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第26話 再建

 山の一部は陥没しているけれど、幸い土砂崩れにはなっていなかった。

 ねぐらである湖あたりは、きっと無事だろうと水豹は言う。


 八頭蛇もキュウが燃やし尽くしたため、あとは諸悪の根源をどうにかするだけ……。


「あなたはあの八頭蛇をどうするつもりだったの」


 捕らえられているアーチャーさんは、手を縛られてもなお、気味悪い笑みを浮かべている。


「オラーヴァを世界的な脅威国にするためですよ。軍事力のない我が国は他国から見下されている。農業に秀でているだけは搾取されて終わりなんです」

「魔物を甘く見てはいけないわ! あなたが思っているように都合よくいくはずない!」

「だから私の研究が必要なんです。他の者たちも賛同してくれるはずですよ」


「――そんなわけないだろう!」


 後ろから声がして振り返ると、マルスさんがいた。

 足元には海狸もいる。


「兄さん?! どうして?」

「この海狸がやたら引っ張ってくるからついてきたんだ」


 足元を見ると海狸が得意げに頷いた。


(ずっと感じなかった水豹様の魔力を感じたからみんなここだと思ったんだ!)


 感じたからといってマルスさんをここに連れてくるのがなんだか海狸らしい。

 八頭蛇を倒した後でよかった。


 アーチャーさんの言葉が聞こえていたらしいマルスさんは、厳しい表情で声をあげる。


「オラーヴァは穏やかで豊かなところがいいんだ。軍事国家になんかならなくていい」

「この土地を守って行かなければいけないとあなたも言っていたでしょう」

「それは、この自然豊かな土地を守っていくということだ! 魔物なんかに支配されてたまるか」


 マルスさんは彼を許さないだろう。

 それはきっと他の人たちも同じ。

 あとのことはオラーヴァの人に任せるしかない。


 私たちは山を越え、街に戻った。


 アーチャーさんは自警団に引き渡され、農園組合代表も解任された。

 オラーヴァの神聖な場所を侵したこと、魔物を復活させるという禁忌を犯したことは大きな罪に問われるだろうとのこと。


 けれど、人々に被害が出る前に発見できたことは幸いだった。


 グランディ様たちはこのままエルドラードへと帰るというので、国境付近まで見送ることにした。


「グランディ、テオ、ミリ、来てくれてありがとね」

「一応、任務として手続きしてきたからな。魔物を復活させる方法があったということを国にも報告しておくよ」

(ミラーナ、帰ったら二年分訓練しないといけないわね)

「そうね。久しぶり過ぎて感覚が鈍ってたわ」


 鈍っているなんて全然そんなふうに見えなかった。

 けれど二人はどこか清々しい表情でお互いを見ている。


(やっぱりミリとミラーナさんはいいパートナーだよ)


 テオもすごく嬉しそうだ。


「フィーナ、これからの旅も気を付けて楽しんでくれ」

「グランディ様もお気を付けて」


 グランディ様はやっぱり寂しそうな顔をするけれど、小さく頷くと手を振りテオの背に乗った。

 エルドラードへと戻っていく三人を見送り、私はミラーナさんと家へ戻った。


 魔獣探しの依頼からとんでもないことが起こったけれど、そのおかげでアーチャーさんの企てを早期に発見できてよかったと感謝された。


「ミラーナ、本当にすまなかった」


 帰るとマルスさんが深く頭を下げて謝ってきた。


 お見合いの件は、アーチャーさんに騎士団の妹がいると話をしたことが発端だったらしい。

 ぜひ妹さんと結婚したいといわれ、ミラーナさんの将来を心配していたこともあり、話に乗ったそうだ。


「オラーヴァを軍事国家にするのに私が都合がいいと思ったわけ?」

「そうかもしれない……彼の本質もわからないまま薦めてしまって申し訳ない」


 反省するマルスさんに、ミラーナさんはもう終わったことだからと笑い飛ばした。

 

 後日、崩れてしまった洞窟は農民たちでできるだけ再建することが決まった。

 これからも水豹が守ってくれる水源で、オラーヴァの農業を発展させるために。


(魔蝙蝠を外に出さないようにするのが面倒だったから、こっちの道を壊してくれてありがたいわ)


 洞窟の前で水豹がフッと笑う。

 全てを再建することは難しいため、水豹の話を伝えながら再建計画を立てている。


「魔蝙蝠が洞窟から出てこなかったのは水豹のおかげだったのね」

「オラーヴァの人たちは知らずに守られていたのですね」


 水豹はきっとオラーヴァの人たちが好きなのだろう。

 そうでなければ、黙って魔物から守ったりはしないはず。


(それにしてもあなた、珍しい魔力を持っているのね。助けてくれてありがとう。実はね、あのまま死んでもいいと思ってたのよ)


 自分が死ねば湖の魔力はなくなり、これ以上魔物を再生させることはできなくなる。

 逃げることができない以上、それが一番良いと諦めていたそうだ。


 マルスさんに伝えると、首を横に振り、水豹を優しい目で見つめる。


「水豹様はオラーヴァに必要だよ。これからは与えてもらうだけじゃなくて、俺たちも返していきたいと思ってる」


(そうだよ。水豹様には長生きしてもらわなくちゃ!)


