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幸せな結婚

クレメスくんは牢屋番に鍵を開けるように言ったが、私は断った。喉も渇いていたが、水を出されても自分で飲むのも辛い。だからクレメスくんには最後の力を振り絞って応えてあげた。


「ぐだぐだ言い訳をしないで早く連れてきなさい!!」


「はい!!」


クレメスくんは、三名の男女を連れてきた。


いちばん年老いた人が鉄格子の前で見事な土下座をした。こんな見事な土下座は『なんてら直樹』の倍返し以来だ。


「大変申し訳ありませんでした。私はセタイト王国の宰相をしているハザロス・ナディモクと申します。大恩人に対してこのような仕打ちをしたこと平にご容赦ください。あなた様に関係した者全員の首を所望されるようでしたら、並びきれる数ではありまんが、親衛隊隊長以下文官から門番に至る全ての首を今すぐ()ね飛ばしてここに並べます」


ああ、いい人だ。別に土下座が見たい訳ではないが、冷静になったら、ちょっと言い過ぎたかも。


「頭を上げてください。もう怒っていませんというのは嘘ですが、人の生首が見たいわけではありません。この国の法律に従って適正に処理して頂ければ結構です」


「ああ、それはよかった。もし首を所望されていたら、関係者とその親族まで含め数百名の首を刎ねなければいけなかった」



後ろの男女二人もほっとしたようだ。


中年の男性が私の前で土下座はしないが、頭を下げられた。

気品のある女性も同じく頭を下げ、あらためて謝られた。


「息子を助けていただいた方を裸で拷問のうえ、食事も出さずこのような場所に一晩閉じ込め、本当に申し訳ありません。何かできることがあれば何でも仰っていただければ、できる限りのことはさせていただきます」


あっ! それいただきました。


「では、有力者の方を紹介していただけますか。重要なお話があるのです」




「では、私が直接聞きましょう」


「えー!!宰相様が?いいのですか?」


「お礼どころか、大変失礼なことまでしたのですから、私が直接聞き、できるだけ便宜は図らせていただきます」


「ありがとうございます。知り合いがいなくて困っていたのです。強がりですが、牢屋に一晩入るくらい、玉子をぶつけられたことに比べたらたいしたことないですよ」


宰相と直接話ができるなら、この程度はさらりと流せるわけではないが、チャンスだ。



それから牢の鍵を開けてもらうと、女性が数人入ってきて、私の体を覆い処置室まで運んで治療してくれた。数日入院したが、私が早く会いたいと望んだので有力者に会えることになった。まだ一人で歩くのは辛いが補助者がついている。


私を治療した女医に聞いてみたが、やはり何カ所か傷跡が残るらしい。特に胸の傷は消えないと言われた。ドレスを着ると傷が見えてしまうが、私が紹介して貰う有力者と会う正装はドレスらしい。



私は、有力者から食事に招待された。歩くのもやっとだから、介添(かいぞ)えを受けている。口の腫れは引いたが傷跡はまだ残っている。化粧で誤魔化しきれないが、この機会を逃すことはできない。



たかだか食事を摂るのに、なんとも広い部屋に案内された。



そこには、クレメスくんと牢屋に来た中年夫妻もいた。ハザロス・ナディモク宰相もいたが、中年男性の後ろで立っていた。



「先日は失礼しました。私はクレメスの父でヨルディスと申します」


「私はこの子の母でサーシャと言います」


「僕は知っていると思うけどクレメスだよ」


「私は妹のアメリスといいます」



「まあ、かわいいですわね。食べたいくらいですよ」


「牢屋で見たときと違い、君の髪は金髪ではないのだね」


「はい、訳あって簡易染めをしていました。この国も含めて私のような黒髪は見なかったものですから」


「そうだな。確か東の大陸に黒い髪の種族がいるらしい」


「そうなのですね。今度行ってみたいですね。ああ、そうでした。私の紹介が遅れましたね。私はフラニエル・ブリュノと申します。今はユヅキ・ミモリと名乗っています」


「おお!東の大陸の名前のようだ」


「おじさまは博識ですね」



「いや、昔同級生に東の大陸の者がいた。あいつも一国の主となってから忙しいようだが、今も文通くらいはしている。まあ、話はその辺にして食事をしよう。あとは食べながら話そう」


それからなんとも優雅な晩餐(ばんさん)が始まった。


「まだ口の中が少し()みますが、それにしてもこのスープは美味しいですわ」


「そうでしょ。シェフが素材を生かした料理をするのですよ」


「でしたら、私の育てている野菜でしたらもっと美味しくなるかもしれません。今度私の土地で植えている野菜を送りますわ。とても美味しいですよ」


「それはうれしいですね。私も嫁入りしてからここの野菜が何か物足らなかったのですよ」


「たぶん、肥料の関係でしょう」


「まあ、そうなの?もっと教えて欲しいですわ」


「私のつたない知識でしたらいつでもいいですよ」


私はなんとなく雰囲気で相手が誰か分かってしまった。


「あなたは医学にも詳しいし、野菜にも詳しい。だからでしょうね。息子が帰ってからは、あなたがいつ来るのかウロウロして待っていたのですよ」


「私は歩きですから、それなりに時間が掛かりました」


「まあ、それならば、一緒に帰ればいいのに。そうすれば、こんな(ひど)い目に遭わせなくて済んだのに。クレメスは役に立たない子ですね」



「お母様、そんなこと言わないでください。すごく後悔しているのです」


「あらら、告ることもできない意気地無しっ子が一人前に言いますわね」


「ううう……」




なんと穏やかな晩餐だろう。父と過ごしたあの時間が戻ったようだ。父は、カルロスに任せている。父も最近は畑に水をやるくらい回復してきた。早くあの頃のような親子に戻りたい。この親子はとても明るい。いい家庭だ。


