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第27話 新しい地

 グランディ様とテオは今日の予定はもう終わったため、トラガノの街を散歩していたそうだ。

 協定会議は議決内容がなかなかまとまらず、滞在が長引きそうだとのこと。


「フィーナはいつトラガノに着いたんだ?」

「つい先ほど着いたばかりなんです。これから少し街を歩いて、宿を探そうと思っていました」

「宿か……だったら王宮の近くにいい宿があるから案内しよう」

「本当ですか? ありがとうございます!」


 早めに部屋を取っておいた方がいいということで、先に宿に案内してもらうことになった。


 王都では珍しく、魔獣と一緒に部屋で泊まることの出来る宿らしい。


(親切なふりしてフィーナの泊まる場所を把握しようとしてるでしょ)

(ご主人様はそんな下心なんてないよ。ねえご主人様? 下心なんてないよね?)

「下心?! いや……まあ。そう、だな……」


 下心ってなんだろう。

 それにしてもグランディ様、トラガノのこと詳しいんだな。

 

「グランディ様はトラガノのにはよく来られるのですか?」

「協定国だからな。今回のように会議や合同訓練で訪れることはよくある」

「そうなのですね。私は行くところ全てが初めてなので、とてもドキドキしています」

「よければこの後少し案内しようか」

 

 ありがたい申し出に、私はすぐに頷いた。

 案内してもらった宿へ行き、部屋に荷物を置いてもう一度外へ出る。


「部屋はどうだった?」

「清潔感があって、魔獣用のベッドもあり過ごしやすそうでした」

「それはよかった。ところで、フィーナはどうしてトラガノに?」

「キュウのルーツを探せたらなと思って来たのです」


 今日は街を散策して、明日は王立図書館へ行く予定だ。

 ドラゴンが生息していた時代の歴史書やその生態がまとめられた本がたくさんあるらしい。

 そのことを伝えると、明日迷わず行けるようにと街の案内がてら図書館までの道のりを教えてくれることになった。


 沿道に並ぶお店はトラガノ国特有のものが多くあり、歩いているだけでとても楽しい。


「この綺麗な髪留めはなんでしょう?」

「それはトラガノの特産工芸品の銀細工を使ったものだな」


 繊細な加工が施されたバレッタは、上品で美しい。

 様々な形や模様があり、ひとつとして同じものはない。


「綺麗だな……」


 思わず見入っていた。


「だったら、ひとつ贈らせてくれないか」

「えっ? そんな、グランディ様に買っていただくわけにはいきません」

「フィーナには獣舎で随分とお世話になったのに、ちゃんとお礼を言うことも労いの言葉もかけることもできず後悔していたんだ」


 私は申し訳ないと断ったけれど、グランディ様は自分の後悔を晴らすためだからとなかなか引かない。


「本当にいいのですか?」

「もちろんだ」

「では……ありがとうございます」


 グランディ様はパアッと表情を明るくさせた後、髪留めが並ぶ棚を真剣に見つめる。

 いつもキリッとしていて硬派な印象だったけれど、思っていたより表情豊かな方なんだな。


 意外な一面を見られて嬉しくなりながら、私もどれにしようかとひとつずつゆっくりと見ていく。


「この花とリボンをモチーフにしたものはどうだろう? 可愛らしい雰囲気が良く似合うと思うのだが」

「たしかに、とても可愛らしいですね」


 銀で作られた大きな花が三つ並び、両横にリボンがあしらわれていてとても可愛い。

 でも、私には可愛い過ぎはしないだろうか……。


「フィーナはなにか気に入ったものはあったか?」

「私は……」


 目に留まったひとつのバレッタを指さした。

 鱗を模ったような凹凸のある銀の板にカーブをつけてあり、右上には控えめに小さな赤い石がはめ込まれている。


「これは、ドラゴンをモチーフにしたものだな」

「やっぱりそうなのですね!」


 赤い石がキュウの瞳のようでとても綺麗だ。


「トラガノらしいデザインでいいな。それにしようか」


 グランディ様はバレッタを購入して渡してくれた。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

「こちらこそありがとう」


 いただいたのは私の方なのに、グランディ様は嬉しそうにお礼を言う。


(よかったねぇご主人様。ずっとフィーナになにかプレゼントしたいって言ってたもんね)

「え? それはどういう……」


 テオは微笑ましそうにグランディ様を見ていたが、すぐにしまったというように首をかしげる。


「あー、いや……獣舎に来てくれたことをいつかお礼しないといけないと思っていたから……」

「そんな! こちらこそ、聖女を解雇された私を雇ってくださりありがとうございました」


 お互いお礼を言い合いながら、獣舎でいた頃の話をして図書館の前まで歩いてきた。


 門の奥には大きな銅像があるのが見える。


「あれは初代国王とその使い魔だったドラゴンの銅像だよ。昔は国王がドラゴンをテイムするというのがこの国の習わしだったんだ」

「それだけ、ドラゴンが身近にいる国だったのですね」


 中へは明日ゆっくりと入ることにして、元来た道を戻ることにした。

 

「フィーナ、もし滞在中にまた時間が合えば一緒に出かけないか」

「よろしいのですか? ぜひお願いします」


 エルドラードにいた頃だってこんな風にグランディ様とお出かけすることなんてなかった。

 以前よりも仲が深まったようで嬉しいな。

 

 その時、道をゆっくりと走る一台の馬車が目に入った。

 馬車には檻のような荷台が繋がれており、中には魔獣が乗っている。


「グランディ様、あの馬車に乗った魔獣は……」

「ああ、あれは保護された魔獣だよ。捕らえているわけではないんだ」


 アンジュ王女による密猟事件で不正に売買された魔獣を探しては所有者から保護しているそうだ。

 トラガノ国内でも貴族のコレクターたちが珍しい魔獣を買っていたらしい。

 怪我が治り、精神状態も安定すれば、もといた森へと返す。

 それまでは王宮内の保護施設で療養させているのだ。


「密猟団を捕まえても、それで解決というわけにはいかないんですね……」

「実は元凶がアンジュ王女にあったことで、トラガノはエルドラードに不信感を抱いている。それで協定会議が長引いているんだ……」


 エルドラードの王族であるアンジュ王女が密猟なんてしていれば、国に対する信頼が崩れてしまうのもおかしくはない。

 でも、決してエルドラードという国が密猟を容認していたわけではない。


 会議、上手く進んでくれたらいいな。

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