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第10話 秘密にしていた理由

 目を覚ますと、視界には見慣れない天井があった。


 窓からは朝日が差し込んでいる。


 ここ、どこだろう。

 宿の部屋でもない。


 そうだ私、お店で倒れたんだ。


 急いで起き上がろうとしたけれど、まだ少し身体が重い。

 一度身体を横に向け、ゆっくりと起き上がる。


 あ……


 起き上がった視線の先にいたのは、部屋の隅に置かれた小さな椅子に腕を組んで座ったまま眠っているゼンデさん。

 その足元にはランさんが身体を丸めて眠っていた。


 二人とも、倒れてからずっと付いていてくれてたのかな。

 横にもならずにあんな所で……。申し訳ないことしたな。


 私は足を着き立ちあがろうとすると――ランさんがばっと目を覚ました。それにつられてか、ゼンデさんも目を覚ます。


(まだ起きちゃだめよ!)

「そうだ、まだ寝ておけ」

「二人とも、ご迷惑をおかけしてすみません」


 ベッドに腰掛けた状態で頭を下げる。

 するとランさんがベッドに飛び乗り、そっと抱きしめてくれた。


(形成魔法でたくさん魔力を消費していたのに、お店でまた治癒魔法を使って倒れたのよ。私が止めておけばよかったわ。ごめんなさいね)

「そんな! ランさんのせいではありません。私が自分の力を把握できていなかったのが原因です」

「なんにせよ、もう無茶はするなよ」


 ここはギルド内の仮眠室らしい。

 お店で倒れた私は魔力切れだとわかっていたので、ランさんがここに運んでくれたそうだ。

 病院に行くよりも、ギルドの方が魔力回復のポーションがたくさんあるからと。


「私、どれくらい眠っていたのでしょうか?」

「だいたい丸一日だな」

「そんなに……」

(でも、普通人が魔力切れを起こすとポーションを飲ませても三日は眠っているわ。フィーナの回復力はすごいわよ)


 魔力切れで気を失うなんてことは、よほどのこがない限り起こらない。

 みんなそれだけ気をつけて魔法を使っているし、ちゃんと訓練している。

 私もこれから上手く魔力をコントロールできるようにならないと。


 その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 ゼンデさんがはい、と返事をするとギルドの受付けのお姉さんが入ってきた。


「失礼します。あ、フィーナさん目が覚めたのですね。良かったです。ちょうど今、フィーナさんに会いたいという方が来ているのですが」

「私に会いたい人?」


 誰だろうと思いながら拒否する理由もないので、仮眠室を出てギルドのロビーへと向かった。

 相変わらず冒険者で賑わう中、カウンターの前でそわそわしながら立っていたのは昨日のお店にいた女性だった。魔獣も一緒にいる。


「フィーナさん! 良かった。今日、アルカを出立する予定だったのでどうしてもお礼が言いたかったんです」

(フィーナさん、本当にありがとう。無理をさせてしまったみたいでごめんなさい)

「いいんですよ。元気になってよかったです」


 昨日倒れた後、二人も一緒にギルドまで運んでくれたそうだ。

 良かれと思ってしたことだったけど、逆に迷惑をかけてしまったみたい。


 これから出発するようなので、お別れの挨拶をしていると、周りが私たちを見ていることに気付く。


「昨日魔獣に治癒魔法を使ってた人だよ」

「本当に? 魔獣に治癒魔法なんて聞いたことないよ」

「うちの子の怪我も治してくれないかな」

「声かけてみる?」


 昨日お店に居た人もいるようで、私のことが噂になっている。

 

「フィーナさんすみません、騒ぎになっているみたいで……」

「いえ。それよりもお時間大丈夫ですか?」

「あ、そろそろいかないと。本当にありがとうございました」


 私は二人をギルドの外まで見送る。

 そして中へ戻ろうとした時、一人の冒険者の男性に声をかけられた。


「魔獣に治癒魔法を使えるって本当なのか?」

「えっ……と」

「俺の使い魔が足を怪我しててさ、治してくれない?」

「怪我、ですか。それでは――」


 怪我をしたという魔獣の様子を聞こうとした時、後ろから手を掴まれた。


「フィーナ、行こう」

「ゼンデさん……?」


 手を繋いだまますたすたと歩いて行く。

 なんだか少し怒っているみたいだ。


「さっきの冒険者、テイマーじゃないから」

「え? そうなんですか?」

「たぶん、他のテイマーの魔獣の怪我をフィーナに治させてお金を取るつもりだったんだ。ギルドでちらっとそんな話してた」

「そんな……」


 私はただ純粋に、怪我をした魔獣の役に立ちたいと思っていた。

 まさかお金儲けのために使われようとするなんて。


「フィーナはさ、優しすぎるんだよ。世の中には悪いことを企むやつだっているんだ」

「そこまで、考えていませんでした」

「それに、魔力切れで倒れたばっかりだろ。無茶はするなって言ったじゃないか」

「すみません……」


 また、迷惑をかけてしまうところだった。

 ちゃんとコントロールできるようにしようって決めたばっかりなのに。

 不用意な行動は取らないようにしないと。

 

「ごめん、責めてるわけじゃないんだ。フィーナのことが心配なだけで」

「いえ、心配していただきありがとうございます」

(魔獣に治癒魔法を使えるなんて今まで聞いたことがないわ。きっとこれからフィーナを頼りたいという人たちが大勢出てくると思うの。でも、一番大事なのはフィーナ自身なんだからね)


 もしかすると、獣舎の子たちは私のことを思って治癒魔法のことを秘密にしていたのかもしれない。

 私自身が力に気付けば怪我をした子たちのために目一杯力を使ってしまう。

 周りにバレてしまえば今回のように良くないことを考える人に狙われるかもしれない。

 だから言わなかった。


 私は、あの子たちに守られていたんだ。

 私ばかり、大切にされていた。


 また、みんなに会いたいな。

 いつかエルドラードに帰ったら、たくさんありがとうって伝えよう。


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