表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/35

第17話 それぞれの道

 状況を理解できずにいたグランディ様にキュウとの関係を説明し、そして勝手に獣舎を出て行ったことを謝罪した。


 これから捕らえた密猟団を連れてエルドラードへ戻り、アンジュ王女のことも報告するそうだ。

 王女といえど、なにかしらの懲罰は免れないだろうとのこと。


「それでだな、フィーナ。キュウに再会するという目的は果たされたようだし……もし、よければ獣舎に戻ってきてはくれないか」


 グランディ様は、もうアンジュ王女が関わることはないため心配することはないと言ってくれている。


「ですが、新しい掃除婦の方がいらっしゃるのでは?」

(その人は獣舎に来てすぐに逃げていったよ)

「そうだったのですね。引き継ぎもなにもせずにご迷惑をおかけしました」


 せめて、新しい掃除婦さんに獣舎での仕事を説明してから出てくればよかったかな。

 今はだれもいないんだ。戻った方がいいのかな?


 獣舎での生活はとても穏やかで楽しいものだった。

 戻ってきて欲しいと言ってもらえることはとてもありがたいことだ。

 

 でも、まだ短い期間だけれど私はエルドラードを出てたくさんの人、魔獣たちと出会った。

 自分の力が魔獣たちの傷を癒せることもわかった。

 これからも、そんな出会いを、たくさんの経験をしていきたい。


 なんて言ったらおこがましいだろうか。

 せっかく戻ってきていいと言われているのに。

 

「フィーナは旅をするって決めたんだぜ」


 グランディ様になんと伝えようか悩んでいると、ゼンデさんがはっきりと言った。

 ゼンデさんは私が旅をしたい理由を知っている。なかなか言い出せない私の代わりに言ってくれたのだろう。でも、ちゃんと自分で言わなければいけなかった。


「俺はフィーナに聞いているんだ。君は口を挟まないでくれ」

「そういうわけにはいかないな。なんだよ掃除婦って。フィーナはそんなことをするような人間じゃないんだぜ。まあ、あんたは知らないんだろうけど」

「なっ! それはわかっている! 掃除婦というのは建前で、言いたいのは、フィーナが必要だということで……」

「回りくどい言い方だなぁ。そんなんだからフィーナは戻るの躊躇してるんじゃねえの」


 なぜか二人の言い合いがどんどん激しくなっていく。


「あ、あの、二人とも、私は掃除婦が嫌だとかそういうわけではなくてですね……」

「わかってるならなんでずっと掃除婦なんてさせて、あげくの果てに追い出されないといけないんだよ」

「それは確かに俺が悪いかもしれないが、致し方なくてだな」


 全然私の話聞いてないよ……。


(さっきから聞いてたら大の男二人がみっともないなぁ)

(こればっかりはボクにも言い訳できないよ。フィーナを守ってあげられなかったから)

(ゼンデはもっとスマートに事を運ぶべきね)


 キュウ、テオ、ランさんが呆れたように二人を傍観している。


 グランディ様が私を必要としてくれていることも、ゼンデさんが私の気持ちを尊重してくれていることもわかっている。

 だからこそ、二人に強く言えない自分がいる。


 そんな様子を見かねてか、キュウが大きくため息を吐くように二人に向かって突風を吹かせた。

 白象を止めた時よりは弱いけれど、屈強な騎士と冒険者がよろめくほどの強さはある。


 風の強さに呼吸もままならいようで、二人は言い合いを止めた。


 (そもそもさぁ、A級テイマーの騎士と冒険者が揃っておいてフィーナをこんな危ない目に合わせるなんてほんと情けないよね。きみたちだってA級魔獣のくせになにしてるんだよ。こんなことならもっと早くにフィーナのところに帰ってくればよかった。もしフィーナに何かあった後だったら僕も正気ではいられなかったなぁ。この森も、近くの街も全部吹き飛ばしてたかもしれないよ)


