします!」

「火災?! わかりましたすぐに向かいます。ヘリオス様は?」

「すぐに知らせを送りましたが、まだ探索から戻ってきていません」

「そうですか。とにかく現場へ向かいましょう」


 フレアさんは騎士と共に急いでかけて行く。


「俺たちも行こう、テオ」

(うん!)

「私も行きます」


 私たちも火災現場へと向かった。

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