第12話 フィーナの功績
拘束した密猟団は、冒険者たちに連れていかれた。
森で声をかけた魔獣の一匹が、ギルドへ人を呼びに行ってくれていたようだ。
私がお願いしなくても、そんなことまでしてくれるなんて本当にここの魔獣たちは人に慣れているしとても賢い。
絶対に捕まえると息巻いてきたのに拍子抜けしたと言われたけれど、私自身こんなことになるとは思っていなかった。
これが密猟団全員ではないだろうけど、三人捕まえただけでも大きな転機になるだろうとのこと。
私は協力してくれた魔獣たちにお礼を言い、街へ戻ってきた。
「――けどなフィーナ、無茶はするなって言っただろう?」
「魔獣たちが頑張ってくれただけで、私は大したことはしていませんし……」
(何言ってるの。あやしい奴らがいたらすぐに逃げないと!)
「はい。すみません……」
そして今、ゼンデさんとランさんに怒られている。
たしかに今回は魔獣たちのおかげで上手くいったけれど、その前に私が見つかっていればきっと危ない目に合っていた。
でも、後悔はしていない。
「なんにせよ、無事でよかった。密猟団を三人も捕まえるなんてほんとすごいぜ」
「それこそ、気付けば倒れていて、私は倒れた人をロープで縛っただけなんです」
(何がすごいって、魔獣たちがフィーナのいうことを素直に聞いたってことよ。いくら人慣れしてるとはいえ、野生の魔獣たちがあんなに従順になるなんてあり得ないことよ)
そうだったんだ。
みんな、よく話を聞いてくれて、協力してくれて、良い子たちばっかりだなと思っていた。
「やっぱりフィーナは魔獣たちにとって特別なんだな!」
そして私たちは診療所へと行くことにした。
今回捕まえた三人と、焔虎を襲った密猟団についてもう少し話をするために。
中へ入ると、モリー先生が診察をしているところだった。
小さな角兎が耳を怪我しているようで、横には心配そうに見つめる女の子がいる。
「私が、ちゃんと見ていなかったせいで、耳を木檻の切れ目に引っ掛けてしまったんです……」
今にも泣き出しそうな女の子に、痛みを堪える角兎。
角兎は心配しないでと言っているが、女の子はわかっていないようだった。
この子がテイムしている魔獣ではないんだ。
角兎は体が小さいし、この子はもう若くはない。他の魔獣に比べて治癒力も低いだろう。
「私に治させてもらえませんか?」
「それはいいが……」
モリー先生が耳を消毒してくれていたので、そのまま治癒魔法を施す。
裂創が入っていた耳はあっという間に元通りになった。
女の子は、ぱあっと表情が明るくなり、角兎を抱き上げる。
「お姉さん、ありがとうございます!」
(あなた、こんなことができるの。すごいわねぇ)
「お大事にしてくださいね」
女の子と角兎は仲良く帰っていった。
「あの角兎は女の子のおばあさんの使い魔だったんじゃ。おばあさんが亡くなってからはあの子が面倒をみててのぉ」
テイム者が亡くなれば、契約は解消される。その後どうするかは魔獣次第だ。
テイムしているわけではないけど、ずっと家族としてそばで過ごしてきたんだろうな。
あの女の子と角兎の関係がすごく尊いものに感じる。
難しいことだとはわかっているけれど、全ての人たちが魔獣とこういう関係を築ければいいのに。
「そういやさ、焔虎を襲った密猟団について聞きたいんだけど」
ゼンデさんが、すっかり診療所に馴染んでいる焔虎に声をかける。密猟団を三人捕まえたことに喜びながらも、焔虎は苦い表情をする。
(声をかけてきたのは一人だったけど、その後周りには五人以上はいたと思う。意識がはっきりしなくてよく覚えていないんだけど)
やっぱり、密猟団はまだ何人か残っているみたいだ。
焔虎は魔獣の中でも体が大きい。個体数が少ないため希少価値もある。
大勢で捕獲しようとしていたんだろう。
それでもなんとか逃げ切った焔虎はすごいな。
(僕も、何かできることないかな?)
「え?」
(足はもうすっかり治ったし、僕も力になりたい。こう見えてけっこう強いんだよ。この前は油断しちゃったけど、次は大丈夫!)
(だそうよ、ゼンデどうする?)
ランさんが伝えると、ゼンデさんは嬉しそうに焔虎の頭を撫でた。
「そうか! それは頼もしいな! ありがとう」
――その後、捕まった三人から情報を聞き出し、一気に攻め入ることが決まった。
強力な仲間も増えたし、きっともうすぐ密猟団は殲滅する。
そう、思っていた。
◇ ◇ ◇
数日後、私は一人ギルドへとやってきた。
受付けのお姉さんは私を見ると、にこやかに手招きする。
「フィーナさん、お待ちしていました。こちらがお伝えしていた報奨金です」
「こ、こんなに……」
渡された麻袋の中には、金貨が数十枚入っている。
先日の密猟団捕縛は私の功績ということになり、報奨金が支払われることになった。
けれど、まさかこんなにもらえるとは思っていなかった。
「後からかけつけた冒険者の方たちが噂していましたよ。あんなテイマーは見たことないって」
たしかにあの場だけ見ると、たくさんの魔獣を従えたテイマーに見えたかもしれない。
でも、森にいた魔獣たちをテイムしているわけじゃないんだよな。
なんにせよ、あの子たちのおかげで旅の資金が増えた。
ここを出る前にお礼を言いに会いにいかないと。
私は金貨の入った袋を鞄に入れ、ギルドを出た。
今日は街で何か美味しいものを食べてから宿に帰ろうかな。
そう思いながら歩いていると、突然後ろから鞄を掴まれる。
えっ?! 強盗?! 鞄にはたくさんの金貨が入っている。
私は鞄をぎゅっと握り締め振り返った。けれど、相手の顔を確認できないまま、路地裏へ引きずり込まれる。
「やめてください! 離してっ」
「うるさい! 大人しくしろ」
抵抗も虚しく、押さえつけられ、腕を拘束さる。
大きな布で顔を覆われ、そして次の瞬間、頭に鈍い衝撃が走った――。