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第25話 戦い

 水豹は随分と弱っていて、かろうじて意識があるという状態だ。

 八頭蛇に攻撃すれば、一緒にやられてしまう。

 かといってこの状況でどうやって助ける?


 本当に水豹が亡くなってしまえば、オラーヴァを潤してきた水源はなくなる。

 それが、寿命という自然の摂理ならば納得できるかもしれない。でも、こんな形で失くしてしまうなんて、そんなのだめだ。


 考えているうちに、複数の頭がこちらに向かって迫ってくる。

 思っていたよりも首が長い。


 グランディ様は剣を抜き構える。

 ミラーナさんも懐に忍ばせておいた二本の短剣を抜いた。


 テオとミリもそれぞれ頭をかわしては、首元に噛みつく。


 けれど、切り落としても切り落としても首は再生されていく。


(フィーナ、絶対に僕から離れないでよ)


 キュウの背に守られ、ただ見ていることしかできない。


「これじゃきりがない」

「核もないしどこを狙えばいいの」


 みんなはただ、向かってくる頭を切り落とし続け、体力を消耗しているだけだ。


 核の代わりに、水豹の魔力が使われているとしたら、あの湖の水をどうにかしなければ。

 やっぱり、助けるしかない。


 アーチャーさんは八頭蛇の後ろで涼しげに笑っている。


「キュウ、水豹を助けたい」

(僕もそれがいいと思う。でもどうする? あの魔物を吹き飛ばすことはできるけど、水豹もこの洞窟も全部吹き飛んじゃうかも)


 中途半端に攻撃したところで倒せない。

 でも、弱った状態で逃げることもできず、攻撃を受けてしまっては元も子もない。

 その時、ミリが戦いながら声を上げた。


(私たちが水豹を助け出すわ)


 そう言い黙ってミラーナさんに目を向ける。


 ミラーナさんは一瞬驚いた表情をしたが、黙って頷いた。


 お互いが駆け寄ると、ミラーナさんは左手を差し出す。

 そしてミリはその中指をそっと噛んだ。

 ごくりと喉を鳴らし、毛が逆立っていく。


 これが、テイム契約……。ミラーナさんの血が、身体を巡っているんだ。


 あっという間の出来事だったけれど、二人がお互いの魔力を共有し、高まっていることがわかる。


 ミラーナさんはミリに跨った。

 八頭蛇の頭を避け、切り刻みながら、足元へと駆け込んでいく。


 すごい。


 二人の素早く息の合った動きに目が離せない。

 グランディ様とテオも後方から援助をし、その連携に騎士団の実力の高さを感じる。


 そして、水豹の元へとたどり着いた。


 アーチャーさんが立ちはだかるけれど、ミラーナさんが一蹴しあっけなく吹き飛んだ。


 水豹を抱え、ミリの背に乗せる。


(八頭蛇から毒蛇が湧いてるわ!)

「わかってる!」


 ミラーナさんは水面に蠢く毒蛇に剣を振りかざす。

 けれど、毒蛇も次から次へと湧いて出た。


「先に行って!」

(でもっ)

「早く!」


 ミリは背に乗せた水豹を連れて戻って来た。

 私の前にそっと置くと、あとはお願い、とまたミラーナさんの所へと戻っていく。


 水豹は思っていた以上に弱っていた。

 かろうじて目は開いているが、かなり虚ろだ。


「少し、視させてくださいね」


 返事はないけれど、お腹にそっと触れ透視魔法で体の中を見ていく。

 大きな外傷もないし、内蔵の損傷もない。

 

 怪我を負ったわけではないということは、毒を飲まされた?

 いや違う……魔力が、ほとんどないんだ。


 あんな魔物を復活させるだけの魔力を吸い取られたら、いくら魔獣だって魔力切れを起こす。

 魔力を補充しないと。


 魔力供給のやり方は知っている。聖女としての訓練で習ったことがあるから。

 でも、治癒魔法などと違って、相手に魔力を分け与えるということは自分の魔力が同じだけなくなるということ。

 供給する魔力が少なければ、供給したところで回復は難しい。

 でも、多くを分け与えることで自身が魔力切れを起こすこともある、リスクの高い魔法だ。

 使うときはしっかりと見極めてから使うようにと言われていた。


 特に魔獣は人よりも魔力量は格段に多い。


 大丈夫だろうか。

 私がここで判断を誤ればみんなに迷惑をかけるかもしれない。


 水豹の顔を覗く。

 言葉を発するわけではないけれど、一生懸命何かを訴えかけている瞳だ。


 そうだ。この子だって、こんなことになってひどく悲しんでいるはず。

 

 私は水豹に魔力を込めた。


 全身に、滞りなく、光の魔力を。


 自分の魔力が確実に減っているのがわかる。

 汗が滲んで手が震えてくる。


 ――その時、背中に温かいものを感じた。

 身体を流れる力強い魔力。


「キュウ……?」

(もう、無茶はしない約束でしょ。魔力供給の仕方なんていつ覚えたの。僕知らないよ)


 これは、キュウの魔力なんだ。


 不満そうにしながらも、流れてくる魔力から私のことを思ってくれていることがわかる。


「ありがとう」


 私は魔力供給を続けた。

 水豹は次第に力を取り戻し、体を動かせるようになってきた。

 どれだけ魔力がなくなっても、キュウの魔力が私の体から湧き出るようだった。

 テイムしていると、こんなにも魔力の共有ができるんだ。


(もう、大丈夫よ)


 水豹が起き上がった。

 先ほどまでのぐったりとした様子からは想像もできなかったほど、凛々しい立ち姿だ。

 聞きたいことがたくさんあるけれど、今はこの場をどうにかする方が優先だ。


(じゃあみんな、一気にいくよ)


 キュウは声をかけると、大きく息を吐く。


 湖の水は吹き上がり、八頭蛇は壁面に打ち付けられる。

 洞窟は轟音を立てて崩れていく。

 

 するとすぐに外の光が射し込んできた。

 

 グランディ様は逃げ惑うアーチャーさんを捕らえ抱えると、テオの背に乗る。


 崩れ落ちてくる瓦礫を避けながら大きく羽を広げ、飛び立つように外へ出た。


 ミラーナさんもミリの背に乗り、外へと飛び出す。

 洞窟の中で下っていたのかさほど高いところではなく、すぐに地上に降り立った。

 農園とは反対側の雑木林。


 一緒に吹き飛ばされ、外へ出てきた八頭蛇はまだ動いている。

 湖の水に浸かっていなくても、魔力が残っていれば生きていけるんだ。


 グランディ様とミラーナさんはまた剣を構える。

 けれど、二人の前にキュウが立ちはだかった。


(ここなら手加減しなくていいよね)


 そう言って、口から炎を吹き出した。

 真っ赤に燃え上がる強烈な炎。

 

 八頭蛇は一瞬で燃えちり、灰までもが消え去っていった。


「キュウ、炎も出せたんだ……」


 洞窟の中であの炎を出せば私たちも丸焦げになっていただろう。

 まだまだキュウの力は計り知れないな。


 グランディ様もミラーナさんもしばらくあっけに取られていたけれど、表情を引き締め、アーチャーさんに目を向ける。


「あなたには相応の罰がありますよ」


 水豹も、鋭い目つきで彼を睨んだ。

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