食事が終わり、デザートが出された時点でハザロス・ナディモク宰相が私に話しかけた。


「ところで、重要な話とは何でしょうか?」


「ここでいいのですか?」


「人払いはしました。ここには国王と王妃、皇太子、皇女様しかいません」


「?……」


「ユヅキ様どうされました?」


「その~国王って?」


 なんとなくは分かっていた。宰相が気を遣う相手なんて国王くらいしかいない。だけど本当に確信したのは宰相がペコペコしていたからだ。


「あなたの目の前にいらっしゃる方です」


そうですねよね~。それしかないですよね。途中から言葉遣いを変えられなかった。やらかした。


「しっ、失礼しました。知らぬこととはいえ、ため口で話してしまいました」


「いいえ、いいのですよ。息子の恩人に酷いことをし、一生消えない傷跡を残したのはこちらです」


「ああ、構わない。実に楽しい食事だった」


「お姉ちゃん、私こんな楽しい食事だったら毎日お姉ちゃんに来て欲しいよ」


「僕は……ここにずっといてほしい。できれば……これからも、ずっと……いたい」


「あらら、クレメスちゃんは告るにしても、最後が尻切れですよ。もっとしっかりしないとね」


「それはまたにして、私のお話をしていいですか」



「はい、お願いします。宰相として、その話に最適な者をご紹介しましょう」



私は、国王一家と宰相がいる前で金鉱石のことを話した。


「……ということで、まず採掘のための資金と労働者、それに運搬のための手段がありません。お力を貸していただければと思いここまで来ました。詐欺(さぎ)ではありませんよ。鉱石を持参しています。ご確認ください。それだけでは信用できないと思います。私の父はそれで(だま)されましたから」



「セタイト王国内であればいくらでも手を貸すことができますが、隣国とはいえ他国の鉱山を私どもが直接採掘することはできません。それぐらい分かっていらっしゃると思いますが、ここまで来られたということは、何か手段をお持ちなのでしょうか?」


「はい、ハザロス様、私に考えがあります。協力していただけるのであれば、ホスミン金銀鉱山までの土地をセタイト王国の管理地として通行することができます」



△△△

帰りは行きと違い豪華な馬車で帰る。一緒にセタイト王国の鑑定士と山師が同行した。国境を出るときは黒髪でフラニエル・ブリュノとして出た。帰りは金髪のユヅキ・ミモリとして戻る。国王の隠し子という肩書きでセタイト王国から留学の準備として入国する。付添人は100人いる。王家だからそれだけいても何の問題もない。この内95人は今回の工作員だ。1人は医師で父のためだ。1人は宰相だ。留学の挨拶に行くようだ。手土産も忘れていない。宰相は貴族学園に相当額を寄付したようだ。



「この坑道はよく整備されていますね。しかも低い山だから掘りやすい。金銀の含有量もセタイト王国内の金山よりも多い。良質な金銀鉱山ですね」


鑑定士は良質な鉱山だと判定してくれた。山師は石層を調べ私の生きている間には閉山することはないほどの量があると太鼓判を押してくれた。


それから、私はセタイト王国に戻り、正式に留学のための使節団を大勢連れて戻った。数百人いたがセタイト王国の王族だから誰も疑わない。前列は正式な使節団だが、残りの多くは主に鉱夫だ。



そして、私はセタイト王国の王家の貴族としてビジストリア王国に1ヶ月の留学をすることになった。その間に優秀な工作員は私の計画を実行していき、マリフェン侯爵領とケスティ伯爵領は99年間セタイト王国の管理地となった。



△△△

ホスミン金銀鉱山の採掘を始めて3ヶ月が経過した。旧マリフェン侯爵領の銀山は閉山したが、ホスミン金銀鉱山の採掘量は日々増えた。本坑も隠し坑道から迂回して復旧したところ、まだ十分に採掘量が見込まれた。ホスミン金銀鉱山は西に向かって進む隠し坑道と北に向かって進む本坑の両方でジャンジャンバリバリ出ている。


ビジストリア王国は指を()わえて(くや)しがっている。旧マリフェン侯爵地の管理権は99年あるから私が生きている間はセタイト王国は金銀で潤う。

それに父が採掘を(あきら)め、今回の計画に使った鉱山も現在採掘している。私の前世の時代劇の刀の作り方を思い出し、その手法を教え、硬い採掘道具を作り出した。そのおかけで、ホスミン金銀鉱山の採掘速度も飛躍的に上がった。99年間あれば廃坑にするまで全部採掘できる。




◇◇◇

ところで、今私は教会にいる。


今日はクレメスとの結婚式だ。


クレメスは私と同じ歳だった。父も元気になった。昔のようではないが、元気になって嬉しい。これから父と私がバージンロードを歩く。


正面にはクレメスが待っている。


白いドレスの胸元から見える傷跡は私の勲章だ。


さあ旦那さんの元に行こう。


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