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第14話 逃げて

 気が付くと、目隠しをされたまま寝かされていた。

 ガタガタと車輪の揺れが響いてくる感覚がある。きっとここは馬車の中だ。

 どこに向かっているんだろう。


 目が覚めたとバレたらどうなるか分からない。

 幸い顔は隠れているし、そのまま気を失った振りを続ける。


 そばには、私を襲った男ともう一人いるみたいだ。


「――この女、魔獣に治癒魔法を使えるって話だぜ。アルカで噂になってる」

「でも王女には殺せって言われてるんだろ? 逆らうと後で面倒だ」


 王女に殺せって言われた? なんの、話をしているんだろう。


「傷だらけより綺麗な状態の魔獣の方が高く売れるんだ。この女に治させたらいいんじゃないか」

「まあ、それも一理あるな。王女には適当に死んだって言っときゃいいし」

「あいつらが捕まっちまったからな。俺たちだけでやってくには今まで以上に手荒くするしかねえ」


 話の内容から、私を攫っているのは密猟団の人たちだとわかった。

 

 そして……私を殺せと言ったのは、もしかしてアンジュ王女?

 王女と密猟団が繋がっている? どういうことなんだろう。


「それより、どうやって言うことを聞かせる?」

「俺にいい考えがあるんだ」


 いい考えってなに? なにをされるの?

 今すぐここから逃げ出したい。でも、下手に動くこともできない。


 声を漏らしそうになるのを堪えながら、じっとしていると、馬車が止まった。

 そして顔を覆っていた布を外される。


「おい起きろ。降りるぞ」


 体を揺さぶられ、今目が覚めたようにふるまう。

 目を開けると、腕を掴まれ引きずられるように馬車から降りた。

 

 すぐ目の前には、小屋のような建物がある。

 辺りは木々が生い茂るだけの、深い森だ。


 随分と走っていたように思うけれど、どこの森なんだろう。

 

「こっちに来い」


 そのまま小屋へ連れていかれ、中に入った瞬間、ドンッと押された。


「そいつの傷を治せ」

「え……?」


 小屋の隅には、足を怪我し、震えている白象の子どもがいた。


 白象の子は群れの中で大事に守り育てられるため、滅多に見ることはできない。その分、高く売れるのかもしれない。怪我のない状態ならなおさら。


 この子の怪我は治してあげたい。でも、それからどうなる?

 売られるのか、見世物にされて商売の道具になるのか。

 どちらにしても許せない。


 群れに返してあげないと。

 幸い大きな怪我ではない。今ここで怪我を治してしまうよりタイミングを見て、逃げてからの方がいい。


 どうやって逃げる?

 今回は協力してくれる魔獣もいない。

 私一人では無力でしかない……。


「おい、何やってんだ。早く治せよ」

「できません……」

「ああ?!」

「この子を群れに返してあげてください」

「自分の状況がわかってないみたいだなあ!」


 立ち尽くしていた私は背中を強く蹴られる。


「痛いっ」


 為す術もなくその場に倒れ込んだ。


「返してもいいぜ? でもこの白象をこのまま群れに返したらどうなると思う?」


 このまま、群れに返す?


 きっと今ごろ親たちはこの子がいなくなって気が立っているはず。

 そのうえ怪我をしていたら? それが人間のせいだとわかったら?


 白象たちは、荒れ狂い、暴動を起こすかもしれない。

 そうなってしまえば、もう止めることはできないだろう。

 人里に向かっていけば大変なことになる。


 どうしたらいい? 彼らの言うことを聞く?

 

「この子を治したとして、どうするんですか?」

「その後のことはお前には関係ないだろ」

「この子を治せば私は帰れるのですか?」

「はは、そんなわけないだろう。お前はずっと俺たちの言うことを聞いてもらう。できなければ命はないと思え」


 どのみち、私が解放されることはないんだ。

 だったら今はこの子だけでも助けなければ。

 一か八かでやってみるしかない。


「わかりました。この子を治します。ですが、狭く薄暗いこの小屋では魔力を上手く扱えずできません。外に出てやらせてください」


 チッ、という舌打ちの音が聞こえたが、男は私と白象の子を外へと出した。


 白象に駆け寄り、そっと抱きよせる。

 男たちは両横に立ち、早くしろと言わんばかりにじっとこちらを見ている。


 私は白象の耳元で小さく呟く。


「怖い思いをしましたね。私が今から足を治しますので、治ったらすぐに逃げてください」

(逃げて、いいの?)

「もちろんです。群れのいる場所はわかりますか?」

(うん。少し遠いけど、みんなの声が聞こえるから)


 さすが聴力に長ける白象だ。

 私がなんとか男たちを足止めすればきっと逃げられる。


 手のひらに魔力を蔓延らせ、怪我をしてる足に治癒魔法を施していく。

 少しすると、傷は綺麗に治った。

 けれどもそのまま手をかざし続ける。


「私が合図したら、行ってください」

(うん。わかったよ)


 男たちから白象を隠すように体制を変え、すぐに駈け出せるように立ち上がらせる。

 そして、待ちくたびれている男たちがよそ見をした瞬間――


「行って!」


 白象の背中を押した。


「おいっ!」

「何やってんだっ」


 私はしゃがんだまま、追いかけようとする男の足を蹴り、掴み、行く手を阻む。


「お前ぇ!」


 上手くいった。

 白象は逃げ去り、姿はもう見えない。これで、群れに帰れるはず。


 男たちは見えなくなった白象を追いかけることはせず、私に怒りを向ける。

 

 髪を掴まれ、拳が降りかかろうとしたそのとき――バサバサと大きな翼の羽ばたく音が聞こえた。


「フィーナを離せ!」


(フィーナ! 遅くなってごめん!)


 声がして見上げると、そこにはテオと、その背に乗ったグランディ様がいた。

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