表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/35

第29話 突然の求婚

 どうして私が王宮に呼ばれるのだろう。

 まだトラガノに来て二日なのに。

 やらかしたとしたら、さっきの天角鹿のことだろうか。


 治癒魔法を使ったことはバレてないと思ったけれど、そうじゃなかった?

 国が保護した魔獣を勝手に治して申告もしなかったこと、罪に問われたりするのかな?


 ああ、わからない。

 でも、拒否するなんてこともできない。


「わかり、ました……」


 素直に頷き、馬車に乗る。

 キュウは不可解そうにしながら私の肩に乗り、一緒に乗り込んだ。


(心配しないで。もしひどい目に合いそうになったら僕がどうにかするから)

「ありがとう。でも、なるべく大人しくしてようね」


 座席はフカフカの絨毯が敷かれ、振動も少なく乗り心地がとてもいい。

 王族が乗るような特別な馬車なんだろうな。

 それ故に緊張がどんどん増していく。


 王宮に入ると、広大な敷地をそのまま馬車で進み建物の前で降りた。

 案内されるまま付いて行き、ひとつの扉の前で止まった。


「こちらのお部屋でお待ちください」

「はい……」


 燕尾服の男性はすぐどこかへ行ってしまったので、私はおそるおそるドアを開け部屋の中へ入った。


「なに……この部屋」


 そこは客間などではなく、誰かの寝室のようだった。

 天幕の張られた大きなベッドに、アンティーク調のドレッサー。

 バラの刺繡があしらわれた高級そうなカーテンに、キラキラ輝くシャンデリア。


「ねえキュウ、案内する部屋間違ってないかな? 王女様の部屋とかだったらどうしよう。怒られちゃうよ」

(この国に王女はいないよ。王太子だけ)

「あ、そうなんだ……」


 冷静な突っ込みをされるが、この部屋でどうしたらいいかわからない。


 その時、部屋のドアがノックされた。

 部屋主ではないので躊躇したけど、黙っているわけにはいかないと思い小さくはい、と返事をした。


 入ってきたのは、サラサラの銀髪に、エメラルドグリーンの瞳をした美しい男性。


「はじめまして、フィーナ・オルパスさん。僕はヘリオス・ジル・トラガノです」

「トラガノ……って」

(王太子だよ)


 ええ! 王太子様?!

 これ、どういう状況なの?

 

「立ち話もなんですので、どうぞお座りください」


 こちらに、と促され、部屋の中央に置かれたソファーに座った。

 ヘリオス王太子も向かいに座り、私をじっと見つめてはにこりと微笑む。

 

「この部屋、気に入っていただけましたか?」

「気に入る、とは?」

「ここはフィーナさんのために急いで用意させた部屋なんですよ」

「はい……?」


 ちょっと意味がわかりませんけど。

 なんてことは王太子様に向かって言えるわけない。


「エルドラード出身で、光属性の魔力を持ちながらも聖女としての素質を見い出せず、騎士団の獣舎で働く。その後獣舎も解雇となり冒険者として旅をしている……ですよね?」

「どうして、そんなに私のことを知っているのですか?」

「失礼ながら、あなたのことを調べさせてもらいました。必要なことでしたので」

「なぜ、でしょうか?」


 いったい何を言っているの?

 さっきから話の意図がわからない。

 目の前の王子は終始にこにこしていて何を考えているか掴めない。


「フィーナさん、あなた以上にこの国の妃にふさわしい人はいません。どうか、私と結婚してください」

「ええ?! お、おおおお断りしますっ」


 突然の求婚に、勢いよく頭を下げた。


「なぜですか? あなたには何不自由させませんよ」

「逆に、なぜ私と結婚を? 王太子様が私と結婚する理由がわかりません」

「言ったでしょう? あなた以上にこの国の妃にふさわしい人はいないのです。知っていますか? 初代国王は聖女だったのですよ」

「ご存じかと思いますが、私は治癒魔法を使えません」


 調べたと言っていたから、そんなことは知っているだろう。

 そもそも、この国にだって治癒魔法を使える聖女様はいるはず。

 初代国王が聖女だからといって私には関係ない。


「いいえ、あなは治癒魔法を使えます。魔獣にね」

「どうしてそれを……」

「今朝保護されてきた天角鹿のことを騎士から聞きました。頭を撫でるとすぐに大人しくなったと。透視魔法で天角鹿の頭を視てみると治癒魔法が施された痕がありました。あなたがやったのでしょう? 魔獣に治癒魔法を使える人間は初代国王以来です」


 初代国王が聖女というのは、私と同じ魔獣にとっての聖女ということだったのか。

 私の力に気づいたから、結婚相手に選んだんだ。


「ですが、魔獣に治癒魔法が使えるというだけで、私のような教養もない、身分も低い他国の者が妃になるなんておこがましいことです」

「そういう冷静に物事を考えられるところも素敵ですね」

 

 いやいや、普通に考えるとそうだろう。

 まだこの国に来て二日で、いきなり王太子と結婚なんてできるわけない。

 この国に住んでいたって無理な話だ。


「私にはもったいないほどのお話ですが、お断りさせていただきます」


 膝の上で手を重ね、深く頭を下げた。

 王太子からの返事はない。ゆっくりと顔をあげると、変わらずにこにことこちらを見ている。

 そして立ち上がると私の隣に座った。


「今すぐ決めろとはいいません。あなたにはもっとトラガノ国のことを知っていただきたい。もちろん、僕のこともね」

「え……」


 私の手を握り、顔を覗き込むように微笑む。

 ち、近い。それに美しすぎる。


「滞在中、この部屋を使ってください。目一杯おもてなしもさせていただきます。今、晩餐の準備をしているところなんですよ。準備でき次第呼びにきますのでそれまでゆっくりしてくださいね」


 ヘリオス王太子は立ち上がる。


「待ってください王太子様、私、宿をとっていまして」

「その部屋はキャンセルしておきましたのでご心配なく。それと僕のことはヘリオスと呼んでくださいね」


 隙の無い笑みでそう言うと、部屋を出ていった。


「キュ、キュウ、どうしたらいいかな?」

(嫌ならはっきり断ったらいいんじゃない?)

「さっき断ったけど……もっとよく知ってからって言われちゃったし」

(逃げちゃう? 僕とならすぐ遠くへ行けるよ)

「そんなことしたら不敬になるよ」

(真面目だなぁ。だったら“よく知る”しかないでしょ)

「やっぱり、そうなるよね……」


 知るっていっても、いったい何をしたらいいんだろう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