 どこからともなく現れた海狸が嬉しそうに言った。

 なんやかんや彼にはお世話になったな。


「君も、またいつでも家に遊びに来てくれよ」


 マルスさんのお誘いに、やったー! とはしゃぐ海狸はもうすっかり人に慣れたようだ。


「フィーナ、せっかくオラーヴァに来たのに全くゆっくりできなくてごめんなさいね」

「とんでもないです。ミラーナさんも久しぶりのお休み慌ただしかったですね」

「私は明日エルドラードへ帰らないといけないけど、フィーナはどうする?」

「フィーナさんがよかったらこのままうちに滞在しても構わないよ」

「私も次の国へ行こうと思います。マルスさんとミラーナさんには大変お世話になりました」


 思いがけないことがたくさんあったけれど、とても刺激的な日々だった。

 

「またいつでも来てくれよ」

「ありがとうございます。また、いつか必ず来ます」


 そうして私たちは翌日、オラーヴァ国を出国した。


 ◇ ◇ ◇


 私とキュウは国境の森を西に向かって歩いていた。


(フィーナ、次に行くところは決めてるの?)

「うん。トラガノ国に行こうと思うんだけど、どうかな?」

(それってもしかして、僕のため?)

「キュウ、お父さんとお母さんを探してたって言ってたでしょ? なにかわかるかなと思って」


 トラガノ国はかつてドラゴンと共存していたと言われる国だ。

 今はその姿を見ることはないらしいが、何かルーツがわかるかもしれない。

 そう思ったけれど、キュウは浮かない顔をしている。


「だめだった? 行き先変える?」

(だめじゃないよ。僕のこと考えてくれて嬉しいよ。でも、トラガノには何年か前に行ったことあるんだよね)

「そうだったの? なにかわかった?」

(ううん。いろいろあってすぐ出たから両親の手がかりは何もわからなかった。フィーナと一緒ならもう一度行ってもいいかも)


 なにかあるようだったけど、了承を得たのでそのままトラガノ国へと向かうことにした。


 国境の森は各国の間に広がる壮大な森。途切れることなく世界を周回しているため、国境の森からどの国へも行くことができる。

 けれど、壮大な故に向かう国によってはいくつもの山を越えなければいけないし、未知の生き物に遭遇することもある。


「まだまだかかりそうだね」

(僕に乗って飛んでいく?)

「ううん。こうやって歩くのも、野営をするのも醍醐味だと思うの」

(フィーナ、離れている間に頼もしくなったね)

「キュウだったらすぐに着くのに、歩くの遅くてごめんね」

(僕はフィーナといられるだけで満足なんだから歩くスピードなんてなんでもいいんだよ)


 時々遭遇する魔物はキュウがあっという間に倒してくれるし、火を出せるので、野営にも困らない。

 キュウに頼りっぱなしの旅だけれど、自分の足で歩いていくことに充実感を感じていた。


 ――数日後、トラガノ国へと到着した。


 国境門から乗合馬車が出ていたので、入国してすぐに王都の街へと向かう。

 街並みはエルドラードとよく似ているけれど、至る所にドラゴンの銅像があり、トラガノの歴史を感じられる。


「良い街だね」

(まあ、人が住むにはなんでもあるし治安も悪くないし、良い場所かも)


 王都の中央街で馬車を降り、とりあえず街を歩いてみることにした。


 エルドラードと同じ王政国家で、少し先には王宮も見えている。

 貴族も大勢歩いているこの街になんだか懐かしさを感じる。


 そして、向かいには見慣れた人が……


「え……?」


 グランディ様と、テオ?

 私、幻覚でも見てる?

 数日前にオラーヴァで別れたばかりなのに。


(あっ! フィーナだぁ!)


 先に私に気づいたのはテオだった。

 隣にいたグランディ様は目を見開き固まっている。


「フィーナ、どうしてここに?!」

「私は次の目的地をトラガノにしてまして。グランディ様は?」

「俺は軍事協定会議のために数日前から滞在しているんだ」


 合同訓練ではなく会議のため他の団員は来ていないそうだ。

 

(ねえねえご主人様、こんなところで会うなんてフィーナとボクたちは運命で繋がってるんだね!)

「え?! あ、ああ。そうかもしれないな」


 テオの言葉にしどろもどろに返事をするグランディ様。

 よっぽど私がいたことに驚いたんだな。


(なにが運命だよ。フィーナと繋がってるのは僕だけだよ)


 キュウは……なんか、機嫌悪くなったな。

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