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第16話 感動の再会

「こいつが……キュウなのか?!」

「フィーナ、このドラゴンはいったい……」


 追いかけてきたゼンデさんとグランディ様はひどく驚いているが、一番驚いているのは私だ。

 あんなに可愛らしくて、泣き虫だったキュウがドラゴンだったなんて。


(きみたち、この先に行ってはだめだよ)


 上空からキュウが諭すように告げる。


 白象たちはハッとしたように頭を下げて、踵を返し始める。


 その背を見送っていると、群れの足元からトコトコとこちらに向かってくる子どもの白象。

 さっき怪我を治した子だ。


(さっきはありがとう。こんなことになってごめんなさい。みんな怒っていて、止めることができなかったんだ)

「いえ、大事にならなくてよかったです」

(お姉さん、またね)

「気を付けて帰ってくださいね」


 白象は群れに戻り、一緒に森の奥へと帰っていった。


 これで、一安心だ。


 もう無理だと諦めかけたけれど、ここで食い止めることができてよかった。

 私があのまま逃げていればきっと街まで向かっていっていただろう。


 いや、私が止めようとしたところでどうにもできないのは目に見えていた。


 これも全部、あの子のおかげ。


 私は頭上にいるキュウを見上げ、両手を広げる。


「キュウ!」


(フィーナぁ~! 会いたかった! すっごく心配した!)


 大きな体が優しく私を包み込む。

 頬をすり寄せ、鼻で髪をかき分けるように頭を撫でてくる仕草はあの頃と変わっていない。


「私も会いたかった。でも、どうしてここに?」

(本当は、呼んでくれるまでは会いに来ないつもりだったんだ。でも、フィーナが危ない目に合ってると感じて飛んできたんだよ)

「私の居場所がわかっていたの?」

(もちろん。だってフィーナは僕の最愛の契約者だからね)


 そうだ。私はキュウとテイム契約をしているんだ。

 知らずに結んでいた契約。


「キュウ、ずっと気づかなくてごめんね。助けてくれて本当にありがとう。来てくれて嬉しかった。契約は、もう解消しよう」

(どうして? フィーナは僕が使い魔だと嫌? 僕のこと嫌い?)

「そんなことないよ。でも、いつまでも契約したままだとキュウは自由になれないから」

(ねえ、あの時の約束覚えてる?)

「約束?」

(離れててもずっと一緒だよって。僕にはこの先も一生フィーナだけだよって)


 父にキュウのことがバレて離れるとき、泣いている私をたくさん慰めてくれた。

 私のせいじゃない。距離は離れていても、心は近くにいるよと。

 落ち込む私を励ますために言ってくれているのだと思っていた。


(謝るのは僕のほうだよ)

「どうしてキュウが謝るの?」

(勝手に契約を結んでごめんなさい。フィーナのことが大好きで、心配だったんだ。だから、指を怪我したときに血を舐めたんだよ)

「そうだったのね。でもまさかキュウがドラゴンだなんて思わなかったよ。一緒にいた六年間、全然大きくならなかったよね?」

(それは、フィーナを驚かせたくなかったからだよ!)


 キュウはそう言うと体に風を纏い、ボンッと小さくなった。

 産毛はもうないけれど、小さく可愛らしい羽と牙、私の知っているキュウだ。


「体の大きさを変えることができるの?!」


「これは魔獣が使える高等魔法だな。魔力を圧縮したり伸張することで体の大きさを変えることができるんだ」


 驚いていると、グランディ様が教えてくれた。


「そんなことができるんだ。キュウはすごいね」

(ずっと、フィーナに会いたかったよ。でも、僕が近くにいることで迷惑をかけるならそばにいない方がいいと思ったんだ)

「私ね、あの家を出たの。それからいろんなことがあって、旅に出ることにしたんだ。旅のひとつの目的はキュウと会うことだったの。だからまた会えてすごく嬉しいよ。あの時、キュウを守れずに離れることを選んでしまった私を許してくれる?」

(許すもなにも、怒ってなんかいないよ。僕はフィーナのためならどんなことも受け入れられるんだから)


 テイム契約を結んでいるとわかったとき、会いに来てくれないのは私のことを嫌いになったからだと思ってしまった。

 でも、逆だったんだ。

 キュウはこんなにも私のことを思ってくれていた。

 

「今までどこにいたの?」

(いろんなところに行ったよ。お父さんとお母さんを探してたんだ。まだ会えてないけどね)

「そうだったんだね。また探しに行かなくていいの?」

(うん。フィーナと居られるならその方がいいんだ。フィーナのことが大好きだから)

「ありがとう。私もキュウのこと大好きだよ」

(フィーナ、また一緒にいてくれる?)

「もちろんだよ。これからよろしくね」

(ありがとう! もうずっとずっと離れないからね)


 小さくなったキュウはさっきよりも激しく、それでいて愛情たっぷりに私の頬にキスをする。

 懐かしいこの感覚に、ぎゅっと抱きしめ返した。


「感動の再会だなぁ」

(本当、良かったわね)

「俺は今もあまり状況が掴めていないんだが……」

(それにしてもさ、ちょっとくっつき過ぎじゃない? ボクだってフィーナと再会のハグしたいんだけど)

 

 テオが私に近づこうとすると、キュウはボンッと体を大きくして、私を隠すように羽で包み込む。

 羽で視界が遮られ表情はわからないけれど、小さく喉をならして威嚇しているみたい。


(だめだよ。フィーナは僕だけのものなんだから)

(薄々わかってたけど、きみ、けっこう嫉妬深いんだ)

(当たり前でしょ。フィーナはだれにも渡さないよ)


 包まれている力が強くなる。

 みんなは、独占欲を露わにする強靭な姿のドラゴンを前に唖然としているみたいだ。


 キュウって、こんな性格だったかな?

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