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第2話 探しに行こう

 アンジュ王女に解雇を言い渡されてから、すぐに宿舎に戻って荷物をまとめた。

 あの子たちと離れるのはすごく寂しいけれど、王女様の命令に背くことなんてできない。

 それに、グランディ様も了承していると言っていた。だったらもう私には獣舎にいる資格はない。


 名残惜しさを感じながも王宮を出る。

 これからどこに行こう。

 もう、あの家には帰らないと決めている。


 父の妾の子として生まれた私は、幼い頃に母が亡くなりオルパス家に引き取られたものの、ずっと本妻と姉に蔑まれながら生活してきた。

 ひどい扱いを受けても父は見て見ぬふり。

 だから学園を卒業したら家を出ることを決めていた。


 まさか王宮で働くことになるとは思っていなかったけど。

 でももう、あそこにも私の居場所はない。


 そういえば、キュウは今どうしているだろう。

 あの家でいたころの唯一の私の友達。キュウの隣が私の居場所だった。

 

 父に見つかって、捨ててこないと銃で撃つと言われたから、泣く泣く離れた。

 見つかって殺されないように、どこか遠くへ行きなさいと。


 でも、あの子がいたから私は魔獣が好きになった。

 獣舎で、みんなと幸せな時間を過ごすことができた。


 キュウは元気にしているだろうか。どれくらい大きくなっているだろう。


 ――そうだ、探しに行こう。


 どこにいるかはわからないけれど、時間はたくさんある。

 お給金はほとんど使っていないからしばらく旅をするだけのお金はあるし、なにより私は魔獣たちが好きだ。

 キュウを探して旅をしながらもっといろんな魔獣に出会ってみたい。

 見たことのない魔獣と話をしてみたい。

 

 グランディ様がテイムしていないのに魔獣と会話ができるのは、稀なことだと言っていた。

 だったら私はこの特別な力を使って、好きなことをして生きてみたい。

 大好きな魔獣たちとたくさん出会って、そして私が彼らにできることを見つけたい。


 そうと決まればどこから行こう……。


 そうだ。たしか東隣のアルカ国には珍しい魔獣たちが集まると聞いたことがある。

 アルカ国でしか採れない魔獣の好きな果実があるのだとか。

 キュウは食いしん坊だったし、そこにいる可能性もある。


 私は東へ向かって歩きだした。



 ◇ ◇ ◇


 しばらく歩き、国境の森へとやってきた。

 こんなところまで来るのは初めてだ。


 今まで安全な王都で暮らしてきて、深く考えずに旅をしようなんて出てきてしまったけど、王都から離れれば離れるほど危険だと言われている。

 盗賊や人攫いがいたり、人を襲う魔物や魔獣がいたりもする。

 王都にいるような、人に慣れた魔獣ばかりではないのだ。


 今さら不安になるけれど、立ち止まってはいられない。

 何事もありませんようにと願いながら大きく息を吐き、森の中へ足を進める――。


 けれど、心配していたのが杞憂だったように穏やかな森だ。

 時折そよぐ風が気持ちいい。

 

 なんだか清々しい気分で歩いていると、少し離れたところから唸り声が聞こえてくる。

 人の声ではない。魔獣か、魔物だ。


 どちらもよく似た生き物ではあるけれど、その違いは主に生まれによるものだと言われる。

 魔獣は自然に生息する獣が魔力と知性を持ったもの。

 魔物は魔王の魔力から発生し、繫殖したもの。本能から人や家畜を襲う恐ろしい生き物だ。

 魔王が討伐されてからはその数は随分減ってはきているけれど、まだ殲滅はできていない。


「魔物じゃありませんように」


 そう口にしながら声のする方へ進んでいく。

 怖いなら逃げればいいけれど、苦しそうな唸り声に無視することができなかった。

 木陰からそっと覗くと、そこには二本の立派な角を持つ、黄金の毛並みの天角鹿が横たわっている。大きさからしてまだ子どもだろう。


「よかった。魔獣だ」


 いや、よくはないのか。あの子が獰猛じゃないとは限らない。でも怪我をしている子をあのまま放っておくこともできない。


 私はゆっくりと近づき、天角鹿の目をしっかりと見る。


(だれ?!)

「心配しないで。私はあなたを傷つけたりしないわ」

(言葉がわかるの?)

「ええ。怪我をしてるんでしょ? 大丈夫?」

(足が罠にかかったんだ。必死に抜け出してここまで逃げてきたんだけど、もう動けないんだ)

「そんな、ひどい」


 辛そうにする天角鹿のそばへ行き、足の様子を見る。

 有刺の足枷から抜け出したのだろう。

 何本もの引っ搔き傷から出血している。

 それに、足が歪んでいる。骨も折れているのかもしれない。


「痛いよね。ちょっと待ってね」


 私は鞄から手巾を取り出し怪我をしている足に巻く。

 そしてそっと、優しく、足を撫でる。


 獣舎にいるみんなはこうすると喜んでくれた。

 フィーナの手は温かくて安心すると。


 この子も少しでも痛みが柔らぐようにと同じようにしたけれど……。


(もう痛くない!)

「もう治ったの? それはよかった」


 魔獣の治癒力は人間よりもはるかに高い。

 その都度差はあったけれど、騎士団の魔獣たちも怪我の治りがすごく早いときもあった。


 この子は野生だし、その分治癒力もあるのかな。

 なんにせよ治ってよかった。


(ありがとう!)

「お礼を言われることなんてないよ」


 頬をすり寄せてくる天角鹿の頭を撫でながら、やっぱり可愛いなと顔を緩ませた。


「――今の、治癒魔法を使ったのか?!」


 驚いたような声がして振り返ると、癖のある赤い髪をした、冒険者のような男性が立っていた。

 隣には九尾弧の魔獣もいる。距離感からして彼の使い魔だろうか。とても賢そうだ。

 悪い人ではなさそう。

 

 それよりも、どうして治癒魔法を使ったと思われたのだろう。

 だって私は――


「治癒魔法は使えません」


 いくら訓練しても、どれだけ努力しても、治癒魔法を使うことができなかったのだから。


(治癒魔法を使ってもらったよ。だから治ったんだよ)


 腕の中にいる天角鹿が私の頬を舐めながら、そう言った。


「え?」

(とっても温かい光の魔力だったよ。ありがとう)


 温かい光の魔力……?


「ええ?! 私、治癒魔法を使ったの?!?!」



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