 なんと言っているかはわからないはずなのに、グランディ様とゼンデさんはバツが悪そうに苦笑する。

 テオとランさんはあからさまにシュンとしていた。


「あの、みなさんのせいではありませんので! 私の危機管理能力が低いといいますか、考えが至らないばっかりにご迷惑をおかけしてしまってすみません」

「いや、フィーナのせいではない。アンジュ王女の行動が怪しいことはわかっていた。こんなことになる前に事前に回避できたことなんだ」

「アルカとエルドラードがもっと情報共有して協力していれば密猟団をもっと早くに捕まえることができていたかもしれない。フィーナ、ごめんな」

「いえ、無事に捕まえることができてよかったです。それと……」


 私はグランディ様の方を向き、しっかりと目を見る。

 

「獣舎で雇っていただけたこと、とても感謝しています。騎士のみなさんにも、魔獣のみんなにもとても良くしていただき、私は幸せでした。でも、これからは自分の足でいろいろな場所へ行き、たくさんの人や魔獣たちと出会ってみたいと思うんです」


 獣舎を出た時に決めたこと。

 そして、自分の足で歩いてみたから気付けたことがある。


(フィーナがいないのは寂しいけど、ボクはフィーナのこと応援するよ)

(あら、主人より使い魔の方が物分かりがいいのね)

(そうだよ。ボクはフィーナのことを一番に考えてるからね)

(ちょっと、フィーナのことを一番愛してるのは僕だから)


 使い魔たちはなんやかんや打ち解けてきているみたいだ。

 

「もし、困ったことがあったらいつでも頼ってくれ。何かあれば戻ってきてくれて構わないから」

「ありがとうございます。いつかエルドラードに戻ったときにはみなさんに会いに行っても良いですか?」

「もちろんだ。待ってる」


 グランディ様は寂しそうにしながらも頷いてくれた。


「フィーナはこれからどこに行くんだ?」

「次はオラーヴァ国に行こうかと思っています」

「オラーヴァか。あそこは山や自然が多いから魔獣もたくさんいるだろうな」

「ゼンデさんはどうされるのですか?」

「とりあえず、アルカに戻って次の任務に向かうかな」

「そうですか。気を付けて行ってくださいね」


 密猟団を捕まえてまたすぐに任務をこなすんだ。冒険者ってすごいな。

 そうだ、私も冒険者なんだった。しかも、不本意ながらS級のテイマーだ。


「私も、向かう先々でなにかできそうな任務があればやってみたいです」

「それはいいと思うが、無茶はするなよ」

「大丈夫です。これからはキュウもいますし」

(フィーナのことはどんなことがあっても守るから心配しなくていいよ)


 そして、私たちはそれぞれの国へ向かって歩き出した。


 ◇ ◇ ◇


 数日後、オラーヴァ国へと到着した。

 冒険者証を見せ、スムーズに入国する。


 山に囲まれながらも、栄えた街を歩いていく。


 キュウには普段は小さい姿でいてもらうことにした。

 ドラゴンなんて、一生かけて探しても出会えないことの方が多い珍しい魔獣だ。

 それだけ個体数が少なく、それでいてその力は想像もできないほど強靭である。

 その気になれば本当に街ひとつを吹き飛ばしてしまうほどの力があるだろうとグランディ様が言っていた。


 そんなドラゴンをテイムしているとバレたら面倒なことになるかもしれない。

 だから、小さな鳥獣として振る舞ってもらっている。


 露店には、農産物がたくさん並んでいた。

 人々はとても穏やかで、農夫や商人が多いように感じる。


 貴族の多いエルドラード国とも、冒険者の多いアルカ国とも違った賑わいがある。


 美味しそうなものがたくさん並んでいるけれど、まずは泊まるところを探さないとな。

 

 宿を探しながらしばらく街を歩いていると、どこからか聞き覚えのある声がした。


「――フィーナ! フィーナァ~!」

「え? きゃっ」


 すると後ろから突然抱きしめられた。

 ふわりと香るフレグランスの良い匂い。


 私はこの匂いを知っている。


「会いたかったー!」

「どうしてここにいらっしゃるのですか?!」


 私を後ろから抱きしめたまま体を揺らし歓喜の声をあげるのは、騎士団の制服を纏っていないミラーナさんだった。





 数ある作品の中、いつも本作品をお読みいただきありがとうございます。


 本話でアルカ国編が完結となりました。

 引き続きオラーヴァ国編が始まります。

 チラチラと出てきていた副団長のミラーナと共に物語が進んでいきます。

 

 コメント、ブックマーク、評価を頂けると嬉しいです!


 どうぞよろしくお願いします!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