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第31話 街の様子

 朝、部屋のドアをノックする音で目が覚めた。

 フカフカのベッドが気持ち良すぎてぐっすり眠ってしまったけど、目が覚めた瞬間、緊張が戻って来る。


「はいっ」


 体を起こし、急いでベッドから降りてワンピースの裾を整える。

 返事をしてすぐに部屋に入ってきたのは、二人の侍女だった。

 

「おはようございますフィーナ様。お召し変えをさせていただきます」

「お召し変え?! えっと……着替えなら自分でできますので」

「ヘリオス様から申し付かっておりますので」


 真っ直ぐに頭を下げる姿に、これが彼女たちの仕事なのだと気付く。

 それに、用意されたドレスを見てふと思った。


 薄いピンク色の綺麗なドレス。スカートのボリュームは控えめだけれど、裾にあしらわれた刺繡が上品で、質の良いものだと一目見てわかる。


 今日はヘリオス様が街を案内してくれる。

 私の持っている服は着古したワンピースだけ。王太子様の横で行動を共にするというのに、そんな姿では不相応すぎる。

 ここは素直にお願いしよう。


 そう伝えると、侍女たちはホッとしたように準備を始めた。


 見るだけでも良いドレスだとわかるけれど、着てみるとその違いをはっきりと感じる。

 柔らかく肌馴染みの良い生地は高級があるのに動きやすいし、ウエストの絞られたAラインの形が着るだけでスタイルを良くみせてくれる。


「こんなに素敵なドレス、私が着ても良いのでしょうか」

「もちろんです。これはヘリオス様がフィーナ様のために選んだのですよ。きっと喜ばれると思います」


 着替えのあとはヘアセットとお化粧までしてもらい、身支度が完了した。

 侍女たちはまた呼びにくると言い、部屋を出ていく。


 お礼を言いながら侍女たちを見送ると、姿見の前に立ち自分の姿を確認する。


「私じゃないみたい……」

(フィーナは元が良いから何しても綺麗だよ)

「え?! そうかな? そんなこと言われたことないけど」

(フィーナの周りの男は奥手が多いからね。まあ僕はそれでいいけど)


 周りの男って誰だろう? 私はずっとキュウと一緒にいるし、そもそも周りに男の人なんていないけどな。

 そんなことを考えていると、キュウはおかしそうにフッと笑った。


 よくわからないけど、褒められたしお礼を言っておこう。


「ありがとねキュウ。そんなふうに褒めてくれるのキュウだけだよ」

(フィーナはずっとそのままでいてね)

「うん? 私は私だよ」


 今は見た目が私じゃないみたいだけどね。

 

 しばらく待っていると、また部屋のドアがノックされた。

 返事をすると、入ってきたのはヘリオス様。

 

 侍女かと思っていたので少し気を抜いていた。

 

 けれどヘリオス様は私を見ると嬉しそうに頬を緩ませ、近づいてくる。


「このドレスを選んでよかったです。可愛らしいあなたにとてもよく似合っている」

「あ、りがとうございます……」


 目線を合わせ、にこりと微笑むヘリオス様にドキッとする。

 改めて近くで見ると本当に綺麗な人だ。


 そして、行きましょう、と優しく私の手を取った。


 建物を出て、すぐに馬車に乗る。

 昨日と同じ馬車で、やはり王族が乗る馬車だったんだと再認識した。


 商店街に入る手前の道で降りると、ヘリオス様は裏通りに入っていく。


 表通りのような露店はないけれど、赴きのあるお店がたくさん並んでいて、それなりに人も多い。


 古びているけれど、しっかりと手入れされた噴水があり、子どもが楽しそうに遊んでいる。


「ヘリオス様~!」

「おはようございまーす」


 子どもたちはへつらうこともなく、元気よく挨拶をする。

 ヘリオス様も笑顔で手を振り返していた。


「ヘリオス様、またお忍びですか?」


 花屋の店先で水撒きをしていた女性が声をかけてくる。


「今日はお客さんを案内してるんだよ」


 ヘリオス様が言うと、女性は私に目を向けてにこりと微笑む。


「まあ、可愛らしいお嬢さん。だったらこんな裏通りじゃなくて賑やかな表通りを案内しなきゃ」

「こっちの方がトラガノのことをよく知ってもらえるからね」


 お互いにくだけた話し方で、よくこうやって街に訪れているということがわかる。

 王太子様だけれど、国の人たちとよく関わっているんだな。


「そうだ、工房の爺さんがまた窯の調子が悪いってぼやいてたみたいだから時間があるとき見にいってあげてね」

「わかった。教えてくれてありがとう」


 ヘリオス様は女性に手を振りまた歩きはじめる。


「立ち止まってしまいすみません」

「いえ。たしかにこちらの通りの方がトラガノ国のことがよくわかりそうですね。ヘリオス様のお人柄も」


 ヘリオス様は良かった、とクスリと笑った。


 それから街を詳しく案内してくれた。

 

 歩くたびにヘリオス様は声をかけられている。

 服飾店では完成したばかりの織物を見せてくれたり、青果店では朝採れたばかりの果物をその場で食べさせてもらったり。

 私も一緒にご馳走になり、とても楽しいひと時だった。

 

 そろそろ王宮に戻りましょうかというヘリオス様の言葉に頷き、今度は表通りに出て道を歩いていく。


 こちらの方がお店も人も多いけれど、話しかけてくる人はだれもいない。

 国外から来ている人たちもいるし、騒ぎにならないようにしているんだろうな。


「もし、行きたいところがあれば言ってくださいね」


 王宮への帰り道を歩いていたが、ヘリオス様は優しく尋ねてくれる。

 行きたいところ……というわけではないけれど、気になっていることがある。


「でしたら、お願いがあるのですが――」



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