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第32話 トラガノ国の聖女

 私たちは真っ直ぐ王宮へと帰った。

 そして、連れてきたもらったのは、魔獣たちの保護施設。


 中では、一人の女性が魔獣たちの手当とお世話をしていた。


「あ、ヘリオス様。お疲れ様です」

「フレア、いつもありがとう。彼女はフィーナさん」


 女性は立ち上がり、私に頭を下げる。


「フレアといいます。お話は聞いています。天角鹿を助けていただきありがとうございました」

「いえ、私はできることをしただけですので……」


 フレアさんは穏やかに微笑むと、魔獣の手当てを再開した。

 基本的には自然治癒に任せるしかないので、応急処置程度だ。

 けれども手際の良い適切な処置に、慣れていることがうかがえる。


「フレアさんは、獣医さんなのでしょうか?」

「いや、この国に獣医はいないんです。彼女は普段、聖女として働いてくれているのですが、合間にこうして魔獣たちの手当てもしてくれています」


 聖女様なんだ。

 普段のお仕事も大変だろうに、こうして魔獣たちのために働いている。

 とても優しい方なんだな。


 ヘリオス様は施設内を見渡しながら、小さく息をもらす。


「密猟団が捕まってから保護される魔獣も増えているんです。保有していた魔獣が不正に捕まえられたとわかって申告してくる者もいますしね」

「そうなのですね。一度捕えられた魔獣は、怪我が治っても森へ返せるようになるまでには時間がかかるかもしれません」


 アルカ国で出会った焔虎がそうだった。

 大怪我を負い、人に怯え、森へ帰ることを怖がっていたから。


 ヘリオス様は魔獣たちを見ながら、心配そうに頷いた。


「彼らには、精神的なケアも必要だと思っています」


 難しい問題ではあるけれど、ここに保護されている魔獣ちたちは比較的落ち着いていると感じる。

 きっと、フレアさんのおかげだろう。

 

 様子を見ていると、一人の騎士が施設の中に入ってきた。

 そしてヘリオス様に何かを耳打ちする。

 

「すみません、僕はここで失礼させていただいて良いでしょうか」

「もちろんです。私はもう少しここにいてもかまいませんか?」

「かまいませんよ。お部屋までの道はわかりますか?」

「はい、いろいろと案内していただきありがとうございました」


 ヘリオス様はこちらこそ、と微笑むと騎士と一緒に足早に出て行った。


 私はフレアさんのところへ行き、ゆっくりと横にしゃがんだ。


「私も、お手伝いさせていただいていいですか?」

「え? はい、ありがとうございます」


 手当てをしていた小鋼熊は両足を怪我していた。

 足枷によってできた傷かと思ったけれど、違う。表面が膿んだようなその傷は火傷のようだ。


「この傷はどうされたのですか?」


 小鋼熊にそっと問いかける。


(火の輪をくぐれって言われて、でもできなくて、それで……)


 見世物にされていると聞いていたけど、無理やりそんなこともさせられていたんだ。


「つらかったですね」


 小鋼熊の足にそっと手を触れ、治癒魔法を施した。


(……痛くない)

「もう大丈夫ですからね」

(僕、お父さんお母さんのところへ帰れる?)

「ええ、帰れますよ」


 ホッとしたように表情を和らげる小鋼熊の頭撫でる。


 隣で見ていたフレアさんは驚きながらも、何かに納得するように口を開く。


「やはりフィーナさんはすごいですね。まるで、何千年も前に生きていた初代国王の生き写しのようです」

「そんなことはありませんよ。歴史書を拝見しましたが、初代国王様はとても聡明で、それに武術にも長けていたと。私とは比べようもないほど秀でていたと思います」

「よく勉強されているのですね」


 勉強したというよりも、キュウのことが少しでも分かればいいなと思って調べただけなんだけど……。


「フレアさんも、とても手際のよい手当をされていてすごいです。魔獣たちも安心しているようです」

「手当ては、聖女の仕事でいつもしているので。ですが私にはこの子たちの傷を癒すことはできません。私なんかより、フィーナさんのほうがヘリオス様にふさわしいのです……」


 え……?

 今、私なんか、って言ったよね?

 それって、どういう意味なんだろう。

 

「あの、失礼ですが、フレアさんはもしかしてヘリオス様の……」

「えっ、あ……すみません。私、突然のことだったのでまだ理解が追いついていなくて、変なことを……」

「婚約者、だったのでしょうか?」

「こ、婚約者だなんて大層なものではありません。ただ、この国では聖女の中から妃が選ばれるのです。今、ヘリオス様と同年代の聖女が私しかいないので、候補だったというだけで、フィーナさんのような方がいれば、私が選ばれないのは当たり前のことですから」


 決してそんなことはない。

 フレアさんの方がこの国のことを思い、よく知っているはずだ。

 今までだって、聖女としてたくさん人々に尽くしてきただろう。

 私よりもよっぽど妃にふさわしい。

 

 でも、今私がそんなことを言ってもなんの意味もない。

 

 ヘリオス様とちゃんと話をして、正式に結婚をお断りすれば、またフレアさんが妃候補になるはず。


「滞在中、またここに来てもいいですか?」

「はい、ありがとうございます」


 この国のことをもっとよく知りたい。

 ヘリオス様のことも、フレアさんのことも。

